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新たな出会い~ガロク~

 光が収まるとまず目に入ったのは頑丈そうな石壁。真四角の部屋のようだ。所狭しと様々な模様の魔法陣が描かれ淡く発光していた。赤・青・黄色・緑。色合いも大きさも異なる。書いてあるミミズがのたくったような文字もそれぞれ別の種類なのはどことなく分かった。

「……これは全て罠か。どれもこれも極めて凶悪なものだ」

「凶悪?」

 アニモの視線が鋭くなる。

「あっちの青い術式は<氷槍>だ。指定された者に文字通り氷の槍を降らせる。術者によっても異なるが……この術式の見事さから計るに重層鎧すらいとも簡単に引き裂く威力だろう。<土流>・<火槌>・<風刃>もあるな」

 おおよそ名前で想像はつくが間違っても受け手にはなりたくないものばかりだ。俺たちの様子を見かねてか慌てたようにコウが口を出す。

「このトラップは侵入者、もっと言うと魔物への対策用です。ポータルを伝い魔物が地表に出てきた時のため。とはいっても今まで一度としてそんな事態になったことはありません」

「そういやポータルは大丈夫なのか? そりゃゴブリンだのグールだのがあれを使えないのは俺にも分かるが」

 ダンジョンで気になっていたことを聞いてみる。確か一番深くまで行った奴は第四階層だったな。

 高位の魔物になるとポータルを利用されることもあるんじゃないのか?

「詳しい仕組みは分からないのですがアルフレッド様曰くダンジョンの魔物は使えないようになっているとのことでした」

「あれほど高名な魔術師だ。それも可能だろう」

 目をつぶったままアニモが二度三度頷いた。そんなもんなのか?

 コウが壁に魔石を近づけると重々しい音を立てて石壁がスライドしていきく。彼女に続いて外へ出ると傾いた太陽に照らされた豪勢な建物があった。

 正面には純白の馬鹿デカイ扉。トロルだって通れそうだ。扉もそうだが建物自体も広い。テベス・ベイの浮浪者全員敷き詰めてもまだ余りそうなくらいだ。三角屋根に見えるずんぐりとした煙突からはもうもうと煙が出ている。この建物内には鍛冶屋も入っているらしい。

 屋敷の壁は継ぎ目が無かった。近づいて触ってみる。不思議な感触、土と石の中間みたいな触り心地だ。煉瓦や大理石とは異なる素材が使われているらしい。

「こりゃいったい……」

 首を捻っていると、すぐとなりで緑色の手が見えた。小さな唸り声が聞こえる。

「これはコンクリートか!」

「コンクリート?」

「火山灰に石灰、さらに岩と海水を混ぜた物だ……近年開発された建築材だな。幸運だ、一度見てみたかった」

 うっとりとした表情でアニモはそのコンクリートとやらを撫で回している。事情を知らない奴が見ると違法魔法薬の常習者に間違えられそうだ。

 コウとビビに促され建物内へ。入ってみると丸い支柱が等間隔で並べられ通路のようになっていた。

 一際大きな中央と思われる支柱の近くで周りを見渡す。壁を見る限り一階は四つのエリアに区切られているようだ。俺が迷子みたいに辺りを物色していたことに気づいたコウが苦笑しながら向かって右側に手を伸ばした。

「一階には皆様をサポートする四つの施設があります。こちらには武具を作成する鍛冶師、魔道具や一部の防具を作成する仕立て屋」

 次に左側に手を伸ばす。

「こちらには魔法書を執筆する魔法書作家、魔法薬等のポーションなどを調合する錬金術師がいます。案内することもできますがどうしますか? まだ夕飯まで時間もありますし」

 ここで珍しくヒカリが小さく歓声を上げた。こいつが口に入れるもの以外に興味を示すなんて初めて見たな。

「どうしたんだ?」

「錬金術師は黒ヤモリを使うんだよね?」

 やっぱり食い物の事か……事情を知らない二人はぽかんと口を開けている。“耐性のない奴”が聞いたら卒倒しかねん。この件はうやむやにしておこう。

「うーんどうだろうな? そ、そうだ、コウ。ちょっと施設を案内してもらえるか? これから世話になるし顔見せくらいはしておきたい……そうだな、まずは鍛冶場から行こう」

 強引に話を変えて鍛冶場の方に向かわせる。ホッとアニモが息をついたのが分かった。

 木張りになっている床を踏みしめ建物の右手へ。近づくにつれ鉄を溶かす独特の臭いが立ち込めてきた。

 鍛冶場の場所はすぐわかった。壁の一部がその付近だけ煤けている。ドアを開くと立ち昇る炎の前で鍛冶師が作業をしていた。

 内部は飾り気がなく簡素なつくり。床は地面になっていて埋め込み式の火床があるようだった。ずんぐりむっくりの鍛冶師が手押し式のフイゴを押すたびに炉から火が上がる。真っ赤に焼けた鉄をヤットコで取り出し、年季の入った槌が打ち据えると火の粉が辺り一面に飛び散った。何かのリズムを取るように槌が打たれ、また炉に戻される。

 その動作に淀みはない。かなり腕の立つ鍛冶師であることは間違いなさそうだ。

 しばらく見とれていると打ち終わったのか形の整った長剣を水桶につっこみ中央の椅子へ腰かけた。

 と、ここで鍛冶師はこっちに目を向けた。ようやく気付いたようだ。顔は全部毛むくじゃら。顔から髭が生えたというより髭の上に顔が乗っかっているような印象を受ける。

 ドワーフだ。鍛冶師にはうってつけの種族。しかし、鍛冶師のドワーフが山を離れるとは珍しい。

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