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作戦会議


「そうと決まれば作戦会議ですね!」


 気を取り直したのか、ミュリエッタはパチリと手を合わせた。彼女の顔はやる気に満ち溢れている。


「真犯人を捕まえる…といっても、なにか心当たりはあるんですか?」


 今までの物語では、ミュリエッタをいじめるのはアリスやエレオノーラに属する派閥であって、ミュリエッタにはそれ以外の敵はいなかった。


 毎回、似たような事件が起こっていたとしても参加したことのないアリスでは詳しい状況が分からない。分からない以上むやみやたらと行動することは躊躇われる。


 もしかするとミュリエッタには自分以外の敵がいるのかもしれない。

 ミュリエッタ自身に思い当たるところはあるのか、まず知りたかった。


「いいえ、正直に言うと全くありません。…その、今まで受けた嫌がらせは割とちまちましたものばかりで、あれほど目立つものはありませんでした」


 皆ガーデンパーティーでの一件を知っているから、派手にやったら王子たちがしゃしゃりでてくることなどお見通しなのだろう。

 クラリッサは苦い顔をした。


「狙いは何だったんでしょうか。そのネックレス?」

「いえ、違うでしょう。あれは一見露店でも売っていそうな見た目をしていますし」

「ですわよね。貴族でしたらもう少しマシな装飾品を持っていますから、わざわざあんなものを盗みに入ることはないでしょう」


 アリスとクラリッサはうんうんと納得した。その隣でミュリエッタは愕然とした顔をしていた。二人がいう様なあれ(・・)よりマシなアクセサリーをミュリエッタは持っていないからである。

 ちら、とミュリエッタが自分以外の二人の首や指や手元を飾るセンスの良い石たちを見る。


「せ、世界が違う…!」


 貴族内格差を思い知った。


「それに、最初からあのネックレスを狙いにしてくるのなら、ひどく部屋を荒らす必要もなかったはずです」


 ミュリエッタの嘆きなど知らずアリスは考えをめぐらす。


 ミュリエッタの初日の怯えようから見て、部屋は燦燦たるありさまだったに違いない。わざわざ盗人がことを大きくしようとは考えないはずだ。


「高位の貴族でもありませんわね。わたくしやシュキアス様のようにあの石の意味を知っていて害を加えようなんて愚か者はいませんでしょうから」

「私もその意見には賛成です。大方嫌がらせのために部屋に入ったら、大事にしまってあるネックレスを見つけて、これくらいなら盗んでもバレない、とか思ったのでしょうね。貴族の持ち物なら価値があるだろう、とか」

「嫌がらせですか。……あるでしょうね。自分と同じくらい、もしくは自分より下位のご令嬢があれだけ殿下たちに囲まれていたら妬みの一つも抱くというものですわ」


 そう考えるとやっぱり全ての元凶は王子にあるような気がする。

 同じタイミングでアリスとクラリッサの頭の中に金髪碧眼の美青年が浮かんできて、二人同時にはっと振り払うように頭を振った。


「それでは相手は他のご令嬢の中にいるのでしょうか…?」


 ミュリエッタはおずおずと声をあげた。誰かを疑うのは心苦しいと顔に書いてある。

 被害にあっているのは自分だというのに、本当にお人よしだ。


「その線が高いですね」

「では、彼女たちの中から犯人を捜さないと…」

「いえ、必ずしも実行犯がご令嬢とは限りません。誰か人を雇った可能性もあります。それに、殿下に恨みを抱いている者が、あなたを傷つけるためにやった可能性もあります」

「でしたらどうしましょうか…?」


 アリスは頭の中に旅行の日程を思い浮かべる。

 三日目のお昼は、一時狩りを中断して大きな昼食会が開かれる。その時であれば滞在している者たちはおそらく大体が昼食会に参加するだろう。片付けの時には大勢が駆り出されるので、メイドたちの色んな噂話も聞けるかもしれない。


