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オーロラと列車と僕たち

作者: 昼月キオリ
掲載日:2025/12/31

<登場人物>

佳月丈直(かづきしょうじ)(44)

水野涼馬(みずのりょうま)(26)

霞はるき(かすみはるき)(10)





今、俺たちの前に爆弾を持った犯人がいる。


薄暗い車内で、その男の影だけがやけに濃く見えた。

手に持っている爆弾はタイマーが少しずつ減っていく。

ナイフも持ってるところを見ると、爆弾が本物である確率は高い。


ここで動かなければ、一生この座席から降りられなくなる。

丈直と涼馬はそう思った。


列車の同じ位置にいた二人が、ほとんど同時に立ち上がる。

二人は合図も相談もなかったが、バッとこっちを見た。

僕には分かった。「今だ」と。

すぐに二人に駆け寄る。


犯人が慌ててこちらへ向かって来る。

三人は急いで窓の方へ。

列車は止まっていなければドアが開くことはない。


丈直が窓に手をかけ、一気に引き上げる。

ゴゴゴォォと、唸る風の音。


一瞬、空気が凍りつく。


僕が先に降り、次に大人の男の人が二人、同時に身を投げた。


ズシャアァ!!!


三人は斜面を転がり落ちる。

土と濡れた枯れ葉が絡みつき、痛みが遅れてやってくる。

列車の轟音が遠ざかっていく。


助かった。

そう思えたことは奇跡だった。


最初に立ち上がったのは40代くらいの男の人だった。

震える手で自分の体を確かめ、次に僕に手を伸ばした。


丈直「動けるか?」


僕は小さくうなずいた。

膝は擦りむけ、血が滲んでいる。

20代くらいのお兄ちゃんは、

僕ともう一人の怖い顔のおじさんの無事を確認すると、

息を切らしながら腕を押さえて線路の方を見上げた。

どうやら腕を痛めたらしい。


列車は止まらなかった。

まるで、三人など最初から存在しなかったかのように、闇の向こうへ消えていく。


丈直「本当に、逃げられたんだな」


三人は原っぱの上に並んで立っていた。


夜はまだ遠いはずだった。

僕が気付く。


はるき「あれ、まだ列車に乗ってからそんなに経ってないのにもう夜?」


丈直「本当だな」


涼馬「そう言えばそうだね」


はるき「じゃあ、さっきの列車は別の世界だったんだ!」


涼馬「まさか・・・」


丈直「いや、あながち、この子の言うことも間違ってないと思うぞ」


涼馬「え?」


丈直「列車が向かった方を見てみろよ」


涼馬「えぇ!?」


目線の先に、オーロラのような歪みの中に列車が進んでいく光景が広がっていた。


はるき「わあ、凄い!オーロラだぁ!!

