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革命裁判  作者: 書く鹿
1/1

Prologue Day one

 16XX年。

 とある東方の国........アルドフにおいて、革命が行われた。旧政府の華族制の廃止が行われ、新たな指導者のもと、列強諸国と轍を並べるための軍国化が行われた。

 しかし、革命はまだ完全には完了していない。旧政府側の人間の革命裁判が行われていない。

 そして今日、革命は完全に完了される。君の手によって。


「裁判官君。今日は、このアルドフによって栄誉ある一日の始まりとなる」

「........えぇ」


 裁判官である君は、この国の新しい政府の人間........軍曹と話している。彼は、革命で多大な功績を挙げ、革命裁判にかけられる者たちの多くが彼に罪を“でっち上げ”られたのだ。君は革命のため........時代を進めるためには仕方ない犠牲だとも考えているが、一方で割り切れない気持ちも持っている。


「では、よろしくたのむよ。君の家族のためにもね」

「........はい」


 革命裁判が........君のさじ加減一つで老若男女問わず誰の命も奪える茶番が幕を開ける。


「これより裁判を始めます。裁判官殿、どうか公正な判断を」

「はい........」


 君の目の前には一人の検事と一人の被疑者、多くの警官と記者がこの裁判所に詰め寄っている。

 君の手元にはガベルが一つだけある。これで私は、人を殺していくのか........と憂鬱な気分になってしまうが、手元の家族の写真を見て、仕方がないのだと思うことにした。


「ではまずは―――」


 被疑者は顔も名前も知らない辺境伯の当主だった。

 次々と並べられるでっち上げられた証拠を認めながら、事務的に裁判を進めていく。被疑者がなにか言っていたが、君は聞かないことにした。聞いてしまえば心が揺らいでしまうくらいの良心は持ってしまっている。

 時間にして十分ほどだろうか、その程度の時間で判決を言い下す時間となった。


「被疑者........えー........ヴァーリ伯は、税の不当な搾取、および家庭内での暴行行為、また、青少年に対しての性的虐待その他多くの余罪より死刑」


 君は、ガベルを振り落とし、無実の人間を今日初めて殺した。

 ガベルを振り落とした音は、木製にしては、重く鳴り響き、静かな裁判所の中で延々とこだましていた。

 君は、その後も何度か無実の人を裁いた。

 あきらめている人、最後まで無実を訴える人、罵詈雑言を浴びせる者、泣いている者、いろんな人がいた。

 彼ら彼女らを君は、すべからく殺した。今日だけでも十何人は殺した。

 君は今日の裁判を終え、小さな冷たい廊下を歩いていた。


「やぁ。裁判官君」

「軍曹........」

「今日の君の裁判は正に名裁判だったよ。後世に永劫、語り継がれるだろう。君は歴史に名を遺したよ。名誉ある名をね」

「........恐縮です」


 君は一礼して、この場を去った。


「明日も期待しているよ」

「........はい」


 外に出ると風が吹いていた。革命の風だ。その風が心に吹くとどこか悲しい隙間風の音が鳴った。すでに夜は深くなっていた。空を見ると今日は新月だった。光は、町中のランプと監視塔の灯のみの夜だった。

 君は帰りに酒を一瓶だけ買った。小さな酒だ。しかしその酒だけが君の人生だった。

 明日もまた君は、無実の人を処刑していくのだろう。だが、悲嘆にくれることはない。君は君の仕事をしたまでだ。

 また明日。

 アルドフに栄光あれ。

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