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035 茄子大発生

 マリエッタとグレアム。

 二人は無事仲直りをし、アデルを倒した事により勇者メモリアルホールから生還した。

 それからマリエッタとグレアムは魔法学校へ仲良く戻った。そしてたまった宿題を片付けようと二人で早速図書館へ向かったのだが――。


「一体これはなんだ?」


 素性を隠すため丸メガネをかけたグレアムがマリエッタに訝しげな声をかける。

 その隣でマリエッタはあんぐりと口を開いたまま、固まっている。


「あぁ、ようやく戻ってくれたか!!」


 背後からセドリックの声がして同時に振り返るマリエッタとグレアム。


「って、あんたもかよ」

「!?」


 マリエッタはもはや驚きで声も出せない状況。

 何故なら目の前にいるのはどうみても茄子だからだ。

 正しくは魔法学校の男子生徒の黒い詰め襟の制服を来た人物の頭が茄子になっていると言う状況なのである。


(しかもなすに顔がないし。こわい)


 マリエッタは今まで呆気に取られ、停止していた思考回路をようやく起動させた。


「どうも悪役令嬢が仕掛けてきたらしいんだ」


 どうみても茄子からセドリックの声がする。


(つまりこれはセドリック様なんだろうけど)


 喋らなければ制服を着た怪しい茄子魔人だ。


「悪役令嬢のせいでみんなが茄子になったのか。まじかよ。ギャグすぎんだろ」

「この世界の愛称は天然なすだから。確かにギャグなんだろうが。しかし困った。段々と体が紫色になってきているんだ」

「まじかよ。魔人化してるのかも」


 グレアムがセドリックの顔をまじまじと見たのち、プッと吹き出した。


「笑うな。お前は元々なすのヘタみたいな頭をしてるからいいだろうけど、こっちはモブでも一応金髪碧眼。誰もがついうっかり二度見するくらい美形の王子って感じで頑張ってきたんだ。今更その他大勢。なすのような茄子になるのは勘弁だ」


 忌々しいといった感じで声を荒らげる茄子になったセドリック。


「もういっそ、漬け込んでもらって差別化を図るとか」

「しょっぱいだろう!!」


(え、そこ?)


 セドリックのツッコミにさらにツッコミを入れるマリエッタ。


「なすのへたみたいな髪型をした冴えない初恋の彼は魔界の王子でした――重すぎる愛に今更気付いた所でもう遅い天然娘の大冒険――の主人公マリエッタ様!!」


(うわ、フルで久々聞いたよ)


 マリエッタは物凄い早口でありながら一度も噛まずに言えるのは凄いと感心しながら声のした方に振り返った。


「マリエッタ様。イケメンなセドリック様を返して下さらないかしら」


 相変わらず物語に関与した悪役令嬢の影響を受けていると思われるディアーヌ。

 背後に数人の茄子を引き連れ、マリエッタの元に伯爵令嬢らしからぬ勢いで走り込んできた。


 そして「通常業務です」といった感じ。

 いつも通りツリ目でマリエッタをキリリと睨みつけてきたのである。


「あなたのお相手は元々なすのヘタみたいな髪型をしているから、ノーダメージかもしれませんけれど、セドリック様はこんな茄子じゃ駄目。早く元に戻して頂戴」


(わ、流石未来の夫婦。ディスり方の導入部分におけるシンクロ率高ッ!!)


 マリエッタは流石婚約者だと密かに感動を覚える。


「天然なすのヒロインなんでしょ。どうにかして」

「そう言われましても」

「何よ、自分の相方の茄子にちゃんと顔があるからってこの緊急事態を放置するつもり?」

「いえ、どうにかしたいとは思っています」

「じゃ、茄子を早くどうにかして」

「うーん、状況を把握してないし」

「状況は見ての通り。この世界の男子がみんな茄子になっちゃったのよ!!」


 そう言ってディアーヌが指し示した茄子は薄茶色の釣り人ベストに千鳥格子の茶色いズボン。どうみてもグリフォン整列係のトムの服装だった。


「なるほど。全世界のなすがトムさんに魔人化……」

「マリエッタ、それは違う。トムが茄子に魔人化だ」

「あっ、そうねグレアム。私はちょっと混乱しているみたい」

「まぁ、この状況じゃな」


 グレアムはセドリックを見て再度プッと無遠慮に吹き出した。


「ちょっとあなた、自分だけ顔があるからって失礼よ。これだから庶民の茄子は」

「なんだよ。庶民とかそういうの、茄子に関係ないだろ!!」

「ふんっ、せいぜい茄子ってなさい」

「何だよ、茄子ってなさいって」


 グレアムとディアーヌのやりとりを違和感たっぷりに感じるマリエッタ。


(何だかディアーヌ様の言葉に「茄子」の登場回数がやたら多いような)


「おたんこなす」

「なんだと!!」

「あなたが茄子ウィルスをどこからか持ち込んだんじゃないの?」

「さっきセドリック様が悪役令嬢のせいだって言ってただろう?」


 グレアムとディアーヌがいがみ合っている。

 そんなグレアムの隣でマリエッタは探偵っぽさを気取り、こめかみにそれっぽく指先を当てた。


「悪役令嬢がここ、天然なすの世界に安易に茄子ウィルスをばら撒いた。そして全人類の茄子魔人化を計っている。そう仮説したとして、問題が一つ」

「マリー。なんか探偵みたいだな」

「へへへ」


(やっぱりグレアムはちゃんとわかってくれる)


