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040 悪役令嬢組合による悪役令嬢のための集会

 マリエッタ達は現在「悪役令嬢を成敗し隊」における任務の第一フェーズ。


 その名も――。


『悪役令嬢組合ゆるきゃら侵入大作戦』


 こちらを実行中だ。

 というわけでマリエッタ達は悪役令嬢組合が開催する集会に出席中。


 悪役令嬢組合の集会所は、ヒロイン組合のそれとは大きく違っていた。

 王宮の晩餐会の会場といった感じ。白い布がかけられた長テーブルがズラリと部屋に並べられている。そして至る所に真っ赤なバラの花が飾ってあるのが特徴だ。


(ふむ、真っ赤なバラが悪役令嬢のイメージアイテムなのね)


 マリエッタは参加者の悪役令嬢がそれぞれ、赤いバラのブローチやらネックレス、それにヘッドドレスなどを身に着けているのを確認しそう推理した。


 因みに悪役令嬢組合に無事購入された悪役令嬢ちゃんは、ブロンドの輝く髪を縦ロールにしっかりと巻き、赤いバラのコサージュがついたヘッドセットを頭に乗せている。

 因みにドレスは赤をベースに黒いレース。


(目がチカチカするし、何となく強そう……)


 そんな印象を抱きながらマリエッタは司会者の脇に立っている。

 勿論キグルミの中で。


「物語」

「悪役なしでは成り立たず」

「ヒロインを」

「表舞台から消し去るの」

「悪役も」

「いい夢見たい。いつでもね」

「テンプレな世界で輝く」

「悪役令嬢」


(心が……キリキリする!!)


 マリエッタは思わず頭を抱えそうになり、しかし何とか堪える事に成功した。

 何故なら悪役令嬢ちゃんの腕が短くて物理的に頭に手が届かなかったからだ。


「皆さま、本日はお集まり頂きありがとうございます」


 悪役令嬢組合にのいて司会を務める女性が挨拶の言葉を口にする。


「さて、皆様の視線を釘付けにしている方達を紹介させて頂きますわね。こちらは悪役令嬢ちゃんと、イケメン婚約者のかれぴっぴ様。そして、茄子王子です。悪役令嬢生誕五周年の記念とし、悪役令嬢の存在をおとぎの世界により広く周知させるため、今回このゆるきゃらマスコットを組合で購入しました」


 司会の悪役令嬢がそう口にするや否や、会場に集まった悪役令嬢から大きな歓声が上がる。


「キャー!!イケメン」

「ねぇ、あのイケメンなに?」

「どこの物語に潜んでいたのかしら」

「掘り出し物には違いないわね」


 主に、グレアムに対してのようである。


(私が主役なのにッ!!)


 マリエッタはキィィと小道具のハンカチを手品師真っ青の勢いで取り出し、口元にあるフックに引っ掛け下に引っ張った。


「悔しがってるのかしら」

「ちょっと動きが古くない?」

「やだ、中の人はおばちゃんなのかしら?」

「定年退職をした悪役が入っていたりして」

「あっ、もしかして開始早々ヒロインの家に潰された東の悪い魔女辺りじゃない?」

「その可能性は否定できませんわね」


 オホホホと悪役令嬢達が一斉に扇子を口元に当て小馬鹿にした笑いを起こした。


(くっ、何たる侮辱……しかも)


 物語の開始早々ヒロインの家に潰され圧迫死……という誰も引き受けたがらない悪役を引き受けたオズの魔法使いという物語に登場する東の悪い魔女。確かに東の悪い魔女は東の国の独裁者として人々を困らせていた悪い魔女だ。しかし彼女ほど潔く物語から退場した悪役をマリエッタは知らない。


(しかも物語のキーアイテムになる魔法の靴をヒロインに残すという重要な役)


 自らの死と引き換えに物語序盤で最大貢献した悪役の魔女。そんな魔女を蔑ろにする言葉にマリエッタは怒りが込み上げた。


(ヒロイン組合と大違いだわ!!)


 ヒロイン組合は古参こさんヒロイン達を先輩と崇め慕っている。

 それに比べ悪役令嬢達はここ数年で台頭してきた者らしく、古参を馬鹿にしているようだ。


(悪役としての矜持きょうじはどこへ!!)


 マリエッタは着ぐるみの中で歯を食いしばる。


「皆様、ご存知の通り最近ではヒロイン達の王道たる妨害に加え、神の創造ノートの残ページ減少の危機に瀕しております。そしてその結果、既存の登場人物を悪役令嬢化する事がもはや困難になりつつあるのが現状です」


(残ページ減少?)


