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013 セドリック様の作戦実行

「略して校外学習で親友に!!」


(全然略してないけど)


 セドリックの言葉に密かにツッコミを入れるマリエッタ。


 今日はセドリックの号令でまたもや特別談話室に呼び出されたマリエッタ。


「あれ、グレアムと怪盗ダイアは何処ですか?」

「彼らは揃って腹痛らしい」


 セドリックは「大事がないといいのだが」と口にしながら心配そうな表情をマリエッタに向けた。


(え、それ絶対仮病じゃないかな?)


 マリエッタには手にとるようにそれがわかった。何故なら出来る事ならマリエッタも仮病を使いたかったからだ。

 しかし王子殿下の召喚命令に「面倒だな」という理由で仮病を使った場合、どの程度の罪に問われるのか。それがいまいち良くわからなかったのでマリエッタは渋々召喚に応じたのである。


(まさか実行に移す輩がいるとは……許すまじあの二人)


 そんなわけでマリエッタは一人寂しくソファーに腰を下ろす。


「ディアの件なのだけれど、君達にいくつか話した正攻法。あれを実行に移そうと思う」


(え、本気でやるの?)


 マリエッタは内心「まじか、まじでやるのか」と信じがたい気持ちでいっぱいだ。


「えーと、私の記憶が正しければセドリック様は前回「嫉妬大作戦」に「危険がいっぱい大作戦」に「権力を翳すに限る大作戦」辺りを推していたと思いますけれど「校外学習で親友に!!」というのは、どれに該当するのですか?」


(どれも上手く行くとは思えないけど)


 内心マリエッタは失敗するだろうなという気持ちでここにいる。それでも王子殿下がやると言えば、国民は「はい、喜んで」と従うしかない。だからマリエッタは無駄な抵抗をせず、さっさとその作戦とやらを聞いてこの会合をお開きにしようと思った。


「やっぱり武器を持って争う前に、一度は話し合いを試みる事が大事だと思うんだ」


 なかなかいい事を言うなとマリエッタは頷く。


「でも向こうは全然聞く耳を持ちませんよね?」


 ディアーヌは相変わらず悪役令嬢ぶっている。しかも最近悪役令嬢っぷりが段々と板についてきている気がする。


(周囲もそういう目でみるようになったし)


 その結果、何となくディアーヌは貴族の間からも孤立し始めているように見えた。


(そりゃそうだよね)


 将来この国の王になる事が予定されている王子殿下を好き好んで敵に回したい人間はいない。貴族ならばなおさらだろう。


(このままじゃ、誰もディアーヌ様の周りにいなくなっちゃうかも)


 自業自得だとは思う。

 けれどマリエッタはこの国が好きだし、滅びるのは勘弁だ。

 それに何よりセドリックはディアーヌの事が好きなのだ。


(つまり障害となっているのはディアーヌ様の思い込みだけ)


 だとするとセドリックが説得するのが一番である事は確かだ。

 しかし、現在わりと厳しい状況に置かれているディアーヌに対し、目の敵にされているマリエッタは勿論の事、婚約者であるセドリックが何か言っても、全く聞き耳を持ちそうにない事がマリエッタには安易に想像が出来た。


(洗脳って恐ろしい……)


 マリエッタもヒロイン的思考にわりと洗脳されている自覚はある。

 けれど今のところ、それで誰かに迷惑はかけていないはず。だからディアーヌの悪役令嬢のあれこれよりはずっと自分の方がマシだと思っている。


「誘拐や監禁。そういった極限的な状況下では、被害者が加害者に対し好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象があるらしい」

「ストックホルム症候群というやつですね」

「そう。それを狙いたいと思う」

「なるほど。いいと思いますよ」


(だって、セドリック様が好きで私にイチャモンをつけているわけだし)


 そもそもこの事件の始まりはセドリックをマリエッタに奪われるとディアーヌが悪役令嬢組合によって洗脳されて始まった事は確実だ。


(つまりは、セドリック様とディアーヌ様で監禁でも誘拐でも何でもいいから二人キリでイチャイチャしてくれたら、ある意味全て解決なんだもんね)


 それに運良く現在は本物の悪役である怪盗ダイアがセドリック陣営にいる。


(怪盗ダイアにディアーヌ様を盗んでもらう。おぉ、なんかドラマチックかも)


 悪くない。全然いいとマリエッタは明るい表情をセドリックに向けた。


「というわけで、君とディアーヌが共に力を合わせ親友になること。そしてその友情パワーでディアーヌの内側を汚染する悪役令嬢魂を駆逐してくれ」

「え?私がですか?」

「期待しているよ。マリエッタ君!!」


 セドリックに告げられた事があまりに斜め上すぎる話しだった為、流石のマリエッタもこの時ばかりはツッコミを完全に忘れていた。

 そしてヒロインらしからぬポカンとした顔を無防備にセドリックに晒していたのであった。



 ★★★



「何でこの私があなたとペアで野草採取に行かなければならないのかしら?」


 ディアーヌがこれ以上ないくらい目を見開いている。


「くじ引きですから」


 マリエッタは必要最低限の言葉を返す。


(ただし、セドリック様の企みによってですけど)


