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005 おとぎの世界のヒロイン事情2

 第一回悪役令嬢対策会議は引き続き白熱したヒロインたちの問題提議という名の愚痴が続いていた。


「ヒロインって昔から苦労する設定が多いじゃない?継母や義理の姉に虐められたりとか、森に捨てられたりとか日常茶飯事なわけ」

「あーわかる。りんごで喉を詰まらせたり、実家がいきなり借金抱えたりね」

「可愛いってだけで虐められたり」

「その上、最近ではストロベリーブロンドの髪色ってだけで虐めの対象」


(最後のソレは激しく同意!!)


 マリエッタは前のめり気味に同意した。


「そう。私達ヒロインは古来より苦労する星の下に生み出された者。その理不尽で不幸な出来事をハイスペックイケメンに愛され、支えられながらも自ら乗り越える的な感じが王道じゃない?それなのに、ポッと出の悪役令嬢達って何かいつも誰かに頼ってない?それに自分本位の理由が多いというか」

「あーわかる。自分が破滅する。自分が婚約破棄される、自分が殺される。あたしがーーってね」

「それならまだマシよ。死ぬのは誰でも嫌だからその気持は理解できるし。ヒロイン魂的には身近に死にかけた人がいたら、例え悪役令嬢でも助けたいと思うでしょ?」


 エメラルドグリーンのドレスを着たヒロインがそう言った。すると、会場からパチパチパチという拍手が自然に沸き起こった。


「流石ね。偉い」

「よっ、ヒロインの鏡!!」

「違う違う。だって私の国の悪役令嬢が最悪すぎるからそう思うだけ」


 エメラルドグリーンのヒロインが照れた様子で頬をピンクに染めた。


「最悪と言えば、うちの悪役令嬢なんて突然婚約破棄される未来が見えたから、全力で逃げますとか言って自分の婚約者を放置して逃げたからね。しかも女にだらしない王子殿下を私に押し付けて」

「あり得ない……」

「そこは婚約者なんだから、責任持って頑張ろうよって感じ」

「最近電波系悪役令嬢が増えてきたもんね」


(電波系……それは身に覚えがありすぎる)


 日頃の鬱憤が溜まっているのか盛り上がるヒロイン達。この世の可愛い物全てを詰め込んだような容姿を持つヒロイン達が愚痴をこぼす姿は圧巻。


(というか、絶対各々のヒーローには見せられない光景……)


 少なくとも最近魔族である事をマリエッタにカミングアウトしたせいなのか「ぶっ殺す」が口癖になってしまった、少し残念なグレアムには見せたくないなとマリエッタは思った。


(これは会議だけど、もはや女子会)


 美味しいお菓子に紅茶。それに女の子がこれだけ集まればまぁそうなる。

 それに日頃の鬱憤を誰かが代弁してくれて、それに「わかる」とみんなで同意する状況というのはわりと楽しいしストレス発散になる。


(普段はストレートに気持ちを出せないもんね)


 マリエッタは傍観者に徹しながらもそう思った。


「それにさ、これは噂なんだけど乗っ取り系悪役令嬢に本編を乗っ取られたヒロインの中にはさっきの子みたいに国外追放とかされて、病んじゃった挙げ句死を選ぶ子も多いみたい」

「そもそも乗っ取り系悪役令嬢に本編の最後で殺されちゃう子もいるし」

「それも酷いけど、本来はヒロインのヒーローだった人に、ヒロインを断罪させたり、殺させたりするパターンもあるって聞いたわ」

「私は無能な男に押し付けるってのも聞いた」

「それ、私のこと……」


 ヒロインとして何となく仲間意識が芽生えた所での重い話題に会場はシンと静まった。


(何か私の悩みなんて、些細な事のような気がしてきた)


 マリエッタも会場の雰囲気に呑み込まれ、どんよりとした気分になる。


「確かにヒロインの不当な扱いに関して議論はつきませんし、不穏な噂が囁かれている事は確かです。けれど今日は折角ヒロインのお仲間が一堂に会する機会です。皆さん、ひとまずここで少し休憩にしましょう。是非お友達を作って下さいね」


 まとめ上げたブロンドヘアーに水色のドレス。ピンクが集まる中では異色とも思える髪色を持つヒロインが落ち着いた声でそう告げた。

 代表らしきヒロインの穏やかな言葉で重く沈んだ空気が少し和らいだ気がする。


「あの人もヒロインなんだ……」


 ピンクの髪色ではない事を不思議に思い、思わず口にするマリエッタ。


「あの方は通称灰かぶり姫。シンデレラさんよ」

「えっ、あの有名な?」

「そう、自分にしか合わないよう魔法をかけておいたガラスのハイヒールを計画的に落とし、王妃の座に収まった遣手やりてのヒロインと名高いシンデレラさん。この会の代表をして下さっているの」


(な、なるほど)


 マリエッタのうっかりな呟きにきっちりと返してくれたのは、隣に並べられた雲に座るヒロインだ。ボレロとワンピースがセットになった真っ白な制服を身に纏い、勿論髪色はストロベリーブロンド。


(ドレスじゃないってだけで親近感が湧く気がする)


 独特な言い回しが気になる所だが、質問に答えてくれたのだから親切な人には違いないとマリエッタは横を向いてお礼を口にする。


「ご丁寧にありがとうございます」

「いいえ、あなたは私と同じ界隈所属のヒロインだから。実はさっきからいつ声をかけようかなってずっと気になってたの。ほら、今って乙女ゲー設定界隈のヒロイン人口が多いじゃない?」


