シェルター
「ルーシャだよ、お姉さん!……もう僕のお友達、殺さないでいてくれる?」
「……ルーシャがこれからもずっと従順な奴隷でいるなら、考えてあげなくもないわ」
「ありがとう!お姉さん!」
そういうとルーシャは、お別れの挨拶をして来るね、と言ってこちらに駆け寄ってきた。
先程までの子猫のような愛らしさは何処へやら、リゼラから顔が見えない位置に来るとすぐさまいつものルーシャに戻っていた。
「……フッ、シャノお姉ちゃん、さよなら!また会えたらいいね……!……フッ」
「笑ってるじゃない……、そうじゃなくて……、リゼラにあんな事言ったら本当に一生奴隷のまま犬みたいな生活をすることになる、どうするつもり?」
「は?絶対助けに来い、おれがここまでしてやったんだぞ」
「横暴……」
全員今すぐ殺されることは免れたけど、だからと言ってルーシャをこの極悪非道のリゼラに大人しく引き渡す訳にはいかない、と思っていたけど、どうやら一度捕まってから救出される作戦だったようだ。
「助けろって言ったって、相手はあの女王陛下だし難しいんじゃないの……」
「ボスがここには公爵家の後ろ盾がある、何かあっても何とかしてくれるってでかい声で言ってただろ、何とかしろ」
「……所長、ルーシャが所長にもお別れの挨拶をしたいらしいですよ」
後ろで所長がギクッと肩を震わせる。
所長の方を振り向くとサッと顔を背けられたので、ルーシャの手を掴んで所長のところまで連れていった。
「所長、どうしてこっちを見ないんですか?ルーシャとは最後の別れになるかもしれないのに……」
「えぇーっと、ルーシャ。今すぐ全員で走って逃げないかい?」
「……はぁ?無理に決まってるだろ、そんなことしたらおれの演技が無駄になるし誰かが処刑されるかもしれない」
「そ、そっか……」
「……ここで所長のお父さん…公爵様に私たちの尻拭いをさせたら、私たちだけじゃなくて公爵家にまで迷惑がかかるどころか国家反逆罪で……」
「死……」
こそこそと顔を寄せあって話し込んでいたら、リゼラもミスミも、ようやく完全に正気に戻ったらしいファーニアもこちらを怪訝そうな顔で見ていた。
「ルーシャ、別れの挨拶はまだなの?もしかして、逃げる計画を立ててるんじゃないでしょうね」
「そんなわけないよ!ここにいる皆はまだ少しの時間しか一緒に過ごせてないけど、友達以上……もう家族みたいなものだったんだ……。もう少しだけ、お願い」
「……仕方ないわねぇ」
「えぇ……」
私たちの知る女王陛下とのあまりの違いに元々の傍若無人で尊大な彼女を知っている私と所長は眉をひそめた。
ルーシャにとってのリゼラは友達を殺した相手ではあるものの、あまりのチョロさに口角が上がって、最早ニヤついている。
ファーニアは話についていけず怪訝な顔をして突っ立っているが、ミスミはようやく妹が自分の知るかわいい妹に戻ったことを喜んでいるようだった。
かわいい、妹……
ここで私は、あることを思い出した。
「所長、ルーシャ。なんとかなるかもしれない。ルーシャは怖い思いをするかもしれないけど、少しだけ頑張って」
「怖いとか別に平気だし……。そもそもおれが言い出したことだしな。……おまえのこと、信じてるから。来なかったら二人まとめてリゼラ陛下に売ってやる」
「コワ……」
こうして、遅くても三日後には絶対に助けに行くと約束をしてルーシャはリゼラと共にミザリー城へ向かった。




