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【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう ~目覚めたら、見知らぬ夫と息子――ヒロインだった黒歴史が待っていました~  作者: 楽歩


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11.予期せぬお客様

「皆、おはよう」



 朝食のために三人でホールへ向かうと、レオナール様はもう席に着いておられた。



「遅くなり申し訳ありません。お早いですね」


「ん、少し眠れなくてね」




 眠れなくて?


 よく見れば、目の下にうっすらと影が落ちている。なぜかしら?


 ……まあ、私も似たようなものだけれど。




「今日から仕事に戻ろうと思ってね。クラリスを一度向こうへ連れて行って、そのまま着替えたら仕事場に向かうつもりだよ」




 そう言って、リズをひょいと抱き上げる。突然のことに、リズは、ぱちぱちと瞬きを繰り返していた。




「クラリス。お父様はもう行かなきゃいけないから、朝ご飯は向こうのお屋敷で食べようね?」


 だがリズは、首を傾げながらぽつりと言う。




「……お母さまは?」


「お母様かい? ここに残るよ」


「ごめんなさい、リズ。お母様はまだ行けないのよ」


 私が答えると、リズは小さく唇を尖らせた。




「おろして、お父さま」


 レオナード様がたじろぎながら、そっと下ろす。


 下ろされるなり、リズは勢いよく私の元へ駆け寄ってきた。慌てて抱き上げると、小さな腕がぎゅっと首に巻きつく。



「クラリス、どうしたんだい? さあ、時間がないんだよ。こっちにおいで」


「いや!」


 短い声が、意外にも大きかった。レオナード様が困ったように眉を寄せる。




「昨日からどうしたんだろう。こんなわがままを言う子じゃなかったのに」


「だって……積み木……絵本……ぐすっ」



 泣き出しそうな声。なるほど、理由はそれね。




「積み木も絵本も、あちらにたくさんあるよ? ルーシーが一緒に遊んでくれるはずだ」


「ちがう!」



 レオナード様の言葉に、リズはブンブンと首を振った。




「旦那様、僭越ながら……」


 傍らにいた侍女のルーシーが控えめに口を開く。



「クラリス様は、お着替えのときにお兄様と積み木で遊ぶのをとても楽しみにしておりまして。それに本も読んでもらうのだ、と……」



 ラルが、喜びを隠しきれない様子で、でもすぐに困ったなという顔になった。




「そんなに楽しみにしていたの、リズ? どうしよう、お母様」


 視線が、助けを求めるように私へ向く。



「レオナール様、リズはここに置いて行って、仕事へ行ってください」


「いいのかい?」



 リズが嬉しそうに顔を上げる。



「ええ。連れてきてと言ったの私ですし、お着替えは、ルーシー持ってきてくれる?」


「もちろんでございます」


「それじゃあ、リズ。お父様が帰ってくるまで、ここでお留守番しましょう。お母様とお兄様が一緒に遊んであげる。それでいい?」


「はい!」



 あっという間に笑顔復活。子どもの笑顔の切り替えは本当に早い。




「レオナール様は、今日もこちらへお戻りになるつもりでしょう?」


「も、もちろんだとも」


「では、二度手間になりますので、ご遠慮なくリズは任せて、お仕事、頑張ってくださいませ」


「頑張って、お父様!」


「がんばってー!」


 声を揃えた私たちに、レオナール様はなぜか、大きなため息をついた。




「……あ、ああ。行ってくるよ」


 去っていく背中が、ほんの少しだけ寂しげで。


 こちらを何度も何度も振り返っているものだから、ついには、ルーシーにも置いていかれてしまった。



「さて。二人とも、ご飯にしましょうか」


「「はーい!」」


 朝の光が差し込むホールに、楽しげな声が弾んだ。




 *****





「じゃあ、みんなで積み木を綺麗に磨いてから遊びましょうね」


「しばらく遊んでいなかったから、ちょっと汚れているね」



 ラルが手際よく布を配ってくれる。



 リズは真剣な顔で、ひとつひとつの積み木を丁寧に拭き取っていた。


 角の部分を指でちょんちょんと触っては、「ここ、きたない」と教えてくれるのが可愛くて、私は思わず頬がゆるむ。



 木目がつやりと光り始めると、ラルがいそいそと積み始めた。積み木は魔法のようにつぎつぎと積み上がっていく。塔が空へ向かって伸びていくみたいに。



「わあ! たかーい!」


 リズがぱちぱちと小さな手を叩く。その瞳がきらきら輝いて、ラルは得意げに胸を張った。




「じゃあ次はお城だよ。ここが門で……」


「おしろ! おしろつくる!」


 ラルの横で、リズも小さな積み木を両手で抱えながら、あっちへ置き、こっちへ移し……ときどきバランスが崩れて、積み木が「カラン」と散らばると、朗らかな笑い声が部屋いっぱいに弾む。



 コンコンコン。


 扉を叩く控えめな音に、一瞬動きを止めた。



「ルーシーかしら? 早いわね」


 軽く首を傾げると、扉の向こうから侍女のメリッサが姿を見せ、丁寧に会釈する。



「お客様が来ております。今、対応できますでしょうか?」


「お客様……?」


 突然のことで、思わず聞き返してしまう。心当たりが、まるでない。




「ティアナ・ラングフォード、と名乗っておられます」


 ティアナ? ティアナですって!?



「ええ、すぐに伺うわ」


 ラルの方に振り返る。



「ラル。お客様がいらしたから、少し行ってきてもいいかしら?」


 積み木の塔に夢中になっているリズは、格闘中でこちらに気付いていない。




「いいよ。リズは僕がちゃんと見ておくね」


「ありがとう。お願いね」



 邪魔をしないよう、そっと部屋を出る。


 ――ティアナが来た。


 どうしましょう。


 心の準備なんて、何ひとつ出来ていないのに。



 胸の鼓動だけが早くなる。落ち着きなさい、と自分に言い聞かせながら、私は応接室へ向かった。






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