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【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう ~目覚めたら、見知らぬ夫と息子――ヒロインだった黒歴史が待っていました~  作者: 楽歩


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23.ララの置き土産

 ***ララの日記***



 転生者と言ったら、知識を生かして商品開発。大儲けよ。


 この世界に来てからずっと、いつか自分の知識で何かを成し遂げてやろうと思っていた。学院も終わって、日々は急に静かになっちゃったし。


 やることがなくなってしまったら、別にいいでしょう。ストーリーに関係ないけど。


 そうと決まったらレオに相談しなくちゃ。あの人なら、何だって受け止めてくれるはず。


 *


 レオが「君のお願いなら」って言って、商会を立ち上げてくれた。


 さて、何を作ろう? 食べ物かな。でも私、料理そんなに得意じゃないのよね。石鹸とかコスメ系もありだけど、材料とか全然わかんないし。


 まあ、いいか。


 雰囲気さえ伝えれば、あとは何とかなるでしょう。


 *


 ……ならなかった。


 食べ物は「レシピがないと無理です」って。味のイメージは伝えたでしょ? あとは試行錯誤しなさいよ。


 商人も職人もそろって「前例がありません」って渋い顔。


 そこをどうにかするのが仕事じゃないの?


 化粧品も「作り方が想像できません」って。私だって知らないわよ。作ったことないんだから。「こんな感じの容器に入ってた」って言ったんだから、そこから想像しなさいよ。


 ボードゲームに至っては「他国に似たものがあります」とか言い出すし。


 もしかして、私以外にも転生者いる?


 家電なんて、もう完全に理解されなかった。


「夢物語ですね」だって。


 どうせ内心は、現実見ろとか思ってたんでしょ。顔に出てたわよ。


 あるのよ、現実に。あなたたちが知らないだけで!


 ああ、つまらない世界。


 誰も分かってくれない。


 *


 ずっと気持ち悪いと思ってたら、妊娠してた。


 この子が生まれて少ししたら、私も伯爵夫人。仕事どころじゃなくなるわよね。


 もう、商会はいいや。


 レオに妊娠のことを伝えたら、きっと「君の好きにしていい」って言ってくれる。そう思ったら、すごく気が楽になった。


 よし、終わり。


 よく考えたら、私が稼ぐ必要なんてないのよね。


 お金はレオが稼いでくれるし、私はただ、優雅に暮らせばいいんだから。





 *****




 sideアイラ






 ラルが生まれる前の年の日記を探し出して読んだ。時々、気になる内容が目に入ったが、見なかったことにした。いや、考えないようにした。



 商会に関わる話を読み進めるにつれ、頭がじわじわと痛み始める。


 レオナール様が、だんだん不憫になってきたわ。


 ララに愛はあったのかしら?



 日記に列挙されている品々は、文字を追うだけで頭に鮮やかに浮かぶ。“ララ”の知識なのだろう。確かに欲しいと思える物が多い、便利なものもたくさんある。商品として売れるだろう。



 だけど――。



「いや、無理でしょう」



 小さく呟いた声が、広い部屋に空しく吸い込まれる。



 新しいものとは、長い年月をかけて人々が苦心し、工夫を重ねて作り上げてきたもの。材料を整える人、技術を磨く人、それを求める社会。あらゆる条件が絡み合って、初めて世に出る。



 欲しい。

 無理。

 諦める。



 なんて、無責任な。


 かかるお金も、労力も、まるで自分とは関係のないことのように扱っている。これが昔の自分だったかと思うと、嫌悪が広がる。



「はぁ……」



 ため息を吐き、日記を閉じかけて、ふと手を止めた。


 今の商会の人は、ここに書かれている“渋い顔”をした人と同じ人物なのかしら。部屋の静けさが、私の心の動揺を鮮明にする。


 皺の寄った眉、口元に浮かぶ哀愁。紙の上の描写が現実とつながる予感に、背筋に冷たい物が走る。



 その可能性が高いわね。会うのが……少し怖くなってきた。


 でも、そうも言っていられない。



 頭の中で、自分自身に言い聞かせる。暖炉の微かな暖かさが掌に戻り、私を現実に引き戻す。



 ラルの妊娠について書かれた部分。日記のどこかには書いてあるだろう、そう思っていた。そして、私は、もっと喜びに満ちた言葉が並んでいるのだと、勝手に思っていた。


 ……これだけ?


 短く、素っ気ない行間が返ってくる。期待と現実の落差が胸を冷たく締めつける。


 紙面には、祝福よりも、何かをやめるための理由づけのような文面。どこか歯切れが悪く、喜びより、言い訳の匂いがする。そこに私が求めていた温かさはなかった。


 怒りのあまり、思わず日記を暖炉に投げ入れかける。


 紙が炎に触れたら、すべてが灰になる。全てがなかったことになる。そんな衝動が胸を駆け巡る。そんなわけがないのに。


 火の粉が舞い、赤い光が瞬いた。火の粉がこちらに飛んできたが、熱さなど感じない。




「悔しい――」



 ぽつりとこぼれた言葉。なぜこんなにも、悔しいのか。




「ラルの誕生日は、盛大に祝うわ。浴びるほどの愛の言葉と共に」



 たとえ大きくなって、照れて嫌がるようになったとしても。


 心の中で強く強く誓う。



 さてーー



 商会には、手土産の相談をするつもりだった。でも、この状況であれば、相談ではなく、何か、提案も考えなくてはならない。


 頭の中で案をめぐらす。



 ええ、ララ。



 あなたが諦めた商会を、きっと私が何とかしてみせる。


 呟いたその言葉には、暖炉の火よりも確かな熱が宿っていた。





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