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019 ヒロインVSエコロジー系悪役令嬢クララ

引き続き、てんとう虫注意報です

 現在、夢のようなゴージャスな内装に飾られた王城のホール。

 そんなホールの天井から吊り下がる輝くシャンデリアの真下。

 天然はわわ系ヒロイン許すまじの罪に問われているのはヒロインマリエッタである。


「さぁ、苦しみの声も上げられず炎によってその生命を終える事となったてんとう虫達の恨みを思い知るがいいッ!!」


 クララは真っ赤なドレス。胸元の深い谷間からシャキーンと扇子を取り出した。

 その扇子をバッと広げ、クララはてんとう虫の恨みを込めた恐ろしい顔でマリエッタを睨みつけた。


 因みに扇子には「益虫は害虫食べるよエコロジー」と標語のようなものが書いてある。


(エコロジー運動。それは環境保全や地球環境に負荷をかけない運動のこと。つまりクララは限りなくこの世界に優しい活動中……それに比べ私は益虫である罪なきてんとう虫をッ!!)


 くっ、もはやここまで……そう諦めかけた時、マリエッタの脳裏に煌々(こうこう)と天からの啓示のように、てんとう魔人と戦った時の記憶が蘇ってきた。


(そうだ、あのてんとう虫はッ!!)


「ちょっと待って!!」


 マリエッタは大きな声をあげる。


「今更罪を認めても失われた命は戻らないわ。自らの行動を悔やんで追放されるがいい」


 クララはマリエッタに再度チクリとくる暴言を吐いた。


「違う。あなたは大きな勘違いをしている」

「勘違いですって」

「そうよ。てんとう魔人……彼が召喚したてんとう虫。それは、テントウムシダマシだったからよ!!」


 マリエッタは勝ち誇った顔で真実をクララに告げる。


「なんですって!?因みにてんとう魔人は「彼」じゃないわ「彼女」よ!!」


(なんですって!!って彼女だったの?)


 マリエッタの言葉を受け明らかにクララが動揺した。ついでにマリエッタもてんとう魔人の衝撃の告白に動揺した。


 つまり現在の白熱する戦いは今のところイーブンである。


「ちょっといい?テントウムシダマシって、てんとう虫じゃないわけ?」


 今まで静かに傍聴者に徹していた怪盗ダイアが怪訝な顔をマリエッタに向けた。


「かい……ダイ。お前そんな事も知らないのか?」


 グレアムが怪盗ダイアを馬鹿にする。


「だからそのダサい名前やめてくれるかな?というか、普通てんとう虫はてんとう虫だろう?」

「いいわ、私は親切なヒロインだから説明してあげる。てんとう虫は肉食。けれどテントウムシダマシは草食。つまり、アブラムシは食べてくれないの」


 マリエッタは怪盗ダイアに丁寧に説明した。


「その上、テントウムシダマシの主な好物はジャガイモやナス。それにトマトなどのナス科の植物……つまりこの世界の天敵だってことだ」

「補足をありがとう。グレアム、GJグッジョブ


 マリエッタはグレアムに笑顔で頷く。

 するとグレアムもマリエッタに大きく頷き返した。


 二人がナイスコンビである事を示す瞬間だ。


「因みにてんとう虫とテントウムシダマシの見分け方のポイント二つ。一つは背中の模様。テントウムシダマシは赤みがかった褐色の背に二十八個の黒い点があるのが特徴。そうしてもう一つは色艶よ。てんとう虫が艶々の赤色をしているのに比べ、テントウムシダマシは艶が少なくて、色もくすんでいるわ」


