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「そのとおりですわ。」
信じたくないが故に震えた声で質問するテオドールに対して、ためらいなく頷くフローラ。
「そんな・・・。どうして・・・」
修道院という家族でさえ関わることが難しくなる環境へ行くために、婚約解消を受け入れるほどテオドールへの愛が冷めていたとすれば、フローラが社交界で嫌われ者になるほどアメリアの悪口を言いふらす必要がない。何も理解することができずただ戸惑いながらも疑問を投げかけるテオドールに対して、フローラは自身の選択が間違いではなかったことを確信した。
「今、その質問が出てくることこそが答えですわ。
あら、もうこんな時間ですのね。ヘルメス公爵令息はそろそろお帰りになられたほうがいいのではないですか?」
わざとらしく声のトーンを変えて席を立ち上がったフローラは、遠くで待たせている使用人を呼び、テオドールの帰宅を告げた。
「いや、時間はそんな切羽詰まっていないし、もう少し話がしたい。フローラ、僕は。」
「これ以上話すことはございません。話す必要がございません。」
使用人が帰りの馬車の準備をしはじめたが、フローラに詳しい事情を聞こうとするテオドールの言葉を遮り、フローラは家の門まで歩き始める。
「ま、まってフローラ!」
そんなフローラを追いかける形で渋々門へと向かうテオドール。
「では、これでお別れですわね。さあ、早く馬車にのられてください。このお馬さんも早く走りたいと申しておおりましてよ。」
と、意味のわからない理屈をこねて強引に馬車に乗せようとするフローラの態度を見て、テオドールは話を聞くことを諦めて馬車にのった。
そして、馬車の扉を従者が閉めようとした際にフローラは、テオドールにとって残酷な言葉を口にした。