 マリエッタは初耳だと首を大きく傾げた。

 するとうっかりキグルミを着ている事を忘れていたマリエッタの大きな頭が、隣に並んでいた茄子王子の頭を横から頭突してしまう。


「うわっ」

「あっ、ごめんなさい。茄子王子」


 床に尻もちをつく茄子王子。

 よろけた茄子王子を立たせるのは黒装束に身を包む怪盗ダイア。

 明らかに見えているが、それを口にするのはナンセンス。何故なら黒衣くろごと呼ばれる彼らは観客からは見えないという約束事のもとに成り立つ存在だから。


「ちょっとマリー、気をつけて。この人茄子だけど王子だから」

「う、うん。ごめん。残ページって言葉が気になって」


 怪盗ダイアに注意され、マリエッタは素直に反省した。


「そりゃノートだからな。使えばそれだけ減る。この五年でおとぎの世界に送り込まれた悪役令嬢の数を見ても、ノートの残りページが少ない事は確実だろうな」


 グレアムがマリエッタに近づき囁いた。

 マリエッタは前に頭を振り、理解したとグレアムに知らせる。

 横にコテンは駄目だと学んだからだ。


「つまり現在私達は、神の創造ノートに終わりが見えた事により、新たな悪役令嬢を簡単に補充出来ない状況です。しかし悪役令嬢ブームを一過性の物として終わらせないためにも、会員確保は早急に必要かつ重要な課題。そこで開発されたのが、「神の創造もどきの単語帳」です。セキュリティー、例の物を」


 司会者である悪役令嬢がそう口にすると、黒いスーツにサングラス。やたらガタイの良い男性がその場に忽然と現れた。そして手に持った小さな長方形で赤いリングのついた単語帳を見やすいように上に掲げた。


「あれが単語帳……」


 セドリックがボソリと口にする。


「ただし「もどき」らしいけどな」


 グレアムがこっそり指摘する。


「あれを怪盗ダイアが奪えば……」


 マリエッタはキグルミの中で目を光らせる。


「もどきだからあれを盗んだ所でまた次の単語帳が現れるだろうね。それに、下手に動いて警戒されるのもまずいし」


 黒衣と化し、マリエッタ達の背後に控える怪盗ダイアがそう口にする。


(そっか。私達の目的は神の創造ノート自体を盗む事だもんね)


 マリエッタは諸悪の根源が目の前にあるのに手を出せない状況に、キグルミのスカートをモコモコした手で握りしめた。


「本当にそんな単語帳で神の創造ノートの代わりとして役立つんですか?」

「そうよね、既存の物語の強制力を変更し一介のモブ令嬢を悪役令嬢に洗脳するのは、神の創造ノートの力を利用してもかなり骨の折れる作業だわ」

「それに神の創造ノートの切れ端で行動指示した悪役令嬢ですらあまり上手く作動していない例が報告されている。その辺は大丈夫なのかしら?」


 会場の悪役令嬢達からそんな声があがる。


(意外に真面目に考えて悪役令嬢活動をしているんだ)


 マリエッタはその事に素直に驚いた。


「この単語帳の効果については、既に治験も進んでおり従来の神の創造ノートの切れ端に比べ性能は劣るものの、神のノートの切れ端同様、一度退場した悪役達を黄泉の国からこの世界に悪役令嬢として連れ戻す事に成功しています」


 司会者の悪役令嬢が自信満々と言った感じでそう言い切った。


「性能が劣るという点について具体的に教えていただけますか?」


 会場から単語帳の性能について、そんな声があがる。


「まず容姿についてですが、赤みがかったブロンド、そして髪型は縦ロール。ツリ目といった悪役令嬢らしいパターン。あぁ、ちょうどこちらの悪役令嬢ちゃん。この子のようなパターンになりがちです」

「なるほど。個性がなくなるのね」

「そして、悪役令嬢としての行動パターンも比較的単純化された物になってしまいます」

「単純化とは?」

「はい。ヒーローに媚びる事、そして婚約破棄を阻止する事といった二点に特化した結果、例えば、手っ取り早く階段からヒロインを突き落とす。ヒロインが孤立するように悪口を言う、はたまたヒロインの大事な物を壊すなどなど。やや陳腐な感じでワンパターン化してしまいやすい傾向があります。ただヒーローの心を掴んでおけば、なかなか上手く立ち回る事が出来たとの報告も」

「それってもはやヒロイン側で流行っている自作自演のパクリじゃないの」


(自作自演のパクリ?)