 マリエッタは親切心満載な気持で怪盗ダイアに見分け方を伝授した。


「それは別にいいや」


 怪盗ダイアはマリエッタが熱弁した部分を軽視する言葉を発した。


「良くないでしょ」

「紳士の知識として知っておくべき事だ」

「そうよ。グレアムの言う通りだわ」

「マリーの言う通りでもある」


 マリエッタとグレアムはお互い小首を傾げながら「そうだよねー」とお互い同意しあう。


「だって、そもそも僕は虫が大嫌いだからね。視界に入った瞬間KOS(キルオンサイト)だから。見分ける?馬鹿馬鹿しいよ。僕はそんな無駄な事はしない主義」


 怪盗ダイアはそっけなく、しかし恐ろしい言葉を口にした。


(やっぱり根っからの悪役……)


 マリエッタは怪盗ダイアの闇に触れ、密かにそう納得した。


「つまり私が今ここで主張したいのは、クララさんのおっしゃるところ、私が魔法で始末した七十三匹のてんとう虫に見えるアレは、実はテントウムシダマシだったということ。そう、私は害虫駆除をしただけよ!!」


 マリエッタは堂々と自分の正当性を主張した。


「でも、それは人間側の都合を押し付けているだけ。テントウムシダマシだって生きる権利はあるはずですわ」


(そ、それはそうだけど)


「それに、ヒロインは誰からも好かれるべきだわ。でもエコロジー寄りの人間からしたら、何だかんだ自分に都合の良い理由をつけて、テントウムシダマシを殺害した。そんなあなたはヒロンじゃない、立派な悪役よ!!」


 クララの真っ当とも思える言い分にマリエッタの心にヒビが入る。


(確かにテントウムシダマシから見たら私は大量連続殺人犯……)


 それでも、とマリエッタはしっかりクララを見据える。


「だけど私達が丹精込めて作った野菜を無断で食べるテントウムシダマシだってずるいじゃない」


 マリエッタは苦し紛れと言った感じではあったが、何とか反論を口にする。


 すると何処からともなくパチパチパチと拍手する音が聞こえた。


「流石我が国、リーナス王国のヒロイン。マリエッタ君」


 セドリックの登場にその場の者が全員膝を折り頭を深く下げた。

 マリエッタも若干遅れを取りながらひざまずく。


(うへー、すっかり忘れがちだけど。セドリック様はやっぱ王子殿下だわ)


 マリエッタは久々取った礼のポーズに今更セドリックが王子である事を思い出していた。


「顔を上げて楽にしてくれ」


 セドリックの言葉に衣擦れの音と共に一同その場になおる。


「一部始終を見ていた私の感想を述べる。他の国ではどうだかわからない。しかし我が国では神聖なるナスの天敵は我が国の敵とみなすと法律で定められている。よって、マリエッタ・イーストン。彼女の罪は問われない」


 セドリックがそうハッキリと口にした。


「そしてもう一つ、悪役令嬢クララ。君は現在おとぎの世界における条約の一つ、他の物語の世界に立ち入ってはならないという条約違反を犯している。さらに言えば、我が国の要人と言っても過言ではないディアーヌに介入し、彼女を脅し悪役令嬢を無理やり演じさせた。その罪は重い上に、私は君を許すつもりはない」


 セドリックはマリエッタが見たこともないくらい凛々しく、そしてとても厳しい表情と声でクララの罪を口にした。


「セドリック殿下の言う通りだ!!」

「この世界はコメディなんだ。みんな笑いを求めている」

「そうだ、そうだ。物語を壊すだけの悪役令嬢なんていらない」

「でーてーけ、でーてーけ」


 本編ではモブに徹していたはずの聴衆。

 今回のパーティに出席していた貴族達からクララを排除する声があがる。


(え、みんなどうしたの?)


