日鉄が「国家安全保障上のリスク」とアメリカから認定されている“報道の裏側”
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は日本製鉄のUSスチール買収について語っていきたいと思います。
特に9月6日の
『日本製鉄 USスチール買収計画 “安保上リスク”米政府委が書簡』
というNHKの記事で以下にあるように、
『日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー、USスチールの買収計画について、ロイター通信は、アメリカ政府の委員会が、両社に対して、買収はインフラなどに必要な鉄鋼の供給に支障をきたす可能性があり、国家安全保障上のリスクを生じさせるとする書簡を送っていたことがわかったと伝えました。』
と、アメリカから「国家安全保障上のリスク」とまで言われているのはどうしてなのか?
について個人的な解説をしていこうと思います。
◇日本製鉄は「親中企業である」とみなされているのが最大のリスク
質問者:
しかしどうしてそこまでアメリカに嫌われちゃっているんでしょうか……。
筆者:
「日本製鉄」と言うからには当然日本国籍の企業ではあるのですが、
かなりの「親中企業」であることが分かっています。
このことから、アメリカはどちらかと言うと報道されているような雇用の問題と言うより、サプライチェーンを日本製鉄の背後にいると思われている中国に握られてしまうことを懸念しているという事です。
質問者:
えっ……そんなに中国と仲が良いんですか?
筆者:
正確に言うと脱しつつはあるようですが、関係はまだ継続しています。
2024年1月に日中経済協会が210人の経済人で中国を訪問した際に、
李強国務院総理などと会談し、中国投資を約束して、日中互恵関係などを確認しました。
そして日中経済協会の団長が日本製鉄現会長の新藤孝生氏です。
23年12月にUSスチールの買収が発表された次の月に訪中したために「邪推されている」と言う面もあるのです。
質問者:
中国と経済協力をする団体の団長が日本製鉄会長ならアメリカに警戒されますよね……。
筆者:
1972年の日中平和友好条約の時から日本製鉄(当時は新日本製鐵)の初代社長である稲山氏が貢献しており、現在の世界の鉄鋼業を掌握する中国や韓国の鉄鋼業を整備しました。
ここまで中国・韓国に“媚び媚び”なのは、
「日本が数十年にわたった韓国支配の損失、戦争における中国に与えた損失を償う意味でも、鉄鋼業に協力するのが当然である」
と言う過度な中韓に対する稲山氏の贖罪意識がこのようにさせたのだと言われています。
ただ、近年において日本製鉄は中国での生産拠点から撤退しつつあります。
日本製鉄が半分出資していた宝鋼日鉄自動車鋼板との合弁契約を24年8月には解消、
これによって中国での最大鋼材生産能力のうち7割を手放すことになるようです。
これは中国の過剰生産によって価格競争になっている上に、欧州からの反発もあって輸出先も無くなりつつあるので、採算が合わなくなっているためですね。
中国の2024年1月から2月までの粗鋼生産量は1億6800万トンと前年同期比1.6%増加したのに対し、粗鋼ベースに換算した鉄鋼製品の消費量は1億5300万トンと前年同期比1.3%減少、それに伴って価格が10%前後下落したという状況になっています。
質問者:
なるほど、色々な事情で方針を転換しつつあるわけですか……。
筆者:
ただ、日本製鉄と中国の50年以上の繋がりをアメリカが見逃すはずも無いです。
鉄鋼関係ともなれば軍事産業にも影響があると思うのでそれらの技術を中国に提供されてはたまりません。
それも採算が合わなくなっているというしょうもない理由で真逆に位置しているアメリカに市場を開拓しようとしているわけですから、場当たり的でご都合的だと思います。
9月5日に日鉄はアメリカ政府に安全保障協定の締結提案もしているようですが、
残る3割の中国生産の撤退や違約した場合の制裁なども事細かに記載されているのではないのかなと推測されます。
(それを吞めなければアメリカは買収を破談にするでしょう)
◇マスコミが正確に報道しない理由
質問者:
しかし、日本製鉄が親中企業だったことで拒否されているかもしれないだなんて報道してくれませんよね……。
まるで日本側に単独の問題があるみたいじゃないですか……。
筆者:
果てしなく中国に媚びていた日本製鉄固有の問題と言って良いでしょうからね。
日本マスコミはアメリカと中国の双方に「入れ食い」されている状況なので、
アメリカと中国のどちらかに対して不利になりそうな言い方はしないという事です。
特に日鉄が中国から撤退する理由として、鉄鋼業の深刻な現状などはあまり伝えて欲しくないでしょうからね。
中国はGDPを“盛る”ために統計偽装をするだけでなく取り敢えず国策的に生産しまくったり、建物を無意味に立てたり鉄道を敷きまくったりしているようです。
国家主席さんの目標到達の見栄を張るために皆さん必死にやっているという事です。
質問者:
だから日頃から筆者さんは「GDPがあまり意味の無い指標」だとおっしゃっているわけですか……。
筆者:
全く無意味だとは思いませんけれども、「GDPを上げる」という一点に集中しているためにあんまり意味の無い政策をやったり、減税をしなかったりすることが起きるわけです。
◇今後の日本企業とアメリカの付き合い方
質問者:
話は戻りますけど、日本製鉄固有の問題でアメリカに拒まれているというのでしたら、ちょっと安心しますね。
筆者:
ただ、日本には国家が企業や個人に信頼性のお墨付きを与える、セキュリティクリアランス制度に関する法案が先の国会で通過したばかりですからね。
日本企業全体に対して日本製鉄ほどでは無いにしろ信頼性が低いということです。
大企業で中国に全く関わっていない企業の方が少ないと思いますから、日本製鉄がアメリカ政府と交わすと思われる「厳しい内容の安全保障協定」を個々の案件ごとに締結していくと思います。
質問者:
結局は政府が制度設計を怠ってきたという事ですか……。
筆者:
国家間の取り決めが行われていないと更にアメリカ側に有利になる協定になるでしょうからね。
ただ、今後も中国とロシアを中心とした近年拡大しているBRICS側の国々。
対して日本が所属しているアメリカを中心としたG7とその友好国。
と言う2つの大きなデカップリングが生じてくると思います。
それらを考慮すると、軍事も農業もアメリカに“ベッタリ”な日本としては、企業が「脱中国」をしている流れは良いことだと思います。
ただ、これまで中国に技術提供をしてきた会社が突如として、「中国じゃ採算が取れなくなったから! アメリカ様! 仲良くしてください!」と言うのはあまりにも虫がよすぎると思うんです。
これからは中国との関係が深い企業ほどサプライチェーンから取り残されるといった形になるんじゃないかな? と思いますね。
質問者:
中国は「14億人いる最大の市場」とか言われていましたけど、
統制経済で、合弁会社などから技術とかも供与しなくてはならず、結構マイナス面も大きいですよね……。
筆者:
何事もそうなのですが、総合的・多角的な視点でもってリスクにおけるバランスを取ることが大事だと思います。
特に何かに比重が大き過ぎればそれが倒れてしまった時に一気に崩れ去ってしまいますからね。
今の日本においてはあらゆる安全保障がアメリカに依存しているのである意味危険だとは思うのですが、アメリカが強いうちに日本も真の自主独立できるだけの生産力を付けられればいいなと思いますね。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は日本製鉄が親中派だったことからアメリカ政府から「国家安全保障上のリスク」があると思われているのではないか? 中国に不利な報道をしたくないから黙っているのではないか? リスクは分散していくべきだという事をお伝えしました。
今後もこのような時事問題や政治・経済、マスコミの問題について個人的な解説を行っていきますのでどうぞご覧ください。