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翠三葉(あおいみつは) は 翠朋也(あおいともや) で出来ている  作者: 椛こま


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翠三葉は翠朋也で出来ている 

 

「相変わらず・・・」

 この部屋は気持ち悪いな、という後に続く言葉を四葉は飲み込んだ。

「私たちは慣れちゃいましたけど、久々だとやっぱりドン引きですか?」

 たまたま清拭に来ていた美子が四葉の心を読んだ。

 ベッドの向かいに大きな朋也の写真が飾られていてその周りに二人の思い出の写真と10数体の朋也フィギアが並んでいる。朋也祭壇と呼ばれるその一角に訪れた者たちはみな何らかのアクションをしてしまう。

 四葉はそのうちの一体の片膝をついている朋也を手に取りまじまじと見つめた。三葉が好きなら仕方がないが、どういう趣味をしてるのかと毎回思ってしまう。

「朋也本人は恥ずかしくはないのか?」

 ため息と呆れ声で美子に尋ねた。

「恥ずかしいに決まってますよ。朋也さんは来ると速攻人形たちを三葉さんの布団の中に隠しますよ。近くの方がいいよねって」

「その時だけ隠してもな」

 苦笑しかない。美子も笑う。

「そう、それで寝る時に枕元に並べて寝るんですよ」

「これはどうしてるんだ?」

 やっとベッドサイドに立った四葉は今度は等身大朋也抱き枕を指した。片面はパンイチ朋也で片面はスーツ朋也というリバーシブル仕立てとなっている。

「それは本人がいるからさすがに仕舞います。あそこへ・・・」

 美子の視線は収納ボックスのついた椅子を指した。

「ぎゅうぎゅうに押し込まれています」

 あほらしいと首を振り、ベッドサイドの椅子に腰かけ四葉は三葉の手首を握った。

 来ると一番に脈を確認してしまう。

「三葉、久しぶりだな」

 そう声を掛けると、脈に手を置いたまま三葉の肩に頭を置く。

「もうすぐ、2年だな・・・なんだかアッと言う間だ。お前は起きないし、逃げた今井は見つからない。いい報告と言えば、また何人か今井たちが売買した少女や少年たちが見つかったよ」

「え、そうなんですか?」

「ああ」

 そのままの姿勢で四葉は返事だけ返した。

「アキさん、がんばってますね」

 美子は足首のマッサージを始めている。

「そうだな、一緒にアメリカに連れて行ってくれと頼まれた時には驚いたが、良くやっているよ。最近は他の仕事も手伝ってもらってるんだ」

「へぇー」と美子は頷く。

「アキがこの2年で一番変わったかもな。他はみんなそれなりだもんな」

「そうですね。みんなそれなりですね」

 足首からふくらはぎへとリンパを流す丁寧なマッサージを終えて、美子はカートへと戻った。

「では、私も他の方の看護へと行かせてもらいます。翠先生、また来るね」

 そう言って部屋を出ていく。

 その背中に「ありがとう」と声を掛けて四葉はそのまま眠った。

 朋也ではないが三葉の傍だと異様に眠くなるのだ。


「四葉、四葉」

 肩を揺すられて、四葉は目を開けた。

「朋也、来たのか」

 あくびをこらえながら、思い切り伸びをした。

 見れば朋也はフィギアを威勢よく紙袋に落としていた。

「いい夢を見たよ」

 朋也の手が止まった。

「俺も見たんだ」

 朋也は三葉も四葉の顔も見れるようにベッドに腰かけた。

「真っ白い霧の中から三葉がものすごい勢いで走ってきて、始めはこんなに小っちゃくしか見えなかったのに」

 親指と人差し指を使って2センチぐらいを示す。

「一瞬でびょんって目の前に現れて、『ヤッホー』って抱きついてきたんだよ」

 満面の笑顔で説明する。

「それのどこがいい夢なんだ?」

 四葉は真顔で応えた。

「いや、今まで夢に出てくる時はあっても、近づけなかったんだよ。追いかけても追いかけても追いつけない夢とか。すれ違う電車に乗ってる夢とか。いきなりスカイダイビングで飛び降りちゃう夢とか」

