王様は過剰装飾
ナンセンス気味の作品ですがお気に召すでしょうか。
むかしむかしあるところに大層見栄っ張りの王様が居りました。王様は自分が見るもの全てに装飾を施さなければ気が済まない性質で、ろくに考えもせずその場の思い付きで役人たちに装飾の案を出しては、城の到る所、町の到る所に自分勝手な装飾を施してゆくのでした。お風呂が地味だからという理由で、お風呂に髑髏を浮かべたり、トイレが物侘しいからと言ってトイレの中をサイケデリックにしたり、井戸がしょぼいという理由で井戸の周りに意味もなく螺旋階段を作ったり。ある時など、牛の模様が気に入らないからと言って、牛の身体をキャンバスに見立てて国中の牛に落書き…もといペイントを施してしまった結果、奇妙な牛の群れが出来てしまい、酪農家が眩暈を引き起こしてしまったりした事もありました。
だから役人たちはいつ王様が次の装飾命令を出さないか、いつも戦々恐々としていました。王様に口答えしてしまうと見せしめに酷い髪形や酷い服装にされてしまうのです。地味に苦しい罰です。それゆえ役人たちも、いつからか王様には逆らわないようになってしまっていました。
そんな事を知ってか知らずか、ある日のこと、王様の前に一人の旅人が現れて、王様にこう助言をしました。
「王様、異国を旅してきた私が思うに、この国には人も建物も統一感がまるでありません。このままでは隣国に攻め入られてしまった時に統一感のなさで連携が取れず、誤って同士討ちをしてしまうやも知れません」
「なにぃ。確かにそうかも知れないな。ではこれからは統一感を重視して装飾する事にしよう」
一か月後、王国は何でもかんでも尻尾が余計についている物や人で溢れかえりました。王様は例の旅人に自信満々に言い放ちました。
「どうじゃ。これで我が国のものは一目でわかるぞよ。何といっても、尻尾があるからの」
しかし旅人は首を横に振ってこう答えます。
「いえ、王様。これではいざと言うとき頭隠して尻…尻尾隠さずになってしまって、敵に隙を与えることになってしまいます。そうではなくもっと目立たないところを装飾すればよいのではないでしょうか?」
「むー…。確かにそうじゃな」
一か月後、王国は一見するとシンプルになりました。けれどよく目を凝らして見ると、辺り一面コダワリの仕掛けが施されています。ごく普通に見える動物も、実は希少なものばかりを集め、猫は三毛猫のオスばかりで、馬は遠目には鹿毛に見えますがなんと全て青毛です。何の変哲もない池は夜になるとライトアップされ、素敵なデートスポットに早変わり、各地の芝はいつでも競技や競争が出来るくらい綺麗に刈り込まれていて話題を呼んでいます。人々の着るものは全て裏地にこだわっていて、全てリバーシブルです。
王様は今度こそ自信を持って旅人に自慢をしました。
「どうじゃ、我が国の装飾は!!心憎い演出であろう」
「確かに、この国の者はとてもお洒落で、とてもセンスがあります。けれど…」
「けれど?なんじゃ?」
「王様…何故自分だけはいつもその単色ベタ塗りのジャージなんですか?」
王様は生まれて初めて自分の姿が異様だという事に気付いて赤面したそうです。