「明後日の昼食会の時に、手分けして本邸とゲストハウス、それからオルデン子爵令嬢の部屋を調べてみましょう。それと、昼食会が終わったら後片付けに紛れて何か噂話などないか探ってきてください。この時期は臨時で人を雇っているでしょうから見慣れぬ顔のメイドがいても不自然はないはずです」

「そんな! もう一度あの部屋に…!?」

「わたくしに召使の格好をしろと!?」


 これにはミュリエッタもクラリッサも渋った様子を見せる。ミュリエッタはあの部屋にもう一度行くのが恐ろしくて、クラリッサはメイドの真似事などできない、といった様子だ。


 しかし本当にこの件を解決したいならばもう少し情報を集めなくてはならない。


「甘えたことを言わないでください。手を貸すと決めたのでしょう。私とマクマホン様があなたの部屋で、なんてところを見られたら、また何の疑いをかけられるか分かったものではありません。これはあなたにしかできない作業なのです」

「うう…ごもっともですぅ……」


 まずはミュリエッタにぴしゃりと言う。ミュリエッタは両手で顔を隠しながら渋々了承した。

 次はクラリッサだ。


「もとはと言えばあなたのためにやることなのです。私たちは巻き込まれた側ですよ? あなたに拒否権があるとお思いですか」

「うっ…で、ですが! わたくしは産まれてこの方目下の者に頭を下げたことなどありません……誰かに見つかったらすぐにバレる気がしますわ」

「気合でどうにかしてください。大丈夫。没落した良家の子女が召使になるなんてよくある話ですから。この仕事は未経験だから色々教えてください、と頭を下げれば大体の人は同情してくれると思いますよ」

「どうしてそんなにメイドたちの事情に詳しいのですか…。いえ、いいでしょう。わたくしの名誉挽回の為にご助力頂いているのは間違いないのですから」


 不安そうな顔をしているがクラリッサからも了解が得られた。アリスはよし、と頷く。


「それではオルデン子爵令嬢はご自分の部屋を、マクマホン様は私たち女性が宿泊するゲストハウスを。私は本邸、男性たちの宿泊している階層を主に探します。終わったらそれぞれ適当に召使たちから噂話を集めてください。全て完了したら私の部屋へ」


 頼りない声だが一応二人とも是と答えたのでアリスはうんと伸びをする。

 そうと決まればアリスは早速今夜からやらなくてはならないことがある。


「そういえば、肝心のメイド服ですが、どうされるおつもりですか?」


 クラリッサが思い至ったようにそう尋ねる。


「そちらは私に任せてください。明日までにどうにかしますので。着方や髪型、化粧なども違和感がないよう一通りお教えしますので。明日お時間があるときに私の部屋へいらしてください」


 言いながらアリスはボートを動かすべく櫂を手に持って水の中へと滑り込ませる。

 すいすいとボートを動かしながら頭の中では今夜の計画を立てていた。



 屋敷に仕える使用人たちも含め皆が眠りについた夜更けのことだ。アリスはゆっくりと目を開けるとカーテンの隙間から差し込む月の光を頼りにするりと体を起き上がらせ、寝間着からいつもの街に出る時用の服に着替える。

 これならもし何かあっても走って逃げきれるだろう。


 胸元を探ってエレオノーラからもらったマスターキーがちゃんとぶら下がっていることを確認する。


(エレオノーラ様からもらったものをこんな風に悪用するのは気が引けるけど……)


 アリスも事態を把握しておかなければ()が不安なのだ。

 それにいつもレイノルドがしたり顔で罪をクラリッサに押し付けると思うとはらわたが煮えくり返るような思いがする。あのいけ好かない男に一泡吹かせてやりたい、と。これはアリスの意志だ。いつもしてやられることに対する些細な仕返しとでも言うべきか。


 鍵を服の内にしまい込んでアリスは静かに部屋を出た。


更新できずにすみませんでした!

また今日から毎日更新に戻りますのでどうぞよろしくお願いします。


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