「それを、先に話してくれないと今回がいい夢なのかの判断が出来ないじゃないか。それにしても、夢の中の三葉活発だな。そんなアウトドアのイメージないけどな」

「確かに運動は嫌いだったね。でも俺と一緒なら何でもするって家に居る時の体力づくりは必ず一緒にやったんだよ。ランニングも筋トレもね」

「博士も変なリミッターを付けたもんだ。他にもやりようはあったと思うがな」

「ひどい言い草だな、なっ三葉」

 朋也は三葉に助けを求める。

「でも、いい夢だったと思わないか?三葉が戻ってくる日が絶対近づいてると思う。で、四葉の夢は?」

「私のはずばりそのものだ。さっき三葉の肩で寝てただろ?夢の中でも同じように寝てたんだ。そしたら、三葉が起きて『四葉、重い』って言ったんだよ。その時お前が起こしたんだ」

「それは」

 そこで言葉を切って、朋也は四葉から三葉へと視線を移す。

「本当に起きそうだ」

 四葉も三葉を覗き込む。

「そうだろう?三葉、早く目覚めろよ。みんな待ってるぞ」

「そうだぞ、三葉。早く三葉の声が聞きたいよ」

 二人の声に反応したのか三葉のまつ毛が微かに動いたように思えた。


 目を瞬きながら、ゆっくりと開けては見たものの、辺りは真っ暗だった。

 身体を動かそうにも上手く意思疎通が出来ない。

 お腹の上に何か置かれているのか重く、置かれている場所がしびれたようになっている。

 三葉は頑張って頭を重みの来ている方向へ動かした。

「ともやさん」

 声は出せなかった。

 でも一瞬で、いつまでも幼さが残るその優しい寝顔に見惚れてしまった。

 触りたかったが、手は重たかった。

 三葉は諦めた。

 眺めるだけで大満足だ。

 すごく、久しぶりの気がする。あのコンテナで見たあの姿。あれからどれくらい経っているのだろう。

 三葉は五感を研ぎ澄ませた。

 朋也の呼吸、脈、匂い、重さ、体温、すべてを感じ取れる。

 朋也に包まれている内に三葉はまた眠くなってきた。

「朋也さん、明日は一緒に起きるから。待っててね」

 朝目覚めて目が合って驚く朋也を想像すると、口元に自然に笑みが浮かんでしまう。

 眠気がスピードを増して襲ってくる。

 三葉は瞼が落ちる瞬間まで朋也の寝顔を目に焼き付けた。



 真っ黒い海が波打つたびに少し色を変える。

 対岸は真夜中だと言うのにキラキラと光を放ちながらビルの明かりが輝いている。

 足元に吸っていたたばこを落とし踏み消した。

 そしてその吸い殻を拾うと携帯灰皿に落とした。

 足元には同じような吸い殻やごみが散らばっている。この吸い殻の一つぐらい落としておいても何の変りもない気がする。

 それでも、吸い殻を拾う。

 この用心がいつも自分を救ってきたのだ。

 今井は、左手首に付いた時計で時間を確認する。取引の時間だ。

 すぐにセッティングしていた暗視スコープを覗いた。

 取引の様子がバッチリ視える。

「くくくくくくっ」

 自分でも抑え切れない笑みが自然と込み上げてくる。

 長かった。日本での失敗から潜伏を続けて5年だ。

 今井は慌てて口を覆って止められない笑いが零れるのを抑え込んだ。

「嬉しいか?そうだろうよ」

 その声と同時に、光が直接目に飛び込んできて、今井は目を閉じ藻掻いた。

「5年間お前がこうしてまた動き出す日を待ちに待っていたぞ、今井」

 目を押さえてしゃがみ込んだ所をあっという間に制圧された。手首に冷たい金属音が響いた。

「お前は私を知らないと思うが、こっちはお前をよく知っている」

