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新たな出会い~クイン~

 人間

 やたらと数だけは多い新顔。貴族共は無駄に高慢で平民は卑屈。自分達は大陸の覇者だと勘違いしているのが滑稽だ。中には各方面で"そこそこの"能力を発揮する者もいるが、当然エルフには及ばないだろう。


 ドワーフ

 山に住むちんちくりん。美意識というものは坑道に置き忘れたらしい。ドワーフエールというヤギの小便みたいなビールを好んで飲むバカ舌。ただし工芸品に鍛治師の腕、頑強な戦士には一定の評価を与えざるを得ない。


 竜人 (リザードマン)

 エルフ・妖精族と並ぶ古の三種族の一つ。

 極めて過酷な戦士社会で生まれ落ちたその時から選別が始まる。幼少から鍛え抜かれた戦士たちの力量は大陸随一だろう。精鋭の力には竜を祖先に持つという伝説も真実味を帯びるほどだ。一方で戦士以外の職に就くものは殆どいない。魔法にも適正はないようだ。


 妖精族

 大陸でもっとも古いと考えられる種族。齢が千歳を越える者もいる! (エルフや人間の寿命は長くて百程度だ)無尽蔵の魔力を有し強大な力を持つという。ただし、戦いの記録はほぼ残っていない。大陸南西部の<黒の森>深部に殆どの個体が住んでいる。


 エルフ

 神々に最も愛された種族だろう。剣・魔法・弓、どれをとっても優れた能力を発揮する。我が種族ながら誇らしい。帝都の貴族や腕利きの冒険者にも同胞の名が並んでいる。

 今最も喜ばしいニュースはヒュパティアだろう。かのアルフレッド・ヴァロワと並ぶ成績を魔法学術院で修めた神童は、我らの優秀さを示す何よりの証拠だ!


『大陸の種族(エルフ向け)』 エルナンド・シャロン

 ――――――――――――――――――


「ほう、ここが魔法書作家の部屋か」

 待ちきれない様子のアニモがドアの前に立っている。すぐにでも部屋と熱烈なキスを出来そうなくらい距離が近い。ドア前には『魔法書あり』とだけ小さな文字で書かれていた。

「はい、こちらはクイン・アードレスト=スタンリトルセペダさんの部屋……書斎ですね。帝都でも有名な――」

「なんと! あの高名なスタンリトルセペダ殿か!」

 アニモの尻尾が陽気なリズムで床を叩き始めた。舌を噛みそうな名前だが、かなりの有名人らしい。

 待ちきれなくなった魔術師が先陣を切って部屋へ足を踏み入れると驚きの声が上がった。

「な、なんなのだこの部屋は!」

 まず目に入ったのは林立する青々とした木々だ。足元の床や壁も根や枝が張り巡らされていて元の色は分からない。天井だった思われる場所には枝が這いまわり、人の頭ほどもある葉っぱが垂れ下がっている。

 それらを掻き分け奥へと進むと開けた場所へ出た。木の枝が折り重なって出来たベッドで小柄な女性が仰向けで寝息をたてている。木のコブを器用に枕にしているみたいだ。

 風貌は珍しい。

 髪は凪いだ海のように鮮やかな青色、それが腰まで伸びている。身に着けているのは緑色のワンピースだけ。スカートの部分がギザギザになっている。こんな服初めて見たぞ。顔立ちは子供のように幼い。横に長い瞼のすぐ上を細眉がすらりと通り、小さな鼻の下には桃色の唇がちょこんと乗っかっていた。

