馬鹿王子地獄落とし~避けられないのなら微笑んで受けろ婚約破棄
「シュテファニー、クララの実家サハド家は駿馬に魔剣、宝具を献上してくれている。男爵家なのに感心だ。
それに比べてシュテファニーの実家は伯爵家なのに何もなしだ。どちらが伯爵家に相応しいのだろうか?」
殿下の隣に男爵令嬢がいる。薄い金髪にフワフワの髪で微笑んでいる。
表情が豊かだ。私とは真逆だわ。
婚約が破棄される。それは使用人のネットワークで分かっていたことだ。
文武百官と大勢の貴族、王妃殿下が見守る王宮の中で15歳の伯爵令嬢の私は緊張で押しつぶされただろう。半年前ならば。
「・・・よって、クララこそ、王子妃に相応しい。婚約は破棄だ!何か言うことはあるか?」
「ございます」
と私は言った。
一瞬、王子の眉毛は上がった。
私は一歩踏み出した。令嬢教育で培った表情が読めない無表情で上体がブレない歩行。本を頭の上に乗せて練習したわ。
対してクララ様はさっきから動きすぎだわ。
我が家では令嬢教育に投資したわ。欲しがり王子のおねだりに応える余裕はなかった。
殿下との間合いは一歩半まで近づいた。剣の間合いだ。王子の腰には剣がある。
私は背筋を伸し殿下と男爵令嬢に相対した。
「シュテファニー!婚約破棄を止めろと泣き叫ぶのか?面倒だから勘弁してくれよな」
破棄は覆らないし懇願する気もない。
もう、我が家門は没落が目に見えている。
「シュテファニー!〇×¥$~」
殿下は小さい。あまりにも小さい。その背にいる王妃殿下はあまりにも小賢しい。
その時、1人の殿方が割って入ってきた。
あの方は、ゲオハルト殿下の一つ上の兄、アルベルト殿下だ。
「ゲオハルト、令嬢にそのもの言いはない。私が仲裁しよう」
「兄上・・・これは、母上も承知しています・・」
アルベルト殿下に婚約者はいない。
色目を使う令嬢は多いが、剣術に専念して見向きもしないとの噂、実際は派閥の調整で時間がかかっている。
全く、王族は不自由ではないか?だが、私には関係ない。
私は介入を断った。
「アルベルト殿下、これはゲオハルト殿下と私の問題でございますわ」
「な、ご令嬢大丈夫か?・・・」
「お心遣い有難うございます。引っ込んでいて下さいませ」
「・・・・・」
アルベルト殿下は半歩下がって絶句している。
周りからも動揺の声が漏れ聞こえたわ。
「分かった。どうやら、私は必要ないようだな」
アルベルト殿下はヤレヤレと言わんばかりに踵を返した。
扇を持つ手に力が入る。ゲオハルト殿下は腰の剣に手をかけた。
斬られるのも良し。
だが、斬られる気がしない。ザハド家から送られた魔剣は宝飾だらけの実用的な剣ではない。
何よりも斬る覚悟が感じられない。
私はポケットの中に手を入れた。
すると、殿下の瞳は大きく開いて腰が落ちた。
「母上!、シュテファニーは王族である私を害しようとしています!」
「ゲオハルトを守りなさい!衛兵は身体検査はしたの?後で懲罰よ!」
王妃の命令で衛兵隊が動く。
私はハンカチをポケットから取り出し殿下の額を拭った。
「末の王子様、汗が酷いですわ。無理もありませんわ。これだけ大勢の高貴な方がいるのですもの」
「へ?」
私は微笑み。カーテシーをして殿下に言った。
「ゲオハルト殿下、今まで有難うございました。クララ様とお幸せにお暮らしませ。婚約破棄確かに承りましたわ」
衛兵は途中で止った。呆気にとられている。
私の頭の中には過去の事がまるで竜巻のように駆け巡った。
☆☆☆回想
私が10歳の時、王宮の園遊会に招待された。私と同じ年齢の子達が集められていた。
「この娘がいい」
まるでオモチャを選ぶようにゲオハルト殿下に指をさされた。
末の王子様、末っ子なのでせめて政略結婚ではなく、好きな子と娶せようとの処置だった。
我がゴルグ家は田舎の伯爵家。お父様は困惑した。
「な、シュテファニーは王子妃の素養がない。今から・・・令嬢教育を高度にする・・」
「はい、お父様」
無理して賢者や元王宮の教育係を雇い。慣れない社交にお母様は精を出した。
王子妃になるのだ。様々な家門や商人が縁を結ぼうとやってきた。
