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042 悪役令嬢生誕五周年記念パーティ

 悪役令嬢が活躍する姿を描いた天井画。

 その下にはゴールドのシャンデリアがいくつも吊り下げられている。

 至る所に真っ赤なバラが飾られ、とても華やかにホールを演出していた。


「今日は思う存分楽しむがいいわ。オホホホホ」


 入り口の脇に立たされたマリエッタ。

 だいぶ板についた高笑いで悪役令嬢生誕五周年記念パーティの招待客を出迎えているところだ。


「悪役令嬢ちゃんと写真撮りたいんですけどいいかしら?」

「あー。写真のお時間は別途ありますので、今はご遠慮願います」


 本日は黒いタキシードに身を包んだ怪盗ダイアが招待客であろう女性に笑顔を向ける。


「残念ですわ。ではまた後ほど」


 そう言って可憐な笑みと共に去っていく令嬢。


(ヒロインでもなさそうだし、悪役令嬢でもない……あれは何協会の人なんだろう?)


「あれはモブ王女組合の組合長、名もなき王女様だろ。というか、おとぎの世界に存在する主要な組合を全て招待したらしいからな」


 マリエッタの心の声を拾ったグレアムが答えてくれた。


(グレアムも今日はタキシードなんだ)


 マリエッタは悪役令嬢ちゃんのかれぴっぴとして隣に並ぶグレアムの姿に密かに「素敵だな」と見惚れる。


「まぁな。つーか、俺はマリーに早くあの赤いドレスを着せたい」

「ははは、そうだね」


 マリエッタはキグルミの中で顔をひきつらせた。

 何故ならグレアムの言う赤いドレスとは、ドクロ柄の「人間の生き血色で染め上げたドレス」の事だと安易に想像出来たからだ。


「あら、あなた……」


 マリエッタの眼の前に黒い影が落ちる。


「これはこれは、クイーン・グリムヒルド様。今日もまた世界で一番美しい」


 怪盗ダイアがいつもの調子でクイーン・グリムヒルドの前に跪いた。


(ちょっと、仲間だってバレちゃうじゃない!!)


 慌てたマリエッタは怪盗ダイアをモコモコした足で蹴り上げた。

 日々の特訓で機動力を増した悪役令嬢ちゃんの蹴りが見事、怪盗ダイアの背中に命中する。


「うげっ」


 まるでカエルのような声を出し、床につんのめる怪盗ダイア。


「オホホホホ。上手くやっているようね。今日は楽しませてもらうわ」


 古参こさんの悪役らしい貫禄ある凄みある笑い声を響かせ、クイーン・グリムヒルドはイケメンヴィランズと共に会場内に消えた。


「マリー、痛いだろ」

「だって、そうしないと」


(私達が悪役令嬢を成敗し隊の潜入捜査をしている事がバレちゃうもん)


 マリエッタはやたら丈夫になった下半身を動かし思う。


(それにあんなに練習した完璧なカーテーシーを是非ともヒロイン達の前で披露したいもの!!)


 そもそも庶民派ヒロインであるマリエッタの人生においてカーテーシーは全く必要ない。

 しかし、魔界の王子グレアムの隣に並び立つ為にも令嬢らしい事を学ぶのは無駄ではない。

 そう思って日々頑張っていた。


 しかし――。


『あ、魔界では淑女の礼とかそういうのないから大丈夫。わりと無礼講だから』

『えっ、紅茶を飲む時小指を立てると駄目とか』

『むしろ小指が立つくらい豪快な方が』

『じゃ、誤魔化しの笑顔とか』

『マリー、俺は君の自然な笑顔が一番いい』

『お、おう……』


 グレアムとのそんなやり取りを受け、マリッタの心は「マナー?それ必要?」とだいぶ折れかけた。


『悪役令嬢たるもの、淑女のマナーは完璧に!!今日は頭の上に本を乗せホールを五週!!』


 そんな鬼教官迷い人の無理難題にマリエッタの心は日々荒んでいった。


『ソレ本当に必要ですか?』

『キーッ!!悪役令嬢ちゃんが反抗期に!!なまはげるわよ!!』

『出来るもんなら、やってみればいいじゃないですか』

『おめさんは、なまはげの恐ろしさ知らねから、ほんたら事が言える』

『えっ、何語!?』

『コホン、ついうっかり方言が。いいわ。神の創造ノートで本物のなまはげを……』

『あ、すみません。改心しました』


(何だかなまはげはこのおとぎの国に生みだしては行けない気がするもん)


