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旦那様の親友と理由

「ホント、リアンは酷いなぁ~~~~! 久しぶりに再会した親友に対する仕打ちじゃないよね

、これ」



 居間のソファに腰掛け、ロイが運んできた氷を使って身体のあちこちを冷やしながら、ニコラスが恨み言を漏らす。旦那様はニコラスに冷たい視線を投げつけつつ、盛大なため息を吐いた。



「俺はおまえみたいな軽薄な親友を持った覚えはない」


「ちょっ、そりゃぁ無いだろう? あんなに仲良かったのにさ! アクセスからもなんか言ってやってよ!」



 そう言ってニコラスは紅髪の男性を見た。

 アクセスと呼ばれた男性は、ニコラスの隣に腰掛け、腕組みをしている。



「自業自得だ。だから止めとけと忠告してやったのに」



 憮然とした表情のまま、アクセスはそう口にする。見た目のイメージは強そうというか、喜怒哀楽とか激しそうなタイプに見えるのに、アクセスの方がニコラスよりも旦那様に近しい性格らしい。意外だなぁって思いつつ、わたしの心臓はドキドキ鳴り響いていた。

 それというのも今、わたしは旦那様の膝の上に乗せられ、ギュッと抱き締められていた。まるで猫でも愛でるかの如く、頻りに頭を撫でられて、恥ずかしいし居た堪れない。



(いや、嬉しいんだけど。嬉しいんだけども!)



 ニコラスの話が本当なら、この二人は旦那様の親友で。そんな人たちの前でこんな風に扱われる自分をどう捉えたら良いのか、全然分からないんだもん。



「えぇ? だってさぁ、可愛い女の子が目の前にいるのに、何にもしないとか無理じゃない? 現におまえもその子のこと抱き締めてるし。 だったら僕も、溢れんばかりの愛情を目に見える形で伝えないと――――」


「もう一度焼かれたいのか?」



 ニコラスの言葉を遮る旦那様のドスの効いた声。ブンブン首を横に振るニコラスに、わたしは小さくため息を吐いた。



「それで、そいつは?」



 そう口にしたのはアクセスだった。わたしのことを真っ直ぐに見つめ、尋ねてくる。その瞬間、旦那様が少しだけムッと唇を尖らせた。わたしを抱き締める腕に力を込め、咎めるような視線をアクセスへ向ける。



「そいつじゃない。アイリスだ」



 旦那様はそう言ってわたしにそっと顔を寄せた。



(きゃーーーー!)



 まるでキスをする直前みたいな近さと雰囲気に、わたしの胸は爆発寸前だ。けれど、旦那様のお友達にそんな様子を見せるわけにもいかず、ただただ顔を真っ赤に染めて旦那様の腕の中に収まっている。



(今のわたしは幼女。幼女だからっ)



 どんなにドキドキしても、恋人みたいじゃない?って浮かれたくとも、そう肝に銘じなければならない。だって旦那様のお友達に『勘違いしたちびっ子』って認識されるなんて嫌だもの。だからわたしは、必死でキリリとした表情を作った。



「へぇーーーー、アイリスちゃんね」



 そう言ってニコラスがわたしに向かって人懐っこい笑みを浮かべる。だけど旦那様は、わたしを隠すみたいにして胸に抱き込んだ。少し汗の混じったミントの香りに、わたしは目を伏せる。



(一体なんのご褒美なんだろう)



 恋とは違うって分かっていても、旦那様の行動は、わたしに対する独占欲の表れだと思う。愛されてるなぁって思うし、すごくすごく幸せだ。



「良いじゃん、顔を見るぐらい。減るもんじゃないし」


「ダメだ」



 なおも食い下がるニコラスに、旦那様は首を横に振った。



「それで? どうしてそんなチビを引き取ったんだ?」



 そう口にしたのはアクセスだった。まるで『納得いかない』とでも言いたげな表情で旦那様とわたしを交互に見つめている。



(そんなの、わたしが知りたい)



 いや、知りたいような知りたくないような複雑な気分だ。

 だって、『同情したから』とか、『一時的な気まぐれ』とか言われたら落ち込んでしまうもの。その辺旦那様がどうお考えなのかハッキリと言葉で聞いたことは無いし。



(ここに居て良い、とは言われたし、旦那様もわたしがここに居ることを望んでくれているのは分かるけど)



 旦那様が『アイリス』に愛情を注いでくれていることは、きちんと理解している。だけど、『どうして』の部分は今まで聞いたことがないし、聞くのが怖いと思った。



「あっ……あの、わたし両親を殺されて。その場に一緒にいたわたしを、旦那様が救ってくださったんです」



 思わずわたしはそう口にしていた。旦那様の視線をめちゃくちゃ近くに感じつつ、わたしはゴクリと唾を呑んだ。



「それで、行く当てのなくなったわたしを旦那様が看病してくださって、それからここでお世話になっていて」



 自分で言ってて言い訳じみてるなぁって思うけど、事実だし。



「……そいつの傷は既に完治している。こんな世界だ。親を殺された子どもなど、いくらでもいる。人間用の孤児院なんて掃いて捨てるほどあるだろう。何故そちらに預けない」



 アクセスはわたしじゃなくて旦那様に問いかけた。心臓がドキドキしている。



「んーー、まぁねぇ。この子のことを考えると、そっちで似たような境遇の子と暮らした方が幸せになれるだろうし」



 そう口にしたのはニコラスだった。火傷の方はもう良くなったらしく、ロイから受け取った茶菓子をヒョイっと口に運んでいる。わたしは思わず旦那様の身体をギュッて力強く抱き締めた。



(いや)



 旦那様から離れるなんて絶対に嫌だ。けれど、何も知らないこの人たちにどうやって説明したら良いんだろう。

 『わたしは旦那様の前世の妻で、だから今世でも一緒に居たいんです』なんて説明して、信じてもらえるんだろうか?

 そもそもこのことは、旦那様だって知らないし、言うつもりだってない。だって、旦那様にはそう言うの関係なしに、『アイリス』を好きになって欲しいんだもの。そのために頑張るって決めてるんだから。



「――――おまえ達には関係ない」



 すると、旦那様はそう口にした。わたしを抱きかかえた腕に、ギュッて力がこもる。気を抜くと、涙が零れ落ちそうだった。



「友達甲斐のない奴」



 ニコラス達は不服そうにそう言ったけど、それ以上追及する気はないらしい。わたしはモヤモヤした胸の辺りを撫でながら、旦那様を抱き締めた。たくさん、たくさん、抱き締めた。

いつも拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

この度、

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