 マリエッタはコメディという属性柄、「笑いが取れればオッケー」を人生の座右の名にする温厚な民族であるはずの聴衆の変化に戸惑う。


「ふっ、愚かね」


 クララは鼻で笑い、そして挑戦的な視線を周囲に向けた。


「私一人を排除したところでおとぎの世界における悪役令嬢の侵食は止まらない」

「どういうこと?」


 マリエッタはクララに問いかける。


「時代は変わったのよ。生まれた瞬間から悪役と名がついている私達だって、何かがきっかけで正義に目覚める事がある。それに私達にだって人権があるわ」

「でもだからって本編で悪役を演じず、ヒロインの邪魔をする事は職務放棄じゃない。それはこの世界を壊す事に繋がるのよ?」


(どうせ人生を謳歌したいなら本編後にすればいいのに)


 マリエッタは素直にそう思った。


(あ、でもやっぱり、それもやめてくれるとありがたいかも)


 脳裏にディアーヌのツリ目が浮かび、どっちにしろ悪役令嬢はノーサンキューだとマリエッタは即座に思い直す。


「悪役と名が付きながら、ヒロインの座に君臨する。それが悪役令嬢。私達を悪役の型にハメず自由な発想を与えてくれる迷い人の悪役令嬢こそ神なの。私達はこの世界を破壊し悪役令嬢こそ正当なるヒロインとなる世界に再生する。エコロジー!!」


(まさにのっとりじゃない)


 マリエッタはクララを睨みつける。


「ヒロインだから絶対に正義でありハッピーエンドに向かう。それが許される時代は終わったのよ。何より私達には神の創造ノートという、究極のチートアイテムがあるのだから怖いものなしだわ」


(そうだ。それはかなりまずい)


「あー、もしかしてこれって、そのチートアイテム。神の創作ノートの切れ端的な?」


 怪盗ダイアが片手に持った紙をピラピラとさせる。


「あ、そうだよ。きっとそう!!」


 マリエッタはその紙を、何だかサイバーな感じのするヒロイン組合員相談センターのロアナに見せれば何か新しい事がわかるかもと閃く。


「じゃ、まぁこの紙は危険ってことで」


 怪盗ダイアがニヤリと口元を歪ませた。


「あ、嫌な予感がする」

「マリー、俺もそんな気がしてる」


 怪盗ダイアは紙切れを片手の上に乗せた。

 そして、何処から出したのか謎の羽ペンを握るとその紙にサラサラと何かを書き足した。


「くっ、ここまでか……しかし、せいぜい次の悪役令嬢に注意することね……エコロジー……」


 忌々しいといった声を出しながらクララの体が足元からゆっくりとその姿を変えて行く。

 段々とマリエッタの目の前に浮かび上がるのは黒い全身タイツに丸い甲羅のような物を背負ったもの。ついでに言えば頭に触覚が二本ほどついた何処かで見覚えのある魔人だった。


「えっ!?」

「まさか、お前ッ、てんとう魔人だったのか!?」

「だって、倒したはず」

「そうだ。お前はこの物語から退場したはずだろッ」


 グレアムの言葉が響く。


(確かにそう。てんとう魔人は私とグレアムによってこの物語から確かに退場した。なのに何でまた復活してるの?)


 マリエッタは常識を越えた初めてのパターンに驚き固まる。


「ふふ、アイル、ビー、バッ……む……ねん。エ……コロジー」


 最後に不敵な笑みをマリエッタに向けたてんとう魔人は一瞬で砂になった。

 そしてその場に吹き込んできた風にのってあっという間にその場から消えてしまった。


「消えた!?」

「おい、怪盗ダイア、お前一体何を書き込んだ!?」

「悪役令嬢組合、令嬢ナンバー三十五。エコロジー系悪役令嬢クララを追放するって書いたけど」


 ケロリとした顔で恐ろしい言葉を吐き出す怪盗ダイア。

 そんな怪盗ダイアに驚いている間にクララことてんとう魔人の体は溶け、跡形もなく消え去ってしまった。


「あっ、紙が消えちゃった」


 怪盗ダイアが手のひらをくるくると回し、キョトンとした顔をしている。


「大丈夫か、ディア!!」


 セドリックの声が響く。


(あっ、ディアーヌ様もいたんだっけ?)


 ついうっかりその存在を忘れていたマリエッタは、てんとう魔人が悪役令嬢になって復活したという謎を放り出し、慌ててセドリックの元に駆け寄ったのであった。

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