 だが、一番に目を引くのは背中から両側に二枚ずつ飛び出した透明な羽だ。これはもしかすると……。

「スタンリトルセペダ殿は妖精族だったか……驚きだ。我輩も初めて見る」

 噂には聞いたことがあった。森の奥に住む強大な魔力を持つ謎の多い種族。

 だが、目の前の子供にそんな力があるとは思えない。

「おや、おやおや」

 薄羽の少女が眠そうに片目を擦りつつ上体を起こした。半開きの瞼から見える瞳の色も髪と同じ色だった。

「お客さんですか~これはこれはようこそ。どうしましょ、深空樹を煎じたスープでも……」

「クインさん、こちらは第二階層を突破したパーティーの方々です。ケイタさん、アニモさん、ヒカリさん」

 しばし呆けていたクインだったが少しして状況が飲み込めてきたのか瞼がほんの少し上がった。

「ああ~そうか。そうでしたそうでした」

 一度大きく伸びをした後、ふわりとクインの体が宙に浮いた。ぎょっとして羽を見るが全く動いていない。

「あらあら、ビックリさせてしまいましたか。今はあんまり羽使ってないんですよね~魔法に頼ってしまって」

 俺の視線に気づいたのかクインに間延びした声色で告げられた。横からは「流石だ」と感心したようなアニモのつぶやきが聞こえてくる。どうも体を浮かすのはある程度難しい魔法みたいだ。

「スタンリトルセペダ殿は風の使い手であられたか……全ての系統の魔術書を書かれていたので気になっていました」

「クインでいいですよ~。一通りの四大元素の魔法は使えますね~ちょっとだけ火は苦手なのですが、他はそれなりです」

 ……ちょっと待て。さらっと言ってたが四系統の魔法を使える奴なんて初めて聞いたぞ。二系統も操れれば学院の教師になれるって話じゃなかったか?

「ああ、そうでした。冒険者ということは魔術書ですかね~ええと、確かここら辺に」

 クインが近くに幹に触れると木がぐにゃりと曲がった。倉庫みたいに空間があるようだ。彼女は豪快に体を突っ込みいくつかの本を引っ張り出している。

「はいはい、ではまずこちらを。ある程度必要なものは入って……おお! 貴方は竜人でしたか。珍しい…………私の記憶でも竜人の魔術師というのはいません」

「あ、ありがとうございます。あ、あの……クイン殿、その、は、羽が」

 適当に突っ込んだせいか左側の羽が一枚取れかけている。痛みは無いのだろうか? クインはぷらぷらついている羽に気づき。

 無造作にそれを毟り取った。

 後ろからビビの小さな悲鳴が上がる。

「これすぐ取れちゃうんですよね。ん? あらあら、そんな顔なさらなくても大丈夫ですよ~。またすぐ生えてきますから……おや? あなたこれ食べてみますか?」

 嫌な予感。

 いつの間にかクインのすぐ隣まで来ていたヒカリがぶんぶんと首を縦に振る。この提案はクインの耳に涎をすする音が聞こえたんだろう。

「お、おい流石にそれは……」

「私も食べたことはないのですが大丈夫ですよ。以前……二百年位前だったかな、子供にあげた時も何ともなかったですし」

 俺が次の言葉を告げる前にバリバリという音が聞こえてきた。アニモの眉間にしわが寄る。いつの間にか俺の背中を掴んでいたビビが横から様子をうかがっている。

「ど、どんな味?」

「パリパリして美味しい!」

 ヒカリは何を思ったのか羽をぱっきり折ると片方 (小さい方だ)をビビに差し出してきた。

 なんだ? 食べろってことか?

 ビビも何を思ったのか羽の切れ端を受け取った。後ろ手に見える瞳は期待でキラキラと光っている。

 なんだ? 食べる気なのか?

 ビビはおずおずと透明な羽を口へと伸ばし、噛み砕いた。

 バリバリと小気味いい租借音が木霊する。

「あっ美味しい」

 木々に覆われた本部の一室、そこでは妖精の体の一部だったものに少女たちが食らいつくという微笑ましく猟奇的な光景が繰り広げられていた。

 ……アニモとコウが居ねえ。逃げやがったな。

 俺は二人が食べ終わるのを待ってクインに礼を告げると部屋の外へと足を向けた。

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