 ネタバラシは禁止されているのでマリエッタは心でそっと真実を付け足しておく。


「あり得ないわ。他の人に変更してもらうから」

「そうですね。それが出来ればお願いします」

「任せなさい。私を誰だと思っているの?」

「ディアーヌ様です」

「違うでしょう?」

「えっ!?えっと、じゃ侯爵家のご令嬢であるディアーヌ様です」


 マリエッタが慌てて付け足した言葉にディアーヌが眉間に皺を寄せた。


(面倒極まりないんだけど。ディアーヌ様じゃん。何か私間違ってる?)


 爵位を持たないマリエッタには、貴族の事はわからない。

 よって、これだからお貴族様は……と口を尖らせつつ、やけくそ気味に事実を口にする。


「侯爵令嬢で、セドリック様の婚約者で、悪役令嬢のディアーヌ様です」

「そうよ。あなたやれば出来るじゃない。じゃ私がペアが解消出来るか交渉してきてあげる」


 ふふんとご機嫌な顔をマリエッタに向けたのち、スキップする勢いで教師の元へ向かうディアーヌ。そんなディアーヌを薄ら笑いを浮かべマリエッタは見送った。


(さっきのアレはセドリック様の婚約者が正解だったのか、それとも悪役令嬢の方か、もしくは全部を言うのが正解だったのか……もはや正解は闇の中へ)


 マリエッタはこんな調子で、一日大丈夫だろうかと不安になる。

 というのも、本日マリエッタ達は魔法学校の実習でとある山に薬草採取に出かける予定だからである。しかもセドリック監修のくじ引きで決まったペアで。


 そう、例のアレ。ストックホルム症候群を誘発させ、ディアーヌからの信頼を何故かマリエッタが引き出す作戦の決行日だからである。


「急に決まったし、一体何なのかしら」

「そうよね。今更私達に野草を取って来いだなんて馬鹿にしてるっているか」

「確かに低学年の遠足じゃないんだからって感じよね」


(全部、ディアーヌ様のせいです)


 マリエッタは突然決定した野草採取イベントに不可解な声を出すクラスメイト達に心でしっかりと真実を告げておいた。


(ま、みんなが不思議に思うのも仕方ないよね)


 マリエッタ達は数ヶ月後に卒業式を控えている学年だ。だから例年通りであればこの時期校外実習になど出向いたりしない。既に卒業パーティの準備に浮かれていい時期なのである。


(けど今年は悪役令嬢だと言いはるディアーヌ様のせいで全部台無しだし)


 マリエッタは納得がいかない。

 というのも幾度となく襲われたリーナス王国滅亡の危機も華麗に回避し、本編が無事終了した結果、今はまさに平穏な学校生活を送る最後のチャンスだったのである。


(しかもグレアムとね!!)


 それが今やディアーヌに日々「色目を使っている」とイチャモンをつけられ、隙あらば背中に「近寄るな危険。ヒロイン出没注意」というわけのわからない紙を貼られる日々だ。


 その上肝心のグレアムは最近益々おかしい状況に拍車がきっている。

 すっかり勉強を放り出し魔界カタログ「マモゾン」で次々と使いもしない品物を「タイムセールだから」と購入している。

 それだけでもマリエッタにとっては許せないのに、平気で人の部屋に入り浸った挙げ句「どうせ俺たちは、リミッターがかかっているせいで清い交際しか出来ないからいいだろ」と図々しくも開き直っていると言う有様。


(どうしよう。グレアムがどんどん駄目な男になっていく)


 現在マリエッタはグレアムの将来が心配でしかたがない。

 これもそれも、そしてアレも全部迷い人である悪役令嬢の親玉のせいなのだ。


「いつかギッタンギッタンのベロンベロンにしてやるんだから」


 マリエッタは一人そう誓ったのであった。


 そんなマリエッタの元にガクリと肩を下ろしたディアーヌが戻ってきた。


「ペアの変更は認められないそうよ。というか何であなたは私のペアを引当てたのよ。空気読みなさいよね」


(空気を読んだところでセドリック様によって決められた私達がペアを引き当てる確立は百パーセントですから)


 マリエッタは口には出せない分、薄目になる事で思いを吐き出した。


(そもそもセドリック様が自分で何とかすべきなのでは?)


 やっぱりそう思ってしまうマリエッタであった。

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