 マリエッタは幸せな顔をグレアムに向ける。


「いいから、先を続けないよ。全くこのなす頭が!!」

「なす頭言うな!!」


 グレアムとディアーヌがまたもや言い合いを始めてしまった。


「ちょっとグレアム落ち着いて。こう見えても一応ディアーヌ様は将来の王妃様候補なんだから媚を売っておかないと」

「だけど、ムカつくだろう」

「それでも、私達の明るい未来の為に敵は少ないほうがいい」

「……明るい未来……そうだな」


 グレアムがマリエッタの言葉に頷いた。


「で、何なのよ、問題って。勿体つけてないで早く茄子りなさいよ」


 ディアーヌが呆れたような声でマリエッタに言葉を促す。


(ちょっと茄子りなさいよって何!?)


 マリエッタは驚きつつも、これ以上のおふざけは何となくやばいと感じ取り、慌てて口を開き自らの疑問を口にする。


「何で男子だけが茄子にされたかって事です」

「……確かに茄子ね」

「それに、ディアーヌ様の語尾が茄子ってます」

「そうなの。自分でもわからないけど、茄子りたいのよ」

「お前、頭大丈夫か?」


 グレアムの至極真っ当な指摘にディアーヌはグレアムを無言で睨みつけた。


(言葉を発すると茄子っちゃうからね)


 マリエッタはディアーヌの乙女心を察した。


「しかし、茄子魔人になるのは困る。確かに我が国は茄子を神からの贈り物として崇めてはいる。しかし国民が茄子になるのはまた話が別だ」

「一体悪役令嬢はどういうつもりで男子を茄子にしたんだ?」


 流石にグレアムも今度は吹き出したりせず、真面目な顔でそう口にした。


 その時空からグリフォンに跨る茄子の見た目の青年がマリエッタに向けて封筒を一枚空から落とした。


「速達でーす」


 それだけ口にすると忙しなく大空を飛んで行ってしまった。


 マリエッタは空からヒラヒラと落ちてきたピンクの封筒をしっかりと受け止める。


「あっ、ヒロイン組合からだ」

「早く開けなさい……な……ぐぬぬ」


 ディアーヌが物理的に自分の口を片手で押さえた。

 かなり茄子に犯されているようだ。


 マリエッタは慌てて苺の文様の入ったピンクの封蝋を召喚した魔法のナイフでペリッと剥がす。そして中から取り出したピンクの紙に慌てて目を通す。


『拝啓


「悪役令嬢弾劾、追放イベント――その時ヒロインとして――」開催のお知らせ。


 謹啓 秋ナスは嫁に食わすなの候、組合員の皆様におかれましてはますますご健勝のことと心よりお慶び申し上げます。


 さてこのたびヒロイン組合ではついに、悪役令嬢に最終決戦を迎えるべき準備が整いました。つきましては事前に「悪役令嬢弾劾、追放イベント――その時ヒロインとして――」と題したセミナーを開催することとなりました。


 今回のセミナーでは悪役令嬢について詳しい知識をお持ちの専門家をお招きし、円滑にできるだけヘイトの少ない弾劾、追放イベントの実現に向け、成功事例をご紹介しながら解説するという、即実践に応用した内容となっております。


 また皆様からの質疑応答にお答えする時間も多くとっておりますので、この機会に悪役令嬢に関するの疑問点を解決し、個々のヒロイン業務に役立てていただけると幸いです。


 悪役令嬢の弾劾、追放にご興味のある方には、ぜひご参加いただきたいセミナーとなっております。


 なおこちらは強制参加ではありません。しかしながら、おとぎの世界は確実に悪役令嬢に汚染され、情勢不安が続く状態です。円滑な本編終了後ライフをお望みとのヒロイン様におかれましては、ご多用とは存じますが、お役に立てる内容となっておりますので参加をご検討いただければ幸いです。


 略儀ながら書中をもってご案内申し上げます。


 敬具』


 手紙を読み終えたマリエッタは顔をあげる。


「なんてタイミングがいいんだろうって感じ」

「あぁ、そうだな。ただ、俺たちの世界の他にも悪役令嬢に汚染された世界が増えつつあるって事だろうな」

「最終決戦って書いてあるもんね」


 マリエッタは再度手元に握った手紙に視線を落とした。

 そこにはしっかりと「最終決戦」という文字が書かれている。


(これで平和な世の中に戻ればいいんだけど)


 マリエッタは強く願う。


「とりあえず、ペンとメモでしっかりと茄子って――ぐぬぬ」


 ディアーヌがまたもや茄子と言いかけた自分の口を両手で塞いだ。


「茄子、茄子と口走ってしまうディアーヌが可愛くてたまらないよ。はははは」


 相変わらずディーアーヌにくびったけと言った様子のセドリック。それを微笑ましい気持ちで見守りながらセドリックの顔が茄子である事をマリエッタは再確認した。


「とにかく、セミナーに出てみないとね」


 マリエッタは早く参加したい。

 そんな気持ちになったのであった。

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