父は慣れない商売にも手を出す。
王子への後援をしなければならないからだ。
財政は火の車だ。
ゲオハルト殿下は自分の話を聞いてくれる子が好みだった。
「シュテファー、剣術の先生から一本とれたぜ!」
「ようございました」
王妃殿下はゲオハルト殿下に一方的に話すようだ。
母親に似たようね。
「シュテファー、馬が欲しい」
「殿下には立派な愛馬がおりますでしょうに」
「ダメ、言う事を聞かない。父上に頼んでもダメだの一点張りだ」
段々読めてきた。殿下は高位貴族から性格に難ありとみなされているのね。
殿下の欲しがりは激しさを増していった。
しかし、お父様も限界だ。最近、お父様の商売を邪魔するように商人が立ち塞がるようになった。
それがクララの実家だ。
チョコチョコと出入りの商人がクララをつれて王宮に来るようになった。
「殿下、珍しい馬です。献上させて下さい」
「うわー、白馬?格好いい」
「殿下、我が娘クララが世話をしていました。代わりに顔を出させます。何なりと申しつけて下さい」
「クララでございます」
欲しがりはクララに言うようになったわ。
クララは全て叶えるわ。
それにしてもお金は沢山あるわね・・・・
そして、私は婚約破棄されると王都の子供まで噂をするようになったわ。
王子妃に相応しくない・・・
お父様とお母様は憔悴しきっている。
「もう、おしまいだ」
「あなた・・・」
お兄様夫婦は領地経営に専念しているわ。自ら畑を耕さなければならなほど困窮している。
私だけ、高級なドレスを着ている・・・・
それもネタにされた。
私は、探した。助けてくれる者を。情報ギルド、賢者、伝手を使い公爵令嬢の派閥にも接近したが会ってもくれなかった。
そして・・・私は女魔道師に行き着いた。
老婆だわ。数々の悩みを解決するとの口コミで評判だわ。
高級平民街の一角に彼女のお店があった。調度品は立派だ。安心出来る。
優しそうなお婆さまが出てきたわ。液体の入ったコップを差し出す。
「さあ、これを飲めば悩みは全て解決するのう」
「本当ですか?婚約破棄も解決しますか?」
「そうじゃ、痛くもない。苦しくもない。辛いことが全て解決するお薬じゃ。初回は銀貨一枚でいいのう」
私は思わず手に取るが・・・一歩が踏み出せない。
「・・・お父様に相談しますわ」
やはり、鑑定士に一度みてもらおうと思った。
「ほお、お父様、親離れしないのう。今、ここで飲んでいきなされ」
「えっ」
店の裏から男達が出てきて私の口を開けようとする。
何が起きているか分からない。
優しかったお婆さんが豹変する。
「さっさと飲め。この小娘が!」
怪しい薬のようだ。
その時、ドアがバンと開いた。いや、破壊されたわ。
出てきたのは、男女二人。
黒髪に瞳まで黒い・・・もしかして、異世界人?
二人は演劇のように名乗りをあげた。
「やあ、やあ、我こそは、東京士族警視庁抜刀隊、今は冒険者、平田平三!西南の役で爆風に巻き込まれてこの浄土にやってきたと思いきや、ここにも悪人がいやがるじゃないか?」
「私は念仏長屋の念仏お小夜!暴れ馬から坊やを助けようとして馬に蹴られてこの補陀落の世界にやってきたら煩悩があるときた。阿弥陀様もお嘆きさね!」
「「アヘン婆!御用だ!」」
「へえ?聖王国の馬鹿勇者に、トンチキ聖女、何故、ここに?」
「「「やっちまえ!」」」
「二人だ!」
「ここでは勇者の大技は使えないぜ!」
あっという間にゴロツキたちは倒され。魔道師は捕まった。
「ご令嬢、危なかったな。魔の薬だ。これで清の国が滅亡しかけた」
「この婆、賞金かかっていたのさ。じゃあ」
「待って下さい!」
私は呼び止めて今までの事情を話したわ。
「どうしたら、良いでしょうか?」
「分からん!俺じゃ無理だ」
「ありゃ、平三さん。東夷だね~」
「お願いします。勇者、聖女様が口添えをして頂くだけでも違います。我が屋敷にご逗留下さい!」
すると、ヘイゾウ勇者様は少し考えた後に切り出しました。
「あんた。公家女にも同じ事を言ったのだって?」
クゲ女?公爵令嬢のことかしら。
「はい」