 少しだけマリエッタに身を寄せ小声で話すヒロイン。

 その胸には確かにマリエッタと同じ、苺柄になったユニコーンモチーフのついたペンダントが首から下げられていた。


「質問なんですけど私達の所属する界隈って、乙女ゲーじゃないとしたら何になるんですか?」


 事情通でありそうなヒロインにマリエッタは恥を忍んで問いかけた。


「なるほど。もしかしてあなたは最近本編終了を迎えたのね?じゃ終了後の世界の事がわからなくて当然だよね。えーと私達のユニコーン。これはコメディの証よ」

「え、恋愛じゃなくてですか?」

「残念ながらコメディよ」

「コメディ……」


(真面目に人生歩んできたはずなのに、それが無駄になった気がするのは何故だろう……)


 しかしマリエッタは自分の首から下る苺模様のユニコーンが視界に入りその微妙に外した感じに思えるそれに「なるほどな」と納得し、自らの運命を受け入れた。


「そうだ。私は「青ひげ」のヒロインメアリーヌ。メアリーと呼んでね」

「私は「天然なす」のマリエッタです。私の事はマリーと。よろしくお願いします」

「うん、マリーね。こちらこそよろしく」


 流石ヒロインだ。ピンクブロンドの髪をポニーテールにし笑顔を見せるメアリーヌはマリエッタから見てもとても可愛いく思えた。


(それにしても、青ひげって私以上にまずい気がする)


 マリエッタは内心メアリーヌの「青ひげ」に省略された色々が非常に気になった。

 けれど、それを問うと自分の「なすのへた」からはじまる長いアレを口にしなければならない羽目になると思い追求する事を素直に諦める。


「それでマリー、あなたは悪役令嬢にどんな事をされてるの?」

「お恥ずかしい話なんですが皆様ほどではなくて、まだこの髪色のせいで目の敵にされている程度です」


(何かディアーヌ様が可愛いく思えてくるほどだった。だって国が滅びる人もいたし)


 先程まで交わされていた主に乙女ゲー設定界隈で暮らすヒロインたちの白熱した会話を思い出し、マリエッタは自分なんてまだ全然マシだと思った。


「そっか。まぁ私達はコメディだしね。恋愛界隈に比べたら実際はそこまでドロドロした嫌がらせはないよね」

「メアリーは悪役令嬢に何をされているんですか?」

「青ひげ王子の三分クッキングっていうのが私に課せられた運命だから、わりとわちゃわちゃしてて。食材探しにも行かなきゃだし、新しい料理の検証もしなきゃだし、それにコメディだからそれなりにハプニングもあって。だから毎日が忙しいって言うか、正直ここだけの話なんだけど……」


 メアリーヌはマリエッタに手をこまねいた。

 それを受けマリエッタはメアリーヌに顔を近づける。


「私、悪役令嬢と協力する事にしたの」

「えっ、スパイ!?」

「ちょっと、声が大きい。違うってば。正直多忙な日々のせいで、悪役令嬢とヘイト取り合っている場合じゃないって感じなの」


(確かに料理を課せられた人生って事は毎日の献立を考えるって事だもんね)


 マリエッタは今日の料理の献立に頭を悩ます人生よりも、まだ魔界の王子であるグレアムとの恋愛模様を追った日常系が多そうな自分の人生の方が楽なのかも知れないと気付いた。


「メアリーの背負うもの、かなり大きいですね」

「そうなのよ。ある意味国民における食生活の指標になってるし、責任重大なのよね。だから悪役令嬢といがみ合う事は今の所ないって感じ」


(それは実に羨ましい)


 マリエッタは素直にそう思った。


 でもきっと悪役令嬢に悩まない分、メアリーヌは料理の事で頭を悩ませている。

 この世界はみんなが同等にストレスを感じるよう、意外にバランスが取れているのかも知れないとマリエッタは一瞬だけ哲学者のようにそう思った。


「じゃ、何で今日はここへ?」


 悪役令嬢と良好な関係を築いているのであれば、別にヒロイン同士慰め合う必要もないと思ったマリエッタはメアリーヌにそう尋ねる。


「おとぎの世界に生まれた私達には課せられた運命があるじゃない?だから向こうもこっちも、お互い与えられた役割の界隈に所属はしとかなきゃねーって感じで」

「えっ、それじゃ悪役令嬢は悪役令嬢の集まりがあるんですか?」

「そうよ。おとぎの国の悪役令嬢組合。私の友人の悪役令嬢は座魔亞ざまぁ部に所属してるとかなんとか」


座魔亞ざまぁ……何だか強そうな響き)


 マリエッタは言葉の響きに怯えブルリとその場で身を震わせた。


「マリーはまだ本編終了間際っぽいから知らないだろうけど、私達は本編が終わったらある意味、今まで人生を進める制約みたいなリミッターが解除されて主人公補正が効かなくなる。だから色々と思うようにいかない事も出てくると思う」

「そうなんだ」


(不安だな)


 マリエッタはディアーヌに絡まれるようになった事。それにグレアムの性格が変わったことを思い出し沈み込む。


「暗い顔しないでマリー。私達は何だかんだ言ってヒロインでしょ?いつでも明るく前向きに頑張るのが取り柄じゃない」


 ニコリと明るい笑みをマリエッタに向けたメアリーヌ。

 邪気がなく、不思議と人を元気にさせるその笑顔を見てマリエッタは流石ヒロインだとメリアーヌの纏う明るい雰囲気に脱帽した。


(少なくとも今日はメアリーに出会えたから、勇気を出して参加して良かった)


 マリエッタはそんな風に思ったのであった。

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