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「シャノは知ってるだろうけど……、改めて紹介するよ。俺の妹の、ファーニアだ」

「似てないな……」

「昔からあんたはバカっぽいのにファーニアはとても可愛かったし、全然変わってない」

「バッ……!?」



翌日、ミスミはファーニアと共に探偵事務所にやってきた。

ファーニアは、ミスミほど頻度は高くなかったが私が王城で暮らしていた頃、ミスミにくっついてたまに王城に来ていたのだ。

ファーニアは全体的に色素が薄かったことと顔をぼんやりと覚えているくらいだったが、私の記憶の中のファーニアをそのまま大きくしたような感じだった。



「あ、あの……初めまして。シーゼリカ様……、あっ、シャノワールさんはお久しぶりです。ミスミの妹、ファーニアと申します。本当に私が来ていいのか分からないですけど、よろしくお願いします……」

「よろしくね、ファーニアちゃん。僕はこの探偵事務所の所長、ギルブライトだよ」

「……ル、ルシャブランだ」

「よ、よろしくお願いします、ギルブライトさん、ルシャブランさん」



その後、ギル、ルーシャでいいよと言っていたが初対面でそんな馴れ馴れしく呼ぶのは無理です、と断られて所長が若干落ち込んでいた。

そしてミスミの妹と言うからには遠慮のないバカっぽい子が来ると思っていたらしい二人はその礼儀正しさに感動していたようだった。


ミスミくん、妹のファーニアちゃんとってもいい子じゃないか!良い妹を持って幸せものだねぇ、君は。

そうだろうそうだろう!もっと褒めていいんですよギルさん!などと大声で話していたためファーニアが少し恥ずかしそうにしていた。



「ファーニア、本当に久しぶり。兄妹揃って元気そうで安心した」

「シャノワール、さん。あの……、あ、いえ、やっぱり大丈夫です……」

「……?聞きたいことがあるならなんでも聞いて、私が答えられることなら……」

「それじゃあ……。お兄ちゃんのこと、好きなんですか?結婚したいって、思ってますか」

「は?思ってないけど……」



そういえば昨日ミスミが、ファーニアは俺に依存気味、友達が少ないようだ、等と言っていたことを思い出した。

昨日の懸念通り、やはり私は目の敵にされるのかと少し気分が落ち込んだがそれも仕方ないだろう。自分だけの大好きなお兄ちゃんが昔少しだけ交流のあっただけのぽっと出の女に奪われてはたまったものではないだろうし。



「心配しなくても大丈夫だよファーニア。ミスミはきっと昔仲の良かった友達と再会できてテンションが上がってるだけだと思う。気が済んだらまたファーニアだけの優しいお兄ちゃんになってくれると思うよ」

「……ほんと?」



少し口角をあげて頷く。

ファーニアはほっとしたように微笑んで、ミスミと所長のところへ行ってしまった。



「おまえ、鈍感だな……」

「は?」



話の輪に入れなかったらしいルーシャが、呆れたような顔で呟いた。鈍感とは、ミスミの想いのことだろうか。

さすがにミスミが本当に私のことをただの昔馴染みだと思っているわけではないことは理解しているが、数日放置されただけで家出までしてしまう程の想いを持っているファーニアがそれを知ればどうなってしまうことやら。



「お兄ちゃん、この探偵事務所には何時までいるの?」

「ん?いつも晩御飯の時間まではここにいるぞ!」

「……どうして?」

「うーん、楽しいから……?」

「私とふたりじゃ、楽しくないってこと?」

「そんなわけないだろう?シャノとは久しぶりに会えたし、素敵な新しい出会いもあったし……だから、これからは毎日たくさん会えたら嬉しいなって思っただけだよ」

「……そっか、シャノワールさんだけが特別なわけじゃないんだよね?」

「……?いや、シャノは特別だけど」



おいおい、おい。

私だけを特別みたいに言わないのは会わない間に気遣いができるようになったのかと少し感心して見ていれば。

気遣いするなら最後までしてくれ、そんなハッキリと一人の女を特別と明言したらどうなるかとか自分の妹なんだから大体わかるでしょ、ほんとバカ。



「……え」

「昔から、俺がシャノのこと好きってファーニアも知ってただろ?」

「……うそつき」

「え?」

「うそつき、うそつきうそつき!!お兄ちゃんは私のことだけ愛してると思ってたのに!あんたも、さっきお兄ちゃんはあんたのこと特別じゃないって、昔仲が良かっただけの『友達』って言ったのに!うそつき!」

「ど、どうしたんだファーニア、ちょっと落ち着いて……」

「もう知らない!お兄ちゃんも、そこの女も、みんなだいっきらい!!」



はぁ……。

妹に嫌われたかもしれないと相談した結果ここに連れてきたけど、結局全部逆効果だったな。

ミスミも嫌われまいと妹を思ってのことだったのに。


勢いよく事務所を飛び出していくファーニアを、ミスミも慌てて追いかけていくが、今はきっと一人になりたいだろうから、と所長が止めていた。














うそつき。

お兄ちゃんも、あの女……シーぜリカも。

あいつがミザリー城にいた時も、私からお兄ちゃんを奪った。

リゼラ様があいつを幽閉して、会うこともできなくなったからようやくお兄ちゃんは私のところへ戻ってきてくれたのに。

また、また……。



「ねえ、そこの貴方。わたくし、この辺りで人を探しているのですけれど。長い黒髪の……王族の家出少女、何処かで見かけなかったかしら」

「……!あの女、あの女のこと知ってるの……?」

「あら、ということは会ったことがあるのね。居場所を教えてくださる?あの子は悪い子だから、とってもキツいお仕置きをしなきゃいけないの」

「……!!すぐそこの建物の二階にある探偵事務所で働いています……!とっても目障りでどうにかならないかと考えていたところでした、あなたはあの女の……」




「ふふ、それは秘密。今日はお忍びで来ているから」





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