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クラック







ルイ、改めルーシャが探偵事務所の一員になって、数週間が過ぎた。

ルーシャを探せと依頼してきたリゼラの関係者と思われる依頼主には、ルーシャはもう既に国外へ逃走していて、一端の弱小探偵が探せる域を脱していると説明しなんとか難を逃れた。

その後は大きな依頼もなく、殆どが子猫を探してほしいだとか浮気調査だとか。

浮気調査は初心者の私たちが関わるのは早いということで所長が一人でいつの間にか解決していたけど、犬猫を探すのは私やルーシャだけでも解決できるようになっていった。


しかし、私もルーシャも女王陛下に追われる身。二人とも宿無しなので事務所の隣の部屋、元々所長が一人で居住スペースとして使っていた部屋を三人で分けて使わせてもらっている。

女の身なので二人と同じ寝室で寝ることは許されなかったが、リビングの少し大きめのソファも随分寝心地が良いので文句は無い。

依頼がない日は三人でクッキーをつまみつつ紅茶を飲んで、少し前では考えられない程穏やかな日々を過ごしていたのだが。そんな平和な日々に亀裂が入る音が迫っていることに、今はまだ誰も気付いていなかった。





「こんにちは〜、失礼しまっす!ちょっと人を探してるん、です…け……、……シーちゃん!?」

「……誰だお前、シーちゃんって誰だ」

「ちょっとルーシャ、お客様に対してそんな言葉遣いはダメって言ってるだろう?」

「…………ミスミ?」



えっ、と同じような顔をして所長とルーシャが同時にこちらを見た。ちょっと面白かった。


人探しの依頼にここを訪れたのは、私がまだ王城で暮らしていた頃の私の専属執事の孫、ミスミだった。

外に出ることもなくほとんど部屋に閉じこもっていた私を心配して、執事がたまに同い年のミスミを王城に連れてきていたのだ。

ミスミは常にテンションが高くて明らかに私の苦手なタイプだったから深く関わるのは嫌だと思ってたけれど、ミスミは違ったようで王城に来る度にしつこく私を外に連れ出そうとしてきた。

そんなミスミも私がリゼラに幽閉されてからは話すこともできなかったのでもう二度と会うことはないと思っていたが、まさかこんなところで再会するなんて。



「シャノ、お客様と知り合いなの?」

「えぇ、まあ……。幼馴染のようなものです」

「えええ、シーちゃんが王城から出たって聞いて焦って探してたけど、さすがに俺ひとりじゃ限界があったから探偵に依頼しようと思って来たらそこにシーちゃんが……?ど、どういうことだ……」

「どういうことも何も今お前が全部説明しただろ」

「そ、そっか……。それにしてもシーちゃん、なんで探偵事務所に……?まさかここで働いてるの?」

「そうだけど」



えええええ、あのシーちゃんが探偵!?と大袈裟に驚くミスミに、うるせぇ!とルーシャの蹴りが入り、ミスミはようやく静かになった。



「っていうかシーちゃんってなんだよ」

「えっ、シーゼリカだからシーちゃん、かわいいでしょ?」

「……ああ、シャノの名前、シーゼリカって言うのか」

「さっきから気になってたけど、シャノって何……?」

「幼馴染ならわかると思うけどシャノが本名で探偵なんかやってたら大変なことになるでしょう?だから、シャノワールっていう偽名……というかまあ芸名みたいなものなんだけど、その名前を使って探偵をしてるんだよ」

「ああ、なるほど……。じゃあ俺もそう呼ぼっと!」



ルーシャにはまだ私の事情を詳しく話していないためはてなマークを浮かべていたが、それより今はミスミのことだ。

なんで私のことを探していたのと聞くと、好きだから!と即答されて凄く恥ずかしかった。

しかしミスミの祖父、私の専属執事だった彼は私が王城から逃げ出した今も王城で働いている。執事程ではないとはいえミスミも王城に出入りしていた人間だ。ミスミから足がついて、リゼラに居場所を特定されてしまうかもしれない。それだけは避けたいため、ミスミには早急にここから出て行ってもらう必要がある。

その事を伝えると、「シーちゃ…、シャノがリゼラ様に閉じ込められてからは出入りしてないし多分大丈夫!」と何とも脳天気な答えが返ってきた。


私のことが好きだからという理由で私を探していたのだ。そう簡単にお引き取り頂けるとは思っていなかったが、さてどうしよう。



「というか依頼するはずだった案件が解決したんだしミスミがここに居る理由はないでしょう?」

「そうだけど!やっとシャノに会えたんだし、近くにいたいじゃん……」

「…………」



子犬みたいな目で見つめられては、出ていけとはっきり言うのも躊躇ってしまう。

所長はまあまあいいじゃないか、何かあったら僕のお家がなんとかしてくれるよとあっけらかんと言っていたし、どうなっても知らないぞという目で一度所長を睨んでおいて、まあそれなら……と、ミスミがここに出入りすることを認めてしまった。





それから数日後。

結局ミスミは事務所に入り浸っており、今日も今日とて変わらず朝から事務所を訪れていた。

でもいつもと少し様子が違っていたので、何かあったのかと聞いてみれば妹に嫌われたかもしれないと凄く深刻に言うので無視しておいた。


依頼もなく暇なので所長が話を聞いてあげる事にしたようだが、シャノが幽閉されてから王城に遊びに行くことも無くなりたった一人の妹と過ごす時間が増えたらしいのだが、シャノと再会したことによって妹と過ごす時間が極端に減り、友達が少なくミスミに依存気味だった妹は耐えられず家を飛び出してしまったらしい。

日が暮れれば帰ってくるのだが言葉が少なく、話しかけてもあまり返事をしてくれないのだとか。



「……ここに入り浸るのをやめればいいんじゃない?」

「それは!嫌だ!でも妹に嫌われるのも嫌だ……」

「じゃあ妹ちゃんも一緒にここに来ればいいじゃない」

「…………!」



私のせいで妹に寂しい思いをさせている以上妹がここに来てしまったら私が目の敵にされてしまうのではと思ったが、名案だとばかりに目を輝かせて所長を見つめるミスミを見たら結局口に出すのは憚られてしまうのだった。

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