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ワースト








「お嬢さん、まず貴方の名前を教えて貰えますか?」

「あ、はい……。私はロゼットと言います」

「ロゼットさん、ですね。僕はギルブライト、こっちは助手のシャノワール。改めてよろしくお願いしますね」




少女、もといロゼットの本来の依頼とは違うが、これで依頼は成立した。

が、自分はここに来てまだほんの数十分で、助手と紹介はされたが経験は少しだって無い。

ということを視線でギルブライトに伝えると、少し微笑んで頷く。



「では、今日のところはご依頼成立ということで、詳しいことは後日でもよろしいですか?どのような方法で解決するか、など、助手と相談しておきますので……」

「は、はい。大丈夫です。では今日はこれで……」



そう言って、ロゼットは帰って行った。

さて、とギルブライトがこちらを振り返る。


「シャノワール……はちょっと長いね。じゃあシャノ、まずは……謝罪をしなきゃね。つい昔の……お友達だった時の癖で親しげに話してるけど、本来君はこんな砕けた口調で話していい人間ではないからね」

「あ、いえ……。あの場所とはもう絶縁したようなものですから。それに、今は貴方に雇ってもらっている立場ですので、そのままで大丈夫ですよ、所長」

「そうかい?じゃあこのままで。それにしても、所長か。いい響きだなぁ。これまで従業員なんていなかったし」




こうして、私はこのシンセリティ探偵事務所所長の助手になったのだった。

所長によると、基本助手の仕事は聞き込みや張り込みが主だそうだが、何せここは人手が足りない。だが仕事も多くないので、私の仕事も大抵は所長にくっ付いているだけでいいそうだ。


今回のロゼットの件も、当たり前だが人殺しなどできるはずもないし、まずはロゼットの母親に会いに行くことになった。

ロゼットの話によると母親の実家は伯爵家らしいので、公爵の息子であるギルブライトが居れば会うことは容易だろう。アポ取りも所長がやってくれると言うし、今回私の仕事は本当に所長について行くだけのようだ。




それからは所長から探偵業のことや、なぜ自分が探偵事務所の所長をやっているか、ということを教えてもらった。

なにか大変な事情があるのかと思ったがそういうわけではなく自由奔放に、自分勝手に生きたかっただけだったらしい。

公爵家の人間ではあるが三男のため、両親もそこまで厳しいわけではないのだろう。




そして、ロゼットの母親に会いに行く日がやって来た。




ロゼットの母の実家は、そこまで大きいわけではないが外装も内装も立派なものだった。

清潔感のある初老の執事に案内され、客間に通される。

そこには、ロゼットの母と思しき女性がにこやかに座っていた。


第一印象は思ったより良かった。

ロゼットの話を聞く限り性格が悪いで言い表せるような人物ではないし人相も最悪かと思っていたが、なんてことは無い綺麗な女性だ。



「はじめまして、シンセリティ公爵家三男、ギルブライト・アーリー・シンセリティと申します。今回は対話の機会を頂きまして、誠にありがとうございます」

「いいえ、ギルブライト様。貴方様のような素敵な男性が、伯爵家に何の御用でしょうか。……あら?そちらの彼女はどちらさま?」

「あぁ、お気になさらず。彼女は昔から貴方を尊敬しているようでしてね。どうしても会いたいと言うので連れてきたのです。お忍びなので詳しいことは内緒ですけど、貴方にお会いするに相応しい地位は持った人ですので、ご安心ください」




所長はロゼットの話を聞いて、真正面から探偵ですと名乗った場合話も聞いてくれず突き返される可能性もあったので、騙すような形にはなったもののシンセリティ公爵家のギルブライトとして対話を申し込んだ。

仕方ないとはいえロゼットの母を尊敬しているという設定なのは少々納得がいかないが、まあ我慢するしかない。



「早速ですがレディ、お話をしましょうか」

「はい、ギルブライト様。私なぞの話は、面白いかどうか分かりませんけれど……」

「そんなことありませんよ。そうですね……、レディ、貴方には娘さんがいらっしゃると伺ったのですが、偶然にもこのシャノワールと年が近いらしくて。一度お会いしてみたいと思ったのですが、ご一緒に暮らされる予定はないのですか?」



い、いきなり切り込んだ……!

どう考えても娘、ロゼットの話は地雷なのに、こんな直球に娘に会いたいなどと……!



「そうですわね。あの子は貴族として生きたこともないただの平民の娘ですので。この家で暮らすには、精々使用人がいい所ですわ。」

「おや、それは残念」




見た目はただの綺麗な女性だけど、やっぱり中身はこれか。

自分の娘を自分の家の使用人だなんて、やはり外見だけでは分からない、最低な人間だったようだ。




「レディ、貴方はとても美しい。例え年頃の娘がいるとしても、そういった話は後を絶たないでしょう。再婚は考えていないのですか?」

「まあ、美しいだなんて……。そうですわね、ギルブライト様のように優しくて綺麗な方であれば、少しは再婚も考えるのですけれど」

「おや、美しいだけではなく口上手でいらっしゃる。これはますます好かれるでしょうね」




所長を褒めている時の目が本気だった。

薄々思っていたが、この人は所長とそういう仲になりたいのだろうか。

まあ突然公爵家三男から対話したいと言われ、実際会ってみると歯の浮くようなセリフばかり投げかけられれば勘違いしても仕方ない。が、きっと所長はわざとやっている。


数日前、女性から情報を引き出すには籠絡するのが一番だなどと最低なことを口走っていたので、こういう作戦だとは分かっていても少し目を逸らしてしまう。


しかし、その作戦は案外うまくいくかもしれない。

ギルブライトに気に入られるようにか、娘や再婚の話など話すのを躊躇うようなことも結構ぺらぺらと喋っている。



このまま、ロゼットにやっている非道なことも喋ってくれると大成功なのだが。

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