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032 よろしいならば決闘だ!!

「マリー?ど、どうして俺にその剣を向けているのかな?」


 マリエッタが剣を構えた姿を目の当たりにし、後ずさるグレアム。


「話しにならないからよ。さぁ、あなたも剣を抜きなさい」

「まぁ、ヒロインって血の気が多いんですね」


 アデルの言葉が更にマリエッタの苛々とした気持ちを逆撫でする。


「いや、流石にマリー。それは無理だ」


 グレアムは首を左右にブンブンと振った。


「魔界の王子もたいした事はないのね。ヒロインである最強の私に怯えているのかしら?」

「違うけど。いや、恐ろしくないかと言ったら確実に恐ろしいけど。俺はマリーに剣を向ける事は出来ない。一体どうしたんだよ」


 グレアムが縋るような視線をマリエッタに向ける。


「グレアムが反省していないからよ。ピンクバニーちゃんの件といい、今回のアデルさんの件といい。あなたは何でそう巨乳に弱いの?」

「あっ、それも思い出しちゃったのか!!」

「当たり前でしょ。というか、やらしい」

「そ、それは、まぁ、男の本能的な……」

「最低」


 マリエッタは勇者の剣をグレアム目掛けて振り下ろす。

 グレアムは青ざめながら咄嗟に背後に避け、マリエッタの振り下ろした剣はブンッと風を斬りそのまま地面にガツンと剣先をめり込ませた。


「け、けど、お前だって背が高い方がいいとか、イケメンは正義とか。そう言っていたじゃないか!!」

「確かに……けどイケメンは正義だもの」

「じゃ、俺だってイケメン枠に入るから許されるはず」

「……イケメンでも例外はある」

「チッ、何だよ。巨乳だって正義だ」


 開き直ったようにグレアムがハッキリとそう言い放った。

 マリエッタはその言葉にこめかみをピクリとさせ、勇者の剣を素早く床から引き抜くと驚きの速さでグレアムに斬りかかる。


「くそう、ないものねだりしやがって」


 マリエッタの剣先はまたもや咄嗟に避けたグレアムから逸れる。


「マリー。ヒロインは言葉遣いに気をつけよう」

「最低ですね。ないものねだりをしやがりまして」

「なんか違う!!」


 キリキリと睨み合う二人。


「ふっ、相容れないわ」

「いや、違う。マリエッタ。俺はお前を愛している」

「ダメンズに時間を裂くほど私の人生はもう時間が残ってないから」

「まだ十六だろ!!」

「もう十六よ!!しかも、これから青春あおはるって時に悪役令嬢に物語を穢されて、私だってちゃんと恋愛したい。ドキドキしたいの!!」

「俺とすればいいだろ」

「…………まぁ、そうだけど」


 マリエッタとグレアムの間に微妙な空気が流れる。


「もっと想い合いなさいよ!!」


 その存在を忘れかけていたアデルが突然ピシリと鞭で床を叩いた。


(えっ、その鞭なに?女王様属性?)


 マリエッタは慌てて床に刺さった大剣をよっこらせと引き抜く。

 それから数歩後ずさり、アデルから距離を取った。


「ア、アデル?その鞭はなんだ?」

「標準装備ですわ」

「なるほど……えっ!?」


 何かを感じ取ったグレアムがマリエッタの元へ逃げようと足を進め、叶わなかった。


「うおっ、俺のマントを踏むな」

「ヒラヒラしてるのでついうっかり」


 アデルがグレアムのマントをしっかりとピンヒールで踏みつけた。


「アデルさん、因みにさっきのもっと想い合いなさいよっていうのはどう言う意味ですか」


 マリエッタはグレアムを完全に無視し、アデルに疑問をぶつける。


「大変申し訳ないのですが、私は自分を好きな男には興味がないのです」


 柔らかな物言いとは相反し、ピシリと鞭で床を叩くアデル。そしてその側で怯えるのはグレアムだ。


(いい気味……じゃなくて)


「えーと、アデルさんは両思いになりたくないって事ですか?」


 そんな馬鹿なと思いながらもマリエッタは一応確認する。


「そうよ。私は人の物を奪うのが好きなの」

「怪盗ダイアかよ!!」

「怪盗ダイアみたい!!」


 思わず声が揃うグレアムとマリエッタ。


「いいじゃない。息がピッタリ。その調子でお願いしますわ。ジャンジャン想いあってください」


 アデルが妖艶な笑みをマリエッタに向けた。


(不気味なんだけど)