 マリエッタは危機一髪、機転を効かせ反抗期を乗り越えた。


『ならば、今こそヒロイン達に悪役令嬢の圧倒的カーテーシーを見せつけるのよ!!』


 目標を失い、脅されたマリエッタは「圧倒的カーテーシー」というその圧倒的すぎる語感を叩き込まれ、「よし見せてやる、本気のカーテーシーを」とその思いでここまで頑張ってきたのである。


「あら、ふふふ。随分可愛いマスコットだこと」

「シンデ……ぐぬぬ」


 グレアムに口元ののぞき穴から目にも留まらぬ速さで腕を突っ込まれた悪役令嬢ちゃんことマリエッタ。


「あらあら、随分と衝撃的ね」


 水色のドレスに身を包むシンデレラが目を丸くした。


「衝撃的というよりはもはやモザイクレベルだわ」


 バトル系ヒロイン代表マーレン姫がそう付け加える。


(グレアム、わかったから。もう余計な事は口にしない)


「危なかったな」


 グレアムは満足気な顔で悪役令嬢ちゃんの口から手を抜いた。


「あれ、本日眠り姫様はいらっしゃらないのですか?」


 マリエッタは事前に参加予定だと聞いていた眠り姫の姿を確認し口にする。


「寝坊したみたいなの」

「いつものことよ」


 マーレン姫は肩を落としながら呆れたような顔をした。


「そのうち来ると思うわ。今日は頑張ってね」

「はい」


 マリエッタは元気に答えた。そしてふと自分の役割に気付き声をあげる。


「まぁ、時代遅れのヒロインじゃないの。この世界は悪役令嬢に都合の良い世界なのよ。せいぜいもがき苦しむといいわ。オホホホホ」


 マリエッタはサービスとばかり、小道具の扇子をパッと広げてみせた。

 扇子には「御都合主義万歳」と文字が入れられている。


「ふふふ。完璧ね」

「イラッとしたわ。なかなかやるわね」


 シンデレラが楽しげに笑いマーレン姫が眉間に皺を寄せた。


「ご歓談の所申し訳ございません。そろそろ開幕しそうです」


 怪盗ダイアがそう告げる。


「あら本当だわ。遅刻ギリギリはいつになっても治らないのよね。五分前行動を心がけているのに」


 シンデレラがおっとりとした声でそう言った。


「じゃ、十分前にしたらどう?」

「そうね。意識改革が必要ね。じゃ、悪役令嬢ちゃん、皆様、のちほど」

「頑張ってね」


 シンデレラとマーレン姫が優雅に歩き会場内に消えていく。


「さ、俺らも定位置につくか」

「うん。あ、その前に」


 マリエッタは悪役令嬢ちゃんのモコモコとした腕を伸ばす。


「さ、みんなエイエイオーしよう」

「いいですね」


 セドリックが人間の姿のままの腕をマリエッタの上に重ねる。


「おい、お前は俺の上だろ」

「あ、すまない」


 グレアムがマリエッタのモコモコの手の上に自分の手のひらを乗せた。


「仕方ない。恥ずかしいけど一応」


 怪盗ダイアがセドリックの上に手を乗せる。


「では、おとぎの世界の平和の為に、エイエイ」


「「「「オーー」」」」


 天然なす隊の四人の声が揃う。


 そしてすごすごとホールの中に入る四人。


「ようこそ!!おとぎの世界の皆様。本日はお集まり頂きありがとうございます。今ここに悪役令嬢生誕五周年記念パーティの開幕を宣言致します!!」


 壇上に上がった一際着飾った迷い人の高らかな宣言の声が響く。


(とうとう、始まった)


 マリエッタは密かにキグルミの中で緊張する。


「マリー、俺たちはヒロインとヒーロー。だから絶対に負けない」


 グレアムがマリエッタのモコモコの手をギュッと掴んでくれる。


「うん、そうだよね」


 マリエッタも小声でグレアムに答えたのであった。

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