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リゼラは私より九歳年上だがそれでもまだ二十七歳、女王になったのは二年前でリゼラはまだ二十五歳だった。

二十五歳で女王になるのは前例のない偉業で、リゼラ派閥の人間はしばらくお祭り騒ぎで城が毎日うるさかったことをよく覚えている。

リゼラに毎日付きまとって行動を共にしていて、リゼラが王になるためにしたことを全て知っているどころか手助けまでしていた連中だ。

リゼラ同様、私には理解できない、したくもない思考をしていたのだろう。


リゼラが即位した時、私は他でもないリゼラに幽閉されていて、世話係だったメイドに国王と王妃が崩御なされたことを知らされた。

メイドは死因は不慮の事故だと言っていたが明らかに目が泳いでいたため、あまり会うことは無かったとはいえ自分の親なのだから死因くらい知る権利はあるだろうと問い詰めるとメイドは少し言い淀んだあと、暗殺されたのです、と呟いた。

暗殺した人物はまだ特定されていないが、王が不在では国が崩れてしまうというリゼラ派閥のお偉いがたの進言によりリゼラは女王となった。



リゼラの即位から二年後、ようやく幽閉から解放された。

そして、二年ぶりに再会した専属の執事から、二年前の王夫妻暗殺事件の犯人がリゼラ其の人であることを知らされたのだった。


あの事件はリゼラ本人とリゼラ派閥の人間によって闇に葬られ、今も尚リゼラは若くして立派に女王を務める偉大な人物として人々の視線を集めている。

自分の両親を自分のために殺しておいて、自分は一人のうのうと生きるリゼラの顔を思い出して、顔を顰めた。




もしリゼラがこの少年をどこかで見かけて、それらしい理由を付けて自分の物にしたかったのなら、両親すら殺してしまえるような人間だ。雇った少年に死ねと命ずることに罪悪感も抱かないのだろう。




「……シャノ、これって……」

「……はい、恐らく。こんなことできる人間は、リゼラ以外に知りません」

「……え、リゼラって、あのリゼラ陛下のことか?おれの友達は自殺したんじゃなくて、陛下に指示されてたってこと……?」

「多分、そうだと思う。謝って済むことじゃないけど、本当にごめん」

「……?なんであんたが謝るんだ?」

「あ……いや、ごめん。なんでもない」



思わず口が滑ってしまった。不思議そうな顔をしていたが、それほど興味もないのか少年は気にせず話を続けた。



「それで、なんでリゼラ陛下がおれなんかを城に入れるためにこんな大掛かりなことを……?」

「……それは、分からない。物好きなんて言葉じゃ言い表せないくらいおかしい人だから、きっとそんな大層な理由もなくて、顔が好きとかそんな理由だったんでしょう」

「そんな、そんなことのためにおれの友達は……。でも、友達って思ってたのはおれだけだったってことか……」



私も所長も、何も言えなかった。

黙り込んでしまった少年を横目に、所長と顔を見合わせる。

お互いによく知る人物だからこそ、適当なことは言えない歯痒さに頭を抱えてしまいそうだ。



「……とりあえず、君の名前を教えて?大丈夫、そんな話を聞いたあとで君をリゼラ陛下の元に差し上げたりしないよ」

「……ルイ」

「ルイ、いい名前だ。……さて、君に二つ提案をするよ。提案だから従わなくても良い。一つ、このままリゼラ陛下から逃げ続ける。二つ、僕たちと一緒にこの探偵事務所で働く。……どう?」

「…………!」



ルイは、まるで光を見つけたかのようにキラキラとした瞳を見開いた。

でもすぐに目を逸らし、こちらを伺いながら悩むような視線を向ける。



「……どうしたの、ルイ。僕の提案は気に入らなかった?」

「ち、ちが……。でもここが国に見つかったら、匿ったあんたたちもただで済むかどうか……」

「それは大丈夫だよ。ここ、シンセリティ探偵事務所って言うんだけど……」

「……?シンセリティって、公爵様の名前を借りたのか?」

「違う違う、僕がシンセリティなんだよ」

「…………へ?」



一拍置いて、ルイの驚愕した叫び声が響いた。

所長は、といっても三男だけどね〜などと呑気に話を続けているが、ルイは混乱のあまり話を全く理解できていない。



「……あんたが公爵家の三男なのは理解した。でも、なんで公爵家の人間がこんなとこで探偵なんかやってるんだ?」



それは私も気になっていたが、立場が立場だけに聞けなかったことだった。



「ああ、それは……。僕、そのリゼラ陛下と婚約してたんだけどね。兄は二人とも年が離れてて、リゼラ様の婚約者を決める段階ではもう兄にそれぞれ婚約者がいたから、リゼラ様と歳の近い僕が婚約者に選ばれたんだけど……」



そういえば、そんなこともあった。

私が幽閉されていた時の出来事なので詳しいことは知らないし興味もなかったから今の今まで忘れていたが。



「二年前にリゼラ様のした事に失望して、父に頼み込んで婚約を破棄してもらったらリゼラ様の逆鱗に触れちゃってね。処刑されそうになったんだけどなんとかして父が逃がしてくれて、今は名前だけ借りて子供の頃の淡い夢を叶えたんだよ」

「そういう事情ならシンセリティという名前は使わない方が良かったのでは……?」

「灯台もと暗しって言うだろう?まさか僕がシンセリティの名前を使うとは思いもしないだろうし、その証拠にルイは僕が公爵家から名前を借りていると勘違いしていただろう?」

「うーん……」

「まあ、それは今はどうだっていいことだ。ルイ、この通りここには公爵家の後ろ盾がある。父はとても信頼されているし、まあ何かあってもなんとかしてくれるよ!」



し、心配だ……。

ルイも、若干呆れたような顔をしている。

所長は気にせず、勝手にルイの事務所での名前を考えている。



「うーん、シャノは髪が黒いから他国の言葉で黒猫という意味のシャノワールにしたけど……。ルイは髪が白っぽいから……白猫、ルシャブランなんてどう?シャノとお揃いでいい感じじゃない?」

「……おれの名前を変える必要なんてあるか?それに、この女もなんで偽名を使ってるんだ……?」

「シャノの事はまた今度、時が来たらきっと話すよ。……ルイって名前はとても素敵だけど、どこからリゼラ様の耳に入るかわからないからね。念の為」

「……そうか、分かった」

「それにしてもルシャブラン、かっこいいけどちょっと長いな……。ルーシャって呼んでもいい?」

「あんたが決めたんだし好きにすればいいだろ」



そうして、なんだかんだありつつ探偵事務所の仲間が一人増えた。

あの依頼人になんて説明するんだとかリゼラに見つかったらどうしようとか考えることはたくさんあるが、シャノとルーシャの入社記念だとか言って大量のジャンクフードを頼もうとしているうちの所長を止めるのが最優先だ。






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