「だから断られた。自分で解決するなら方法を教えないでもない。しかし、死ぬかも知れないが良いのか?」
「分かりましたわ。何でもやります!教えて下さい」
「ありゃ、返事が軽いね~」
ヘイゾウ勇者様に言われた方法は・・・・
市場で、木刀で素振りをすることだ。
重たい。
「市場長に許可を取った。ここで素振り一日1000本やりな」
「・・・はい。あの説明を」
「ほお、そうか、ご令嬢は剣を習っていないか?」
素振りの仕方を教わった。そうではない。何故、ここで剣の素振りをするのか知りたかったのに聞きそびれたわ。
「じゃあ、俺ら仕事があっから」
「頑張りなさいね~、この馬鹿、剣術に関しては中々のものよ」
剣術を習いたいのではないのに・・・・
木刀はズッシリと重い。
初日、1000回出来なかった。
市場の者は笑う。
「下手くそだな」
「没落が決定して頭おかしくなったか?」
夜、家の者が迎えに来たわ。
「お嬢様・・・」
「お労しい。さあ、馬車へ」
来る日も来る日も素振りを行う。
千回も出来ない。
しかし、日が経つにつれ。笑い声は気にしなくなった。
それどころではない気持もあった。
そうか。勇者様は連続してとは言わなかった。
休み休みやれば・・・
休憩を取りながら千回を目指す。
回数は多くなったがまだ届かない。
数日続けていたら。
公爵令嬢が大勢の学友をつれて見物に来た。
「貴女・・・何をしているの?」
「剣の素振りでございます」
「あら、ゴルダ家は窮乏して令嬢が芸をしていると評判ですわ」
「マルガリッタ、黙りなさい!」
「・・・申訳ございません!」
ご学友の軽口を諫めてくれたわ。
「ねえ。貴女、仲裁して差し上げましょうか?後ろ盾になって差し上げますわ」
「対価は何でしょうか?」
「その素振りをやめることよ」
「断ります」
あのときは、混乱していたが今は頭は冷めている。
権謀術数の貴族社会、公爵令嬢が自分の得にもならないことをする理由がない。
自分の生殺与奪の権利を渡してはいけない。
「そう、分かったわ・・・」
公爵令嬢はそのまま去ったわ。
深夜までかかり何とか1000回出来るようになり。
手のタコが何回も出来て固まり始めた頃に、あの二人はやってきた。
ちょうど1000回終わったころだ。
「ほお、やるね。次の修行だ!」
「はい・・・よろしくお願いします。確認はされないのですか?」
「目的は剣術ではないだろう」
荒野に連れて行かれた。
聖女様が楽器を取り出した。まるでリュートのようだ。
「これは三味線と言ってね。今から幻術をかけるよ」
「はい・・・幻術?」
ヘイゾウ様に木に縛られた。
「ちょいとごめんよ」
「え、ええ?」
オサヨ様は演奏を始めたわ。
テケテケテケ♩
「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!補陀落一つ目小僧」
オサヨ様が詠唱するとサイクロプス、一つ目の巨人が現れたわ。
私を襲う。
「ヒィ!」
怖いけど逃げられないわ。
幻術と分かっていても怖い。
サイクロプスに拳で殴られた。
痛みはないが恐怖で体が硬直する。
「南無阿弥陀仏!龍神様顕現!」
ドラゴンが現れたわ。
私にブレスを吐く。
幻術は見た物でなければ再現出来ないと言うけども、この二人は実際に戦ったのね。
魔物は演奏している間だけ出てくるようだわ。
「肩慣らしは終わったね。平三さん。頼むね」
「よしきた」
ヘイゾウ様が剣を抜き。私を斬る。速い。目で追えない。
すんでのところで剣が止る。寸止めのようだ。
ペケペン!
「南無阿弥陀仏!」
ナムアミダブツと詠唱すると、私の体が斬れた。
「袈裟蹴り!」
胸から腰まで斜めに斬られた感触があった。
失禁をした。
幻術と分かっていても恐ろしい。魔物よりも怖いわ。
「次は真っ向斬り!」
体に上から縦に線が入る感触を感じた。体が上から二つに割れる。
どれくらい時間が経過したか分からない。
朝日が昇った。
私の髪は白くなっていた。
「ありゃりゃ、黄金色の髪が台無しさね。髪も直さないとね。音曲、璧のかけたるなしがごとくに治れ!」
ペケペンペン!
