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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

選ばれしものへ

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 選ばれしもの。誰でも一度は、少なからず心惹かれるワードじゃありませんか?

 不特定多数の有象無象の中から、選定されたひとり。これは特別感がありますよ。望んで得られるとは限らない立場ですし、特別な優越感にひたれること待ったなしですよ、これは。


 ――え? 我々だって数えきれない精子の中から、唯一、母親の卵子と結び付けた、選ばれし存在じゃないか?


 先輩って夢見がちな発言もありますが、ところどころ恐ろしく科学的で夢のないこと言いますよね……なんです、物書きの思考回路はしっちゃかめっちゃかなんですか? どうにも読めませんねえ、けなしているわけじゃないですけれど。

 まあ、先輩の言の通り、我々こうして生きているだけで選ばれしものに違いないでしょうね。だがしかし、ちゃんと意識と記憶に残る形でチョーズン・ワンになりたいという気持ち、分かりませんか?

 自分が望む形なら、文句なしですけどね。残念ながら、望まれない形での選ばれしものもいるわけです。ほんとはもっとすっぱり入りたかったんですが、先輩のリアル意見に腰を折られたといいますか。

 聞いてみませんか? 選ばれた者の話。


 その選ばれし者が、父だったときのことですね。

 父は10歳になる前に、「世界」を認識できていたといいます。

 そりゃ障害とかない限り、その年なら自分を取り巻く場所くらい目で見えているし、分かっているだろ、と突っ込みたくもなりましょう。

 しかし、父のそれはいわば超感覚とでもいいましょうか。透視さながらの力を持っていたのだと、私に教えてくれましたよ。

 はじめのうちは、意識してコントロールはできなかったそうです。ふとした拍子に、望遠鏡でものぞいたかのように、ググンと視界がアップになったかと思うと、壁などいっさいの障害を抜けて、内側の様子が見えてしまうのだとか。

 この視界、誰とも共有されることはなく、はじめは信じてもらえませんでした。しかし、父が透視していなければ知ることのできない情報をどんどんと提示したことで、信じられるようになってきます。

 とはいえ、人間の子供の考えること。

 友達が何か人目をしのんでいたずらをするときなどの見張り役に、抜擢されることが大半だったと父は語ります。

 回数を重ねたためか、その依頼が来る頃にはある程度、自分の意思で透視の力を調整できるようになっていたようで、振り返るととっても便利だったし、自分が最も得意になっていた時期だろうと話していましたよ。選ばれたものだ、とね

 そして、当時の父の地元で子供たちのいたずらといえば、柿の実をこっそり頂戴すること。

 近くにコンビニなどがないご時世だったみたいですからね。育ち盛りのお腹を満たすには木になっている果物を食べるのが、一番手っ取り早かったんです。

 もちろん、見られればとがめられるのは必定。なので父の透視力をあてにし、いくつかある候補の家の中から、人のいないところを選び、そこで全員分の柿を確保したらスタコラサッサとそこを後にする……いつも通りのことのはず、でした。


 木登りが得意な子が、するすると木を登っていく中、こぼれた柿があれば下でフォローする組、まわりの様子をうかがう組に分かれて、総勢8名といったところでしょうか。

 父は周辺警戒組に回ります。父は顔を向けた方に関してはよくても、向けていないところは無防備ですからね。そこのカバーがいるわけです。

 父の警戒する、およそ半径50メートルの範囲に人の気配はありませんでした。透視する際は、普通の状態よりも少し遠くまで視界が広がるようでして。それによって、これまでのミッションは100パーセントの成功率を誇っていたのですが。


 いよいよ木登りした子が、一つ目の柿へ手を伸ばしたおり、ひょいと家のほうを見た父は目を見張りました。

 先ほどまで、誰もいなかった二階建ての一軒家。その二階の部屋にひとり、小さい男の子が座っていたそうなんです。

 禿げ上がった頭を持つその子は、おおよそ幼稚園児くらいでしょうか。正座をし、部屋の中でボールを軽く弾ませています。

 ありえない、と父は思いました。最初に家全体をなめるように見て、誰もいないことを確かめていたのですから。父の透視の目から逃れられたものは、これまで一人たりといなかったんです。

 しかも、子供がついているものが問題でした。

 音こそ聞こえませんが、それはしゃれこうべのように思えたのです。理科室の骨格標本が見せるものと同じ。本物か、あるいはよくできた贋作なのか……いずれにせよ、突然あらわれた不審者に違いありません。


 父が柿をもぐ係に「中止」を伝えるサインを出すのと、家の中の子がしゃれこうべのドリブルを止めたのは、ほぼ同時のことでした。

 両手でしゃれこうべを持つ、その男の子。横顔の輪郭は、父の記憶の誰にも該当しない彼はノールックのまま、しゃれこうべを父の顔へ投げつけました。

 透視による視界。これは壁越しに見ているもの。なのに父は目に衝撃を受けて、この場に崩れ落ちてしまったそうです。

 病院に運ばれましたが、父の虹彩の一部はその時より白くにごってしまいます。しかもよくよく見ると、どくろが浮かんでいるようにも見えるとか。

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