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天上を目指す者  作者: 水平線
第一章
11/19

バベルへ突入


 翌日、アークとレオナルドの両名は完全装備でバベルの前へと来ていた。二人はバベルに入るのは起きてすぐというわけではなく、昼ごろの体がきちんと目覚めた時間を選んでいた。


「遠くから見てもでけえけど、下から見上げるとすげえな……」

「これをある日突然女神が建てたんだよな? 力の無駄遣いじゃねえかよ」

「いや、それまで見つけることすら難しいと言われた天上の国へと続く道をわかりやすく作ってくれたんだから感謝すべきだ。ま、辿り着いた奴なんかいねえけど」


 ランカトゥーリスがバベルを創ったのは、たった二人のためである。自身と同レベルの力を持つ男とそれに及ばないまでも優秀だった女が自らの元へと楽に辿り着けるようにするためにわかりやすい形としてバベルを創った。

 もちろん、他の者達が辿りつこうとも大歓迎ではあるが、有象無象が辿り着いても仕方がない。そのため、二人を基準に考えて創られたバベル攻略には要求する強さが高かった。

 バベルは全十階層から成ることは創った当人であるランカトゥーリスしか知らないことだが、未だ八階層の地を踏んだ者すらいない。しかし最近、バベルへ挑む者達の強さは平均すると増加傾向にあり、近いうちに攻略者が出るのではないかとランカトゥーリスが考えていることを天上に住む神達ですら知らない。


「とにかく入ってみよう」


 アーク達がバベルに入ってまず辿りついたのは広大な空間だった。五階建ての建物がいくつも入りそうなその場所はバベルの庭と呼ばれる広場だ。広場の中央には女神ランカトゥーリスから賜った言葉が刻まれた巨大な石碑がおいてあり、それを中心として小さな池がある。ここはバベルへと挑む者達が仲間との待ち合わせによく使っていることで有名だ。


「あれが噂の託宣の石碑か……こりゃまたでけえ」


 石碑は縦五メトル、横四メトル、厚さ一メトルの大きさであり、よく目立つ。


「あれを見ると女神ってお伽話に出てくる巨人って奴かと思えるな」

「そうか? 人と変わらない大きさで一生懸命石を運んで彫ってる姿を想像した方が笑える」


 レオナルドの言葉に本当に愉快そうにアークが答える。アーク自身には夢とも記憶とも判断しているランカトゥーリスの姿がどうしても先入観としてあるため、巨人の女神を想像すること自体が難しいのだった。


「石碑はどうでもいいが、あれがバベル内部への入口か?」

「おう、白い方が入口で黒い方が出口らしい」


 アークが指差す先には巨大な門がある。それぞれの門の先は光と闇によって中を窺い知ることは出来ない。だが、レオナルドの言う通りそれは入口と出口に分かれており、引っ切り無しに人がそこから出入りしている。


「黒い方から入ろうとしても壁みたいなのがあって入れないらしいんだよ。んでバベルの中に入って外に出ようとすると必ず黒い方から出てくるみたいだ」

「まあ、この人数だから出入口も一緒だとうぜえことになりそうだしな」

「だな。んじゃ、確認するぞ? 今日は様子見で二、三時間進んだら引き返す。いいか?」

「ああ」

「よし、それじゃあいざ、冒険の旅へ」

「日帰りだけどな」

「水を差すなよ」


 二人は人の流れにそって光溢れる門をくぐった。






「おお……これがバベルか」


 レオナルドが感嘆の声を上げる。

 門をくぐった先には森が広がっており、そこに申し訳程度の道が走っていた。塔の内部なのかと疑いたくなるほどの天井は高い。


「で、他の奴らはどこに行った?」


 アークは周りを見回しながら言う。

 アーク達が門をくぐった時には多くの人がいたというのに周りには数えるほどの者しかいない。


「バベルは中の至る所に出口へと通じる門があるんだが、そこから出たら次に入る時はその門からになるんだよ」


 その説明を聞いてアークは周りにいるのは自分達と同じ初心者か先へと進めない雑魚だと判断して一人一人の顔を見ていく。

 基本的に若い者が多いが、中には歴戦の勇士みたいな風体の男もいる。

 どんな者だろうと始まりは等しく同じという言葉がアークの胸のうちに浮かんだ。


「んで、上の階層に行っちまうと下へは戻れない。これこそがバベルで死者を量産するシステムなんだな」


 上の階層に行くほど現れる魔獣は強くなる。己の力を過信した者がその餌食となるのは日常茶飯事だ。


「一階層は比較的易しいが、それでも十分の三くらいは死んじまうらしい」

「弱い者は死んだ方が世の中の為。俺のモットーが体現されてるわけだ」

「とりあえず最初でいきなり死んじまうのはカッコ悪すぎるから慎重に……」

「すいませ〜ん、ちょっといいですか?」


 アークとレオナルドが話し合っているところに声がかかる。

 声をかけたのは頭に角を一つ持つ黒髪でショートの少女。赤い軽鎧に身を包み、ショートソードを腰に装備している。取り分け美人というわけではないが、可愛らしい外見をしている。


