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ニコラスの内緒話

 ニコラス達はそれから、晩御飯まで屋敷に居座っていた。



「アイリスの手料理をあいつらに食べさせる必要はない。今夜の食事はロイが作れば良い」



 旦那様はそう言ったけれど、そこは、ね!前世の妻としては寧ろ振る舞いたいところですから。めちゃくちゃお願いしまくって、なんとか作ることを許してもらった。

 でも。



「アイリスちゃーーん、お兄さん、人参は嫌いだなぁ」



 料理を作っている間中、わたしの後をウロウロするニコラスは大層邪魔だった。その度に旦那様かアクセスが引っぺがしてくれるんだけど、この人の精神は、もしかしたらわたしよりも幼いんじゃなかろうかとか。どうして旦那様はこの人と仲良くしているんだろうみたいなことを考えて、変なため息が漏れた。



「……懲りずにまたいらっしゃったんですか?」


「お兄さんのこと、そんなに邪険にしないでよ~~」



 ニコラスは人懐っこい笑みを浮かべ、またもやわたしの隣に立っている。旦那様は職場から急ぎの報せが来たらしく、席を外していた。



(そういえば、いつもよりお帰りが早かったもんなぁ)



 あの時、旦那様が来てくれてなかったら、わたしは怖くて堪らないまま、この時間を迎えていたかもしれない。そう考えると、旦那様さまさまというか、本当にありがたいなぁって思った。



「良いの? リアンの学生時代の話とか、聞きたくない?」


「……っ!」



 ニコラスは意地の悪い笑みを浮かべ、そんなことを尋ねてきた。何という爆弾ネタ!聞きたくない訳がない。



「きっ……」


「ん? なに? 聴こえないなぁ~~」



 瞳を細め、口の端を吊り上げるその表情に、イライラが募る。わたしが『聞きたいっ』って言うのを分かっていて、焦らして遊んでいるんだ。博愛主義で軽薄、ってだけじゃない。この男、間違いなくドSだ。



「聞きたいですっ!」



 しかし、こちとら人生2回目。これ以上意地を張り続ければニコラスが調子に乗るのは間違いない。だから、めちゃくちゃ素直に欲望を口にした。

 ニコラスは小さく笑いながら、よしよしってわたしの頭を撫でた。本当はもう少し苛めたかったのだろうけど、そこそこ嗜虐欲は満たされたらしい。わたしはふぅ、とため息を吐いた。



「うーーん、どこから話そう。もう随分前の話になるし……そうだなぁ、学生時代のリアンは――――――」



 くそぅ、焦れったい!勿体つけた話し方に、わたしのストレスゲージはめちゃ高だ。でも、そうと気づかれたら相手の思うつぼだから、全然気にしていない振りをして、一生懸命食事の支度を続けた。



「あんまし今と変わんないかな」


「……へぇ」



 期待外れの情報に、わたしは思わず唇を尖らせた。

 知ってるもん。わたしだって、旦那様の学生時代を知ってる一人だもん。前世でだけど!



「無駄に大人びてて、近づきづらい雰囲気出してて、俺がバカやってるのをしらーーって表情で見てた」


「……そうでしょうね」



 口にしながらわたしは、その光景がありありと浮かんでいた。窓際で本を読んでる旦那様とか。凛と背筋を伸ばして授業を聞いている旦那様とか。想像するだけで胸がキュンキュンする。



「最初は話し掛けても反応すらしてもらえなかったんだけどさ。100年に一度選ばれる竜・鳳・麟の代表に僕等三人が選出されてね」


「……! それでそれで?」



 思わずわたしは叫んでた。それそれ、そういう情報を求めていたのよ。



「そこから嫌でも絡みが多くなったから、少しずつ会話ができるようになってさ。最終的にデレてくれた……みたいな感じなんだよねぇ」



 ニコラスは感慨深げに頷きながら、そっとわたしを見た。



「そっ……その、旦那様は竜人族の代表でいらっしゃるんですか⁉」


「うん。まぁ、今はまだ若手の代表って感じだけどね。いずれは種族の長になることを期待されてるのは間違いないよ。リアンを含め、僕等は希少種で、絶対数も少ないしね」



 心臓がドキドキと鳴り響いた。種族の長って、要は王様みたいな立ち位置ってことでしょう?想像するだけで頭に血が上って、クラクラする。カッコいいし似合いすぎ、だ。



「まぁ、そんな感じだから当然女子にはモテたんだけど!」



 その瞬間、わたしの心臓がめちゃくちゃ大きな音を立てて軋んだ。ニコラスは満面の笑みを浮かべ、わたしのことを楽し気に見つめている。



(その辺の事情は知りたいけど、知りたくない‼)



 旦那様が他の誰かを大事にしてたとか、好きだったとか、想像するだけで胸が焼ける。だけど、知らずにエアー彼女に嫉妬するのも嫌だし。でもでも、やっぱり知りたくない。



「アイリスちゃんが知りたいって言うなら、お兄さんもう少し詳しく話してあげるけど」


「…………知りたくありません」



 わたしはそう言って、ニコラスから顔を背けた。あの底意地の悪い楽しそうな表情を見ると、いくら寛容なわたしでもイライラする。

 けれど、ニコラスはなおもニコニコ笑いながら、わたしの顔を覗き込んで来た。



「まぁまぁ、そう言わず。こんな機会滅多にないよ?  あいつ友達少ないし。意地を張らずに素直になった方が楽になれると思――――」


「今すぐ貴様を楽にしてやろうか」



 調子ぶっこいたニコラスを遮ったのは、旦那様だった。旦那様は普段滅多に見せないような、大変良い笑顔で笑っていらっしゃる。ニコラスの顔から生気が抜けた。

 屋敷の外に引き摺られていったニコラスの断末魔がキッチンまで木霊するのを聞きながら、わたしは大きなため息を吐いたのだった。

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