あれ?列車が吸い込まれてった!?」


涼馬「じゃあ、やっぱりさっきのは・・・あの爆弾犯は一体なんだったんだ・・・」


はるき「んー、きっと僕たちが怖い何かじゃないかな?」


涼馬「こ、怖い何かって?」


はるき「う〜ん」


はるきが腕を組んで唸る。


丈直「もしかしたら、俺たちがそれぞれ抱えていた悩みか何かで、そこから逃げろって暗示だったとかな」


涼馬「そ、想像力豊かですね」


丈直「これでも作家だからな」


涼馬「ええ!?凄い!!名前なんて言うんですか?」


丈直「シャチだ」


涼馬「タイトルは?」


丈直「最近だとヨゾラとダイヤモンドだ。ま、全然売れてねーけどな。」


丈直が頭をガシガシっと短く掻いた。


涼馬「あ、じゃあ俺買います!シャチさんの」


はるき「僕も買うー」


丈直「ばーか、たまたま居合わせた俺に気なんか使わなくていい」


涼馬「気なんて使ってませんよ!」


はるき「僕のお小遣いで買えるかなぁ?」


丈直「お小遣いいくらだ?」


はるき「月に500円」


涼馬「それだと厳しそうですね」


丈直「まー、2か月分はかかるな」


はるき「そっかぁ・・・」


涼馬「僕、誕生日はいつ?」


はるき「2月4日、はるきって名前だよ」


涼馬「はるき君か、俺は涼馬、よろしくね」


はるき「よろしく」


涼馬「誕生日ちょうど来月だね。

ママとパパに誕生日プレゼントに買ってもらうのはどうかな?」


はるき「うん、それならいいって言うと思う」


丈直「せっかくの誕生日に俺なんかの本買ってもらうなんて可哀想だろ。」


涼馬「そんなことないですよ。」


丈直「せめておもちゃとかだな・・・」


涼馬「あ、そうだ。はるき君、少し早いけど俺からの誕生日プレゼント」


丈直「俺の話は無視かよ」


涼馬が500円をはるきに渡そうとする。


はるき「え!?で、でも、人からお金や物をもらっちゃダメってママに言われてるし」


丈直「ま、だろうな・・・なら本屋のチケットやるよ。これもまぁ物っちゃ物だが、

これくらいなら許してくれるだろ。」


はるき「いいの?ありがとう!!」


涼馬「なるほど・・・それなら俺はケーキの無料クーポンあげるよ。自由に使っていいやつだからさ」


はるき「わあ、ケーキ!!ケーキ!!」


ぴょんぴょん跳ねるはるきに二人の頬が緩んだ。



あの列車の中にいた犯人は、

はるき君やシャチさんの言う通り、現実世界で感じていた理不尽さだったんだと思う。

逃げ場がないふりをして、俺たちを縛り続けるもの。


だから、俺たちが列車から飛び降りたのは、

「そこから早く逃げなさい」という合図を受け取っただけだったんだ。



♦︎

夜空を三人で見上げた。

気付けば三人の怪我は星空の中に溶けていった。

その後、駅のホームに戻って列車に乗り直し途中で分かれた。



♦︎

僕はその後、いじめっ子たちのことをパパとママに話して引っ越すことにした。


涼馬さんは分からないけど

シャチさんの本は最近見つけたんだ。

読めなくてママに読んでもらったけどやっぱり僕にはまだ難しくて分からなかった。

また大人になったら読もう。


ママに教えてもらったけど、

「ヨゾラ」は人々の願いの分だけ夜空に花が咲くというお話、

「ダイヤモンド」は病気になって頑なになってしまった女の子の心を少しずつ癒やしていくお話らしい。




♦︎

はつみ「え、作家を辞める?」

丈直「ああ」

はつみ「本当にいいの?」

丈直「最後に一冊だけ書いて、それで辞めようと思う」

はつみ「そう・・・」


丈直「はつみ」

はつみ「なに?」

丈直「今まで作家活動支えてくれてありがとう」

はつみ「どう致しまして」


俺は最後に「ラストトレイン」という話を書いた。

同じ列車に居合わせた人々の人生を描いた物語だった。


そして、これからの時間をはつみとの時間に使いたいと伝えた。

俺が作家活動に専念できるようにと

子どもを持たずにずっと支え続けてくれた

はつみに少しでも恩返しがしたかったからだ。



♦︎

俺はあの後、仕事を辞めてフリーターになった。

アイス屋でバイトをしながらずっとやりたかった絵を描き始めた。

バイトが終わり、帰り道。


ぐぅ〜っと腹の虫が鳴った。

その時、目の前にハンバーガー屋の看板が見えた。


ハンバーガー食べたいなぁ・・・。


自動ドアを通る。


丈直「いらっしゃいませー」


涼馬「ハンバーガー一つお願いしまって・・・えぇ!?あなたはこの間の!」


丈直「ばか!声がデカい!」

涼馬「あなた、作家だって言ってましたよね?」


二人はヒソヒソと話す。


丈直「辞めたんだよ、最後の作品を書いた後でな」

涼馬「あの作品、最後だったんですね。読みましたよ、すっごくいい話でした」

丈直「そりゃどうも」

涼馬「シャチさん」

丈直「なんだ」

涼馬「もうちょっと愛想良くした方がいいんじゃないですか?一応接客なんだし」

丈直「うるせーな・・・はい、ハンバーガー一つ」


涼馬「ありがとうございます」

丈直「用が済んだらとっとと・・・」


言いかけて後ろから店長らしき人の視線を感じた。


丈直「またのお越しお待ちしてます」


にこおっと笑ってはいるが、引き攣り過ぎて妖怪みたいになっている。


俺は、片手にハンバーガーが入った紙袋を持ったまま、

両手でお腹を押さえて笑い出しそうになるのを耐えながら外へ出た。


丈直「くそっ、ハンバーガーしくじったか」


丈直は涼馬の笑いを堪えて震えている背中を見送りながらポツリと呟いた。

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