「邪魔だ。消えろ」

「まあまあいいじゃないの。んでお嬢ちゃん何か用?」

「あ、えっと、うちらバベルに挑むのは初めてなんですけど、良かったら一緒に行きませんか?」


 そう言って少女は後ろを見る。少女の後ろには同じく頭に一つ角を持つふくよかな体形の少女がいる。手に杖を持ち、白いローブを着ているだが、出張ったそのお腹でローブが押し上げられているのがよくわかる。また、少女は赤茶色の髪を背中にかかるくらいまで伸ばしており少し野暮ったい印象があった。


「うん、断ります」


 すごくいい笑顔でレオナルドは宣言した。


「お前の大好きなデブじゃねえか」


 そして断ったレオナルドに対してアークは問い掛ける。軽鎧の少女は見るからに平坦な胸をしているが、ふくよかな少女はレオナルドにとっては大好物な生き物だろうとアークは思っている。

 完全に相手に聞こえるような声で言うものだからふくよかな少女は気分を害したように顔をしかめさせた。


「ばっか! 世のふくよか女性が皆胸が大きいと思ったら大間違いだぞ。胸の小さい肉厚女性も存在するんだ。ああゆうのはただのデブなんだよっ!」


 レオナルドの言葉にアークはふくよかな少女の姿をじっと見る。確かに腹とは違い胸の出っ張りは控え目である。レオナルドは巨乳ならばどんな容姿だろと気にはしないがそれだけにこだわりもすごく、また、見ただけで偽乳などを見破り、大体の大きさを判断する眼力を持っていた。


「確かに、調教もされてねえのに早くも雌豚になってやがる」

「だろ?」


 アーク達は本人を目の前にして凄く失礼なことを平気で話し合っていた。




 それを聞いて少女達は憤慨した。いや、正確にはふくよかな少女のみが憤慨していた。


「あいつら最悪なんですけど?」


 言葉に明らかな怒気が篭っている。


「でもでも〜、あんなカッコイイ人とはお近づきになりたいじゃん」

「そんなん無理に決まってるんですけど?」

「何事も一歩を踏み出さなくちゃ可能性はゼロよ。でも一歩を踏み出したら可能性はゼロじゃないっ!」

「つーかあいつらあたしを見てまた失礼なこと言ってるんですけど?」

「それはフレイがそんな体形してるのが悪いわよ。で、フレイはどっち派? うちは銀髪の子!!」

「あたしはどっちもダメだわ……でも強いて言うならあたしも銀髪の子なんですけど?」

「じゃあどっちがあの子のハートを掴むか競争ね!!」

「まずは一緒に行けるかどうかなんですけど?」


 二人の少女達はアーク達に聞こえないように小声で話し合った。




「俺はあいつらと一緒に行ってもいいと思う」


 アークの言葉にレオナルドは驚く。しかし長年の付き合いから親友があまりよくない考えを頭に浮かべているのを察し、それを承諾した。


「んじゃ、お嬢ちゃん方、一緒に行こうか」

「え、いいんですか?」

「相棒がいいって言ってるからね」

「ありがとーございまーす。うちはリヴェイラ、こっちはフレイって言います。見た通り魔霊族でピチピチの十七歳です」

「オレはレオナルド、こいつはアーク。どっちも人間だ。よろしくね」

「呼び方は無個性とデブで決まりだな」

「……よろしくされてる気がしないんですけど?」


 新たに少女を二人加えた一行は連れ立って道を進む。レオナルドが今日は様子見である程度進んだら引き返すと告げるとリヴェイラ達もまた、そのつもりでしたと返した。

 ただ単にアーク達に話を合わせているだけなのは見え見えだったが、特に追求することはせずにアーク達は道を歩いていた。


「止まれ。何かいる」


 少し進んだところに生物の気配を感じ、アークは指示を出す。


「ありゃ、殺人猿(キラーエイプ)だな。単独みたいだが……」


 一行の前方にいたのは、大型の猿だった。ただ、その筋肉は見た目にも盛大に隆起しており、顔は凶悪で鋭い牙や爪を持っていることが離れた場所からも窺い知ることが出来た。


「ちょー強そうなんですけど?」

「いや、殺人猿(キラーエイプ)は通常群れで行動しているらしいから単独だったらそう脅威ではない……はず」


 仕入れた情報を思い出しながら、レオナルドは魔獣の情報を全員に伝える。


「とゆーことは殺り時ってこてですよね」

「ま、初めての戦いにはお誂え向きだな。アーク、作戦を練ろう……ってあれ? どこ行った?」


 そばを見回してアークの姿を探すが、思っていた場所にいない親友の姿にレオナルドは若干焦った声を出す。


「アーク君なら猿のとこに行ったみたいなんですけど?」

「マジ?」


 レオナルドが目を向けるとそこには自分達には制止をかけておいて悠々と殺人猿(キラーエイプ)に向かって歩いていく親友の姿があった。

 その姿はすでに殺人猿(キラーエイプ)に補足されたらしく、殺人猿(キラーエイプ)が凄まじい勢いで迫って来ていた。


「アークっ!」


 レオナルドは少女二人を置き去りに親友の元へと駆けていった。


 対してアークは自分に迫り来る殺人猿(キラーエイプ)の姿を無表情で見つめていた。近づく殺人猿(キラーエイプ)の姿は二メトルと五十センチメトルくらいあり、アークの予想以上に大きかった。