「そうよね。セキュリティー強化とか言って、ヒロイン自ら悪役令嬢を陥れる為にわざと悪役令嬢にやられたって、ヒーローに報告し悪役令嬢に全ての罪着せ、退散させるパターンが横行していると私も聞いたわ」

「つまり単語帳から作られた悪役令嬢はヒロインの劣化版ってこと?」


(そうなんだ……)


 マリエッタは何処か別の世界の話しと言った感じ。悪役令嬢ちゃんの中でポカンとした顔になる。

 しかしふとヒロイン組合、組合員相談センター、こころの修道院にてロアナが口にしていた事を思い出す。


『悪役令嬢に警戒しセキュリティーを強めた国が多い』


(つまりあの時ロアナさんが口にしていた乙女ゲー界隈で行われているセキュリティー強化って、自らが先回りしておくってことなのだろうか?)


 確かに悪役令嬢の出現が確認されたら、自ら先手を打っておく。それは間違いない行動だとマリエッタは乙女ゲー界隈ヒロインの並々ならぬ覚悟と、その行動力に脱帽した。


「ちょっと、自分で作り出せもしないのに文句を言わないでよね」


 突然割り込んできた高い声。


「そもそも、モブであるあなた達を悪役令嬢として物語でヒロインの座につけてあげたのは誰?」


 コツコツとヒールが床を鳴らす音が響く。


「迷い人様です」


 先程「劣化」と口にしていた悪役令嬢が小さな声でそう口にした。


「そう、この私よ」


(出たっ、ラスボス!!)


 マリエッタの体に緊張が走る。


 会場の入口からイケメンを侍らせこちらに歩いてくるのはストロベリーブロンドにサラサラとした腰までの長い髪を持つ女性。


(た、縦ロールじゃないのね)


 青い瞳が納められた目尻は下がり、発する言葉とは裏腹に何処か気弱そうに見える。

 頭の脇につけられた赤いバラの花の髪飾りと何段もフリルのついた赤いドレスは流石悪役令嬢といった感じではある。


(なんかドレスの色以外、わりとヒロイン寄りなような……だってストロベリーブロンドの髪色だし)


 マリエッタはそんな感想を抱く。

 そもそも髪色で人の良し悪しを判断してはならない。それはマリエッタも身をもって感じている。けれどヒロインにピンク系の髪色が多いのもまた事実で。


(うーん、迷い人って謎)


 マリエッタは曖昧な答えで自分をひとまず納得させた。


「そもそも、私の想像力だって限界があるわけ。劣化版だろうとなんだろうと、悪役令嬢、もしくは取り巻きがヒロインをひどい目にあわせれば良くない?そもそも悪役令嬢はヒロインなんだし」


(でた!!)


 諸悪の根源はまさにこの人物だと危険な思想を持つ迷い人にワナワナと震えるマリエッタ。

 しかし厚手のキグルミのお陰でバレてはいない。


「やだー、何このイケメン。ちょっと早く教えなさいよ。これの名前は?」


 茄子王子、悪役令嬢ちゃんの前を素通りしグレアムの前で立ち止まる迷い人。


「悪役令嬢ちゃんの婚約者。かれぴっぴです」


 司会者がすかさずグレアムを紹介する。


「ふーん。いいわ。あなたは私の取り巻きに入れてあげる」


 迷い人がグレアムに上から目線全開でそう告げた。


(に、任務とは言え、く、くるものがある)


 マリエッタはグレアムが予定通り迷い人に気に入られたのを目の当たりにし、任務成功と喜ぶ気持三割。


(グレアムに色目を使うな!!)


 嫉妬で荒ぶる気持七割。

 むしろその七割りの気持に忠実になったマリエッタはキグルミの縦ロールをぐわんぐわん揺らす。


 そう、とても荒ぶっていたのである。


「悪役令嬢ちゃん、お、落ち着こうか」

「うわっ」


 茄子王子ことセドリックが悪役令嬢ちゃんを取り押さえようとして縦ロールに顔をぶつけ床に倒れる。そんな茄子王子を黒衣の怪盗ダイアが無言で支える。


「やだ、何このなまはげみたいなゆるキャラ……」


 迷い人はポツリと呟き、それからグレアムの腕にしっかりと抱きついたのであった。

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