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新たな出会い~アラベル~

 部屋から出るとアニモとコウの笑顔が出迎えてくれた。子供の嘘よりわかりやすい作り笑いだ。

「おお、もどったか。さ、早速次へ……分かった、分かったからそんな目でこっちを見るな。その、吾輩はああいった猟奇的な場面が苦手なのだ」

 俺の視線をうけアニモが嫌そうに手を払う。寝る間際に群がってくる羽虫を追い払う仕草そっくりだ。

「では、次の部屋へ行きましょう」

 コウが先導して次の部屋へ案内を始めた。足音が静かな廊下に響く。

 やけに速足だな。

 そういやあの場から一足先にいなくなったのはアニモだけじゃなく……。

「着きました」

 早口にメイドが告げた。既に手はドアにかかっている。毅然とした表情からは有無を言わせない雰囲気が漂っていた。

「なあ、あの時どうし……」

「さ、どうぞ」

 気が利くメイドは望んでもいないのに恭しい仕草でドアを開けた。含みを持たせて視線を送ってもどこ吹く風で受け流される。

 まったくイイ性格してやがる。

 軽くため息をついてドアをくぐると鼻を突く刺激臭が僅かに立ち込めた。壁に沿って無機質な棚が陸軍の隊列のように並んでいる。覗き込んでみると、見たこともない植物の根っこや、ガラス瓶に入れられた生き物の体の一部、真緑の液体などが敷き詰められていた。

「ほう、これはバロメの根だな。三日月の夜にしか取れない貴重品だ。それにこっちはバジリスクの喉袋、あの緑は体液か? 猛毒故、取り出すのは至難の業なのだが……」

 どうも只ならない物が入っているらしい。

 奥に目を移すと分厚そうな作業台。

 底が丸かったり三角だったりのガラス瓶がいくつも並んでいる。

 台の向こう側にはやたら大きな三角帽子と真っ黒なローブ姿の人物が、台の上で白く痩せた手をせわしなく動かしていた。

 作業に夢中のようで俺達が来たことには気づいていない。

 声を掛けようかと伸ばした腕を横から伸びた小さな手に掴まれた。

 (ま、待ってください……! アラベルさんは、その、ちょっとだけ人見知りなので慎重に声を掛けないと)

 ビビが小声で耳打ちしてくれた。人見知りったって話しかけるのを躊躇する程なのか?

 ビビは俺たちより一歩前に出ると軽く咳ばらいを始めた。どうも声の音量を調整しているらしい。グリフォンだってここまでデリケートじゃないだろに。

「アラベルさん、アラベルさん!」

 二度目の呼びかけで気づいたのかビクリと黒ローブが震えた。油切れのぜんまいみたいな動きで顔がこちらに向けられる。

 女だ。まだ二十もいかないだろう。顔の半分ほどもあるデカい眼鏡をかけている。

「あっ、ビビちゃん。ごめんね、きづ……」

 後ろの俺たちに気づいたらしい。アラベルの動きがピタリと止まり、紫の瞳が恐怖の色を写しだした。

 小さな悲鳴。

 彼女の姿はたちまち机の下に消えていった。三角帽子の先だけがぴょこんと台の上に出ている。

「だ、大丈夫ですよ! この方々は第二階層に到着されて……」

 コウが俺たちの紹介をしてくれるがきちんと伝わっているかは疑わしい。恐る恐るといった様子で帽子がせりあがってくる。二つの瞳がなんとか台より高くあったところで動きが止まった。

「あ、あ、あの……ご、ごめんなさい。し、師匠はい、今お出かけ中で」

 師匠? 俺が顔を向けるとビビが小さく頷いた。

「あ、アラベルさんには師匠がいるんです。キルケさんという方なんですが」

「ふむ……錬金術に詳しくはないが名前に聞き覚えはあるな」

 アニモは知っているようだ。その道では有名人なのか? 俺が視線をむけると弟子から再び小さな悲鳴が上がった。ビビから放たれる冷たい視線が肌に突き刺さる。

 いやまて、俺は何もしてないんだが。

「あー、その」

「ヒッ……! ご、ごめんなさい! ごめんなさい! わ、わわ私ひ、ひ人と話すの苦手で…………ごめんなさい!」

 まいったな……これじゃまともに会話できないぞ。

 頭を悩ませていると背後からドアが開く音。

 台車と共に一人の兵士が小走りで白い布が被せられた何かを運んでくる。

 この光景、前にも見たな。

 兵士は白布を引っぺがすと小走りで部屋を出ていった。

 当然あったのはハーピーの“残りの部分”だ。ダンジョンでアニモが運んだ際、負担がかかったからか首と胴体が千切れている。他の部分も焼けただれてたり、斬った断面がそのままだったりと上品とは言えない仕上がりだ。

 こんなゲテモノを繊細な錬金術師に見せたら大事故になるのは目に見えている。

 急いで隠し――

「あれ? もしかして新しい錬金のそざ……」

 ……大変残念だが、事故は防げなかった。

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