 しかし、アークの胸のうちには根拠のない自信に満ちていた。こんな雑魚に自分がやられるはずはない――と。

 アークは槍を構える。バベルに入った時点で穂先を包んでいた布は取り去っている。準備はすでに万端。


「こい」


 ただ一言殺人猿(キラーエイプ)へと向けて言葉を放つ。理解しているのかいないのか、殺人猿(キラーエイプ)はアークに肉薄し、その腕を振り上げていた。

 アークは振り下ろされる腕をバックステップしてかわし、槍を振るう。その攻撃は殺人猿(キラーエイプ)に当たり、腕に小さな切り傷を作ったが、ただそれだけ。致命傷どころか大した傷にも至らない。


「アークっ!」


 そうこうしているうちにレオナルドがアークのすぐ後ろまで駆け寄ってきていた。

 その手にはすでにソルジャーアックスが握られているが、武者震いなのか少々小刻みに震えている。


「レオ、下がってろ」

「いや、オレもやるぜ」


 アークの言葉に年上なのに心配されてしまったと感じたレオナルドはカッコ悪いところを見せられないとばかりにアークの前に出ようとする。


「いや、もう終わってる。だけど効くまではもう少しかかるようなんだ。それまで下がってくれ」

「はあ?」


 アークの言葉にレオナルドは疑問符を浮かべるが言う通りに下がる。

 そして始まったのはアークが殺人猿(キラーエイプ)の攻撃をただかわすだけという光景。

 殺人猿(キラーエイプ)は小さいながらも自身の体に傷をつけたアークという存在しか目に入っていないのか少し離れたところにいるレオナルドやそれに近づいてきた少女には目もくれず執拗にアークを攻撃している。それにアークは反撃ひとつせずに逃げるだけ。


「加勢した方がいいと思うんですけど?」

「そうですよ。やられちゃいますって」


 その光景を見た少女達はレオナルドに言いながら各々の武器を構えるが、レオナルドはそれを手で制す。レオナルドには親友の顔に意地の悪い薄ら笑いが浮かんでいるのを見逃さなかった。

 程なくして不意に殺人猿(キラーエイプ)の動きが鈍り出した。


「……なるほど。大体これぐらいで効き目が出るのか」


 アークが待っていたのは槍の穂先に塗った毒。多少効くのに時間がかかるというそれがどれくらいで効くのかを試していたのだ。

 そしてアークは槍を払い、殺人猿(キラーエイプ)の顔面にそれを当てた。

 そして槍を引き、それを突く、突く、突く。

 三度突いたところで殺人猿(キラーエイプ)が地に倒れるがまだ絶命はしていない。


「レオ」

「どうした? 殺さないのか?」

「その斧でドタマをかち割れ」

 

 アークの言葉にレオナルドは若干の躊躇を見せたが、すぐに覚悟を決めて倒れ伏す殺人猿(キラーエイプ)へと近づく。


「いいんだな?」

「生き物に傷を与える感触ってのを知っとけ」

「わかっ……たっ!!」


 レオナルドはそのままソルジャーアックスを頭上高く振り上げて殺人猿(キラーエイプ)の頭へと振り下ろした。固い物の次に何やら柔い物を断ち切った感触がレオナルドの手に伝わる。

 ソルジャーアックスを上げると殺人猿(キラーエイプ)の脳らしきピンク色のものが見え、それがレオナルドにはとてつもなくグロテスクに思えた。

 そして不意に殺人猿(キラーエイプ)の死体が消え、後には白い水晶のような板が残る。


「おっ、魔晶板だ……うおっ」


 いきなり心臓が大きく脈動する感覚にレオナルドが驚きの声を上げる。そして同時にアークもまた同じ感覚を覚えていた。


「なんだ今の?」

「スキルカードを見てみろ」


 その感覚に覚えのあったアークは親友へと声をかけ、自身もまたスキルカードを取り出す。


《新たなスキルを得た》

【スキル名】槍術基礎(槍装備時の攻撃力微増)


《新たなスキルを得た》

【スキル名】兜割り(武器を振り下ろした時一・五倍の破壊力)


「や、やった……スキルゲットー!」

「微妙……」


 初めて得たスキルに大喜びするレオナルドと対照的に本当に微妙そうな顔をするアーク。

 置いてかれた二人の少女達はどう声をかければいいのかと思いながら立ち尽くしてその二人の男達の姿を見つめているのだった。



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