42.友達になるしかない
王太子妃殿下主催のお茶会へ招かれ、王宮に到着すると、私はそのまま庭園へと案内された。
石畳の小道を進むと、手入れの行き届いた芝生と花壇が広がっている。王宮の庭園特有の静かさの中に、どこか緊張が漂っていた。
ラルは案の定、王子のいる部屋へと連れて行かれた。
侍従に案内されながらも、少しだけ不安そうに眉を下げ、それでも私を振り返っては胸を張る。
「一歳、大人になりましたから」
年相応の背伸びが微笑ましく、その背に声援を送った。
庭に設えられた円卓では、王太子妃殿下とアーガントン侯爵夫人が並んで腰掛け、すでにお茶を楽しんでいた。カップから立ち上るハーブティーの香りが、庭の空気に溶け込み、場をやさしく包み込んでいる。
促され、席に着く。
「王太子妃殿下。秋って、おっしゃっていましたよね」
唐突な問いかけに、妃殿下と侯爵夫人は顔を見合わせ、息を合わせたかのように首をかしげた。
「ライクスバート辺境伯夫人のことですよ。秋の夜会って、確かに」
「ああ、そのことね」
妃殿下は思い出したように微笑み、カップをソーサーに戻す。
「私はあの子への手紙に、秋の夜会まで楽しみにしていてねって、ちゃんと書いたわ。でも、ふふ、やっぱり会いに行ったのね」
王太子妃殿下の言葉に、アーガントン侯爵夫人が肩を揺らしてくすりと笑った。
「待ちきれなかったのでしょうね。あの子は、思い立ったらすぐに動くものですもの。まったく、オリヴィエットったら、そんな書き方をしたら、ディアーヌが行かないはずがないでしょう」
お二人とも仲が良いのだから、少しは予想できたのでは、と思わずにはいられない。
「ええ。急に馬で颯爽と現れて、勝負を挑まれました」
私がそう告げると、二人は顔を見合わせ、愉快そうに笑った。
「ふふふ、おかしいわ。本当にその場を簡単に想像できるところが、いかにもあの子らしい」
重なる穏やかな笑い声に、ため息をばれないようにつく。
「ディアーヌが、直情型だというのを、つい忘れていたわ。許してちょうだい」
嘘ですね。確信犯ですわ、と心の中でそっと呟く
「でも、うまくいったのでしょう? そうだわ。お詫びに私たちの名前を呼ぶことを許可するわ」
お詫びになっていませんが……。
「いいえ、光栄と思いますが、恐れ多いことでもありますので、ご遠慮いたします」
即座にそう返すと、王太子妃殿下は楽しそうに目を細めた。
「公の場以外でいいのよ。ミレイユもそうしているし。それに、こんなふうに直々にお茶会に呼ばれているのですもの。もうお友達と言っていいわ。むしろ、社交界ではそう噂されているわよ」
なんですって! ……いえ、そう言われれば、確かに。噂になっていても不思議ではない。いろいろな意味で。
「あなたのこと、気に入ってしまったのよ。私たちのために頑張ってくれるのですもの。だから、責任を取って友達になるしかないわ。諦めて」
友達とは、責任でなるものだったかしら。
「ほら、言ってみなさい。オリヴィエットと、ミレイユよ」
逃げ道は完全に塞がれていた。言葉以上に、視線と空気の圧を感じる。仕方がない、では――。
「では……オリヴィエット様、ミレイユ様。これからよろしくお願いいたします」
「ええ、アイラ。よろしくね」
ひと息ついたところで、自然と話題は次へと移っていく。
「ところで、子供たちは今、何をしているのでしょうか?」
私がそう尋ねると、王太子妃殿下は庭の奥を指さし、穏やかに微笑んだ。
「ここから見えるわ。ほら、あの部屋よ。三人でお茶をしているの。来年は同級生ですもの、仲良くしてほしいわね」
示された方向へ目を凝らす。庭園の向こう、窓越しに見える小さな応接室では、確かに三つの影が並んでいた。身振り手振りを交えながら、ときおり顔を見合わせて笑っている様子が、遠目にも分かる。
良い雰囲気ね。
ほっと息をつく。子供たちなりに築いていく関係を、静かに見守るのが一番なのかもしれない。
「そういえば、アイラ。あなた、結婚式はどうするの?」
「私、後妻ですので……」
一瞬言葉を選びながら、静かに答える。
「小さな規模で行おうかと考えております。教会で式を挙げた後、身内だけでホームパーティーを開く予定ですわ」
「そう」
妃殿下は頷き、迷いなく言葉を続けた。
「では、結婚式のほうに私たちも呼んでちょうだい。ホームパーティーは、家族水入らずでしょうし」
一瞬、言葉に詰まる。
「……“私たち”、とは?」
恐る恐る問い返すと、妃殿下は当然のように指を折った。
「私とミレイユ、ディアーヌ。それから、それぞれの夫よ」
夫を、パートナーとして連れて? 思わず内心で反芻する。
「……本気ですか?」
「もちろん本気よ」
即答だった。なぜ、夫たちも……。式も身内だけ、と思っていたのに。
「ほら、何事もけじめは必要だと思わない? 新しい門出を目にして、どこか、これまで曖昧にしてきたことに、きちんと区切りを付けさせるの」
ミレイユ様が、穏やかながらも意味深に言葉を重ねる。
はい……なるほど。なんとなく、察しました。
覚悟を決め、私は小さく息を吸う。
「喜んで、ご招待いたします」




