ライトレイン
「……どうした?大丈夫か」
「あっ……、大丈夫、ごめんルーシャ」
ルーシャに顔を覗き込まれてハッとする。
そうだ、今はミスミの愛について考え込んでいる場合では無い。
ファーニアは兄に愛されていたことを知って落ち着いたようだし、一件落着かと思いきやここにはリゼラがいるのだ。
リゼラがファーニアを連れてここに来た時、正直ファーニアを利用して私たちを殺すつもりだと思ったのだが。ミスミがどれだけファーニアを愛しているか語っている時、そして今ファーニアがその愛を受け止めようとしているのにも関わらず何も口出ししないということはそもそもファーニアやミスミをどうこうするつもりはないのだろう。
それは安心だが、リゼラは私だけではなくルーシャと所長の命も狙っている。
どうすれば、いいのだろう。
リゼラは今もこっちを見ているし、隙をついて逃げるにしてもここにいる全員が無傷で逃げ切るのは到底無理な話だ。
もう何もできないだけの私ではないと思いたいのに、大切な人を守る方法すら思いつかない。ルーシャも所長もなんでもない顔をしてはいるがやはり少し不安そうだ。
今すぐに皆を連れて逃げ出してしまいたいのに、リゼラがこちらを見ているだけで首筋に刃物でも当てられたような心地になって足が竦んでしまう。……それでも、これは私がやらなければいけないのだ。
「……ルーシャ、私がリゼラを抑える。そのうちに皆を連れて逃げて」
「却下」
「えっ」
ルーシャがものすごく呆れた顔でこちらを見ている。
そして何を思ったかそのままリゼラの方に歩いて……。
「ルーシャ!待って!」
「そんな馬鹿なことしか考えられないお前はそこで指くわえて見てろよ、アホ」
「えっ……」
小声で会話をしていたのに、アホの部分だけ普通に大きな声で言った。少し動揺してしまったがそんな場合ではない。ルーシャが何をするつもりなのか全く分からないし、私に向けたドヤ顔もちょっとよく分からない。
そして、リゼラもおや、という顔をしてルーシャを見ている。今のところすぐに殺す気はないように見えるが相手はあのリゼラだ、片時も油断はできない。
「お姉さん、とっても綺麗だね……!でも、お姉さんは僕たちの命を狙ってるんだよね、どうして?こんなに綺麗で素敵なお姉さんなら、奴隷になるのだってとっても幸せなことなのに……。ねえ、お願いだよお姉さん。僕のこと殺さないで……?ね、一生奴隷としてなんでもするから……!」
…………!?
なんだ、これは……。いつものルーシャとあまりにも違いすぎて、演技なのはわかっているが口があんぐりと空いてしまう。ちらりと周りを見るとミスミも私と同じ顔をしていたし、所長は何をしているのか察したのだろう、顔を覆って笑うのを堪えている。ファーニアはそもそも何が起こっているのか理解できていないようだ。
「……あら、それは魅力的なお誘いね。でも貴方、私がミザリー城に貴方を閉じ込めた時に必死に逃げて今はこんな所にいるじゃない。嘘をつくならもっと頭を働かせなきゃ」
「だってお城には怖い男の人がたくさんいたんだよ……!みんな僕のことジロジロ見て、中には女の子だって勘違いして僕のことを触ろうとしてくる人もいたんだ……、だからとっても怖くて頑張って逃げたけど……。僕を捕まえたのがこんなに素敵なお姉さんだって知ってたら逃げたりしなかったよ!」
「……へえ、それで?」
「だから僕にもう一度チャンスをくれないかな、絶対お姉さんが望む奴隷になるから……、だから、僕のお友達のことを殺さないでほしいんだ……」
瞳をうるうると潤ませて上目遣いでリゼラを見つめるルーシャは、身内贔屓ではなく何よりも可愛らしかった。
この目で見つめられたらなんでも叶えてあげたくなるような……。
でも、リゼラが一人の奴隷のために私と所長を生かすとは思えない。それに、私たちが助かるためにルーシャを犠牲にすることなんてできるわけないし。さっき自分を犠牲にしようとした私に馬鹿とかアホとか言っていたのに。
そんな事を考えていると、何やら考え込んでいたリゼラが口を開いた。
「……仕方ないわね。一生可愛がってあげるから覚悟しなさいよ、貴方名前は?」
えっ。