 グレアムを好きなはずのアデル。

 それなのにマリエッタにグレアムとイチャイチャしろと指示する事にマリエッタの頭は理解不能だと混乱する。


「ち、因みに、人の物を奪うのが好きな場合、最終的にはどこで満足されるんですか?」


 マリエッタは素朴な疑問を口にする。


「いい質問ですね。私の場合、相手のいる男性が自分に振り向いて「好き」と好意を口にした所でジ・エンド。私の方の心はそこで完全に満たされますので、後はポイ捨てですね」

「き、鬼畜だな」

「それって……カエルの王子様症候群なんじゃ!!」


 マリエッタはヒロイン講座で習ったばかりの現象を思い出す。


「残念ながらカエルのそれとは違うのです」

「え、でも付き合ったらもういいって……」


(絶対それカエルじゃん)


 マリエッタは内心そう思った。


「カエルの方は、純粋な気持で片思いをした末に訪れる感情。けれど私は相手を好きになるきっかけからして違います」

「えっ、そうなんですか?」

「はい。例えば私はマリエッタさんからグレアムさんを奪ったとします。となると殿下にとって私はマリエッタさんより価値観のある女だと確認出来るわけです」


 清く、正しく、全年齢対象をモットーに生きているマリエッタ。「その発想はなかった」と素直に驚いた。


「だいぶ、拗れていますね」

「いいえ、マリエッタさん。論理的に考えて見て下さい。既に相手がいる人というのは、その相手に選ばれたというわけです。つまり、最低基準を満たしている場合が多い。そういった人を横取りした方が駄目な男にちょっかいを出すより無駄がないですよね?」

「道義的にどうかと思いますけど」


 マリエッタは至極真面目に答えた。


「まぁ、いいです。さ、お互い愛を確かめ合って下さい。そこを私が横からサクッと奪いますので」


 苛々とした様子でそう言い切るアデル。


「えー、なんかそう言われるとねぇ」

「誰かに煽られてできるもんじゃないし」


「だよねー」とマリエッタとグレアムは顔を見合わせる。


「チッ」


(えっ、今舌打ちしなかった)


「ケンカップルとか面倒なだけ。早く和解して下さい」


 アデルはそう言って、ピシリとまた鞭をしならせ床に打ち付けた。


「ヒィィィ。マリー、やばいって」


 マントを踏みつけられたままのグレアムが体を震わせた。


「そもそも私とグレアムは中途半端に本編を終わらせたせいで、まだキスも出来ない状況なんです」


 小指の爪程度ではあるが、グレアムを可愛そうに思ったマリエッタはそう弁解を口にする。


「そ、そうなんだよ!!」

「それにグレアムは私に愛してると言ってくれます。でもその前の段階である「好き」を口に出来ないので、私達は幼馴染以上恋人未満のまま、後にも先にも進めないんです」

「物理的にもな!!俺は今だってピーでピーなのにッ」


 マリエッタはとりあえずピーなグレアムをキリリと睨んでおいた。


「なにそれ、全然お話にならないじゃないですか。幼児の恋愛ですか?」

「まぁ、全年齢向けですし」

「そうだ。というか、俺のマントから出来たら足をどけてくれないか?」


 アデルは返事の代わりにピシリと鞭を床に打ち付けた。


「組合本部の話しと全然違うんだけど」


 爪を噛みながらアデルが呟いた言葉をマリエッタは敏感に拾いあげる。


(組合って何のこと?やだ、まさか悪役令嬢のじゃないよね?)


 マリエッタはまさかこの人が!?と驚きの顔になる。


「令嬢ナンバー三十五。エコロジー系悪役令嬢クララが二人の仲をかき回した結果、ヒーローとヒロインの愛がいい感じに深まって、美味しい想いが出来ると聞いてきたのに」


 アデルの口から漏れ出した声にマリエッタは確信した。


「やっぱりアデルさんが新たに天然なすに紛れ込んだという悪役令嬢なんですか?」

「嘘だ。そんなはずは」


 グレアムはそこで言葉を切り、何やら考え込んでしまった。


「ふっ、バレてしまったようね。いいわ。正々堂々と名乗りをあげてましょう!!」


 アデルは腰に手を当てた。


「何を隠そう、私は悪役令嬢組合令嬢ナンバー四十番。略奪系を担当している、悪役令嬢アデルと申しますわ。一夫一妻制を説いた罪で成敗させて頂きますわね?」


 床をピシリと鞭で打ち付けるアデル。


(一夫一妻制を説いた罪って、それ罪なの!?)


 マリッタはアデルが悪役令嬢組合からの刺客だという事実よりも、アデルが口にした罪の部分にとにかく驚いてしまったのであった。

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