思い出す。勇者様が言った『死ぬかも知れないが良いのか?』は比喩ではない。
この人達の世界は人の死が日常だったのだ。
「清くはき給え!」
失禁したドレスまでクリーン魔法で洗濯してくれたわ。
ここでやっと勇者様が説明してくれたわ。
「武道や芸事で一番大事なのは平常心よ・・・まだ、お江戸のころな。斬り合いを目撃したのよ。俺が子供の頃だ。浪人が・・普通に話ながら斬っていた・・・・」
☆回想
『坊主、防火水樽の影に隠れろちゅう。下手に逃げようとか戦おうと思ったらいかんぜよ!』
『護衛ちゅうの。ただの人殺しじゃないちゅう。先生を襲っている賊を討伐しているぜよ』
俺に指示を出し、通行人に説明しながら敵と戦っていた。尋常じゃない平常心だ。
あっという間に敵を5人ほど斬り殺したな。
そいつの名は・・・以蔵と言っていたな。
・・・・・・・・・・・・
「だからな。シュテファニー、婚約破棄は分からないがこれで何とかなる。肝が据わった。後はその場になったら自然と動くようになるぜ」
「はい・・」
名前で呼んでくれた。
二人はそのまま立ち去ったわ。
☆現在、王宮
「ゲオハルトを辱めたシュテファニーを捕らえなさい!」
王妃殿下が命令を下したわ。
是非もなしだが、私は何も悪い事はしていない。捕まり弁明をするだけだわ。
衛兵達も戸惑いを隠せない。
「王妃殿下、令嬢は・・・ただ、殿下にお別れの挨拶をしただけです。理由のない逮捕は禁止されております」
「キィー!やりなさい。王妃命令ですよ!」
全ての元凶、王妃様、末の王子を可愛がって甘やかしたわ。
「衛兵隊長殿が職に忠実なのは分かりますわ」
私は拘束せよと両手を差し出した。
「国王陛下、並びに、勇者ヘイゾウ、聖女オサヨ様のご登場でございます」
その時、先触れの声とともに王宮の広間の扉が開いたわ。
陛下と・・・見覚えがある。あの二人がいたわ。
「東京士族平田平三!」
「念仏長屋の念仏お小夜!」
「「王宮に巣くう妖狐討伐に参った」」
「妃よ。残念だ・・」
何でも、女神信仰圏に魔族領産の魔薬が出回っている。それも上層部に、勇者様と聖女様は国王陛下に依頼されて捜査をしていた。
今日、王妃殿下に行き着いたそうよ。証拠もある。
「ヒィ、そんな。私は知りませんわ!」
「魔道記録水晶に記録が取られている。サハド男爵家が窓口だ」
だから、王子に何でも献上出来たのね。
「よう。シュテファニー、元気か?」
「いい娘っぷりだね~」
「勇者ヘイゾウ様、聖女オサヨ様、ご挨拶申し上げます」
「俺らの仲じゃ、いらん。いらん」
「そうさね。私らの妹さね」
この短い会話で私は勇者様のお知り合いとして名が通ることになり釣書が殺到したわ。
その後、クララの実家の男爵家は断絶、クララと父親は牢に入ることになったわ。
王妃殿下は生涯塔に幽閉、後ろ盾を失ったゲオハルト殿下は、何故か私との婚約破棄は無効と主張したが陛下が拒否をした。
陛下直々に教育をし直し地方に婿入りさせる予定だが、令嬢相手に腰を抜かしと評判になって芳しくないと風の噂に聞いたわ。
今、私の状況は・・・
☆☆☆王都繁華街
あれから私は串焼き酒場の経営をしている。
ゴルダ家の唯一残った商会の店舗。
既に、もう一店舗支店を出せるかまでになったわ。
「おい、こら、テメー、おいらを見て笑ったな!」
「ああ、笑ったぜ。だからどうした。不細工!」
酒場なので喧嘩が時々起きる。
その時は水をかけて。
「うわ。冷たい!」
「な、何だ。何だ!」
「お二人とも店内で喧嘩はお止め下さい。私が大変迷惑ですわ」
「・・・分かった」
「これが噂の肝っ玉令嬢店主か・・・」
毅然に言えるようになった。
あの夜のことを考えたら怖くない。
「あら、シュテファニー様、二人大丈夫かしら」
「どうも・・・」
公爵令嬢クラウゼア様と・・・アルベルト殿下がやってきた。
「クラウゼア様、何か御用ですか?」
「客として来たのよ。適当に酒以外頼むわ」
「はい、大歓迎です。今、お席を用意しますわ」
すると突然アルベルト殿下が大声を出した。
【シュテファニー!惚れた!婚約を前提とした付き合いをお願いしたい!】
「アル!それはデートに誘ってからと段取りを決めたでしょう!私の婚約者と4人デートする計画を台無しにして!」
「すまないクラウ、でも、抑えきれないのだ!」
お二人は従姉弟同士で仲が宜しいようだ。
しかし、アルベルト殿下。
酔っ払いに水をぶっかける女に恋の告白をする・・・・タイミング悪すぎだわ。
あれほど、平常心が大事だと思っていたが、
ドクドクと心臓の鼓動が響く。
まだ、まだ、修行が足りないようだ。
最後までお読み頂き有難うございました。