 四葉の合図で沢口と八木が今井を立たせる。

 沢口たちも今井を追ってずっと協力していた。

「さあ、行こうか。ずいぶんキレイに仕事をしていたみたいだが、こっちも必死で証拠を集め上げたぞ。どこまで戦えるかはわからんが、お互い死力を尽くそうじゃないか」

「どうやって俺を特定した」

 まだはっきりと見えない目で今井は四葉を睨みつけた。

「焦るなよ、おいおい知ることになる。お前とはまだ始まったばかりだ。これから長ーい時間を過ごすことになるんだからな」

 捜査官たちに抑え込まれながら今井はパトカーに引っ張り込まれた。

「やったな」

 沢口が駆け寄ってくる。

「ああ、長かったな」

 四葉が答える。

「朋也に知らせるよ」

 沢口は興奮しながらメールを打った。

 八木もアキもやってくる。

「二人もお疲れ」

 四人は今井の乗ったパトカーのテールランプを見送った。

「何かあっけないっすね」

 八木は自分の感情が納得してないことへの戸惑いを吐き出した。自分の腕の中で死んだ安田の最期がいつまでも両手に染みついて消えない。今の逮捕劇ではあの死とは釣り合わない気がした。

 沢口がポンと軽く背中を叩いた。

「一歩前進したと思おうぜ。あの悪魔を捕まえたんだからな」

 分かりたくなくても分かったと自分を納得させなければならない、八木は色が変わるほどきつく拳を握り占めて、ゆっくりと頷いた。

「そいえば、三葉さんもうすぐですよね?」

 アキがいつもと変わらぬ口調で話題を変えた。

 三人は「ああ」と頷く。

「双子なんですよね?」

 同じ口調で四葉に投げかける。

「ああ」

 そう、三葉は双子を妊娠したのだ。

 目が覚めてから、四葉は三葉に妊娠の相談を受けた。何年も妊娠する努力を続けているが出来ない。私たち二人に身体的な問題はない、だけど出来ないのだ。特殊な産まれだから妊娠出来ないのだろうか?と。

 四葉は身体的に大丈夫なら妊娠出来るだろう、そんなに子供が欲しいならいっそ体外受精に切り替えたらどうだ?と聞いた。

 三葉は真剣な瞳でこう言った。

「自然に妊娠したいんだ」

 自分が子供についてこれっぽちも考えていなかったから、三葉の思いに気づけなかった、四葉の心にその言葉は深く刺さった。

「じゃ、計画的にがんばるしかないな」

 そう言って背中を押した。

 それから数か月後に三葉は妊娠した。

 全ての友人たちが大喜びしたのは言うまでもない。

「育てるの一人で十分だろう?一人私にくれって冗談半分でいったら、三葉、いいよって簡単に言ったよ」

 四葉は笑った。

「あ、それ凛と環も言ってたよ」

「本当か?どこも考えるのは一緒だな」

 アキと四葉が笑い合うのを、八木が呆れて見ている。

「まったくあなたたちはひどいな。そんな軽々しく話すことじゃないでしょうが」

「朋也は露骨に嫌な顔してたよ」

「そしたら、三葉さん、『じゃみんなで育てようよ。私たちだけじゃ絶対無理だし』ってあっけらかんと言ったんだよ」

 四葉も頷く。

「だから、生まれた子たちは凜と環だけじゃなくて四葉さんの子にもなる予定なんだね」

「それは楽しそうだな」

 沢口も乗った。

「俺も甥っ子か姪っ子が出来ると思ったら楽しみでしょうがない」

「ああ、そうか」

「ほんとだな」

 などと軽口を叩いている三人を八木は眺めた。

 確かにみんな欠けた所がある、それを補いながら支え合いながらする子育ても実はいいのかもしれない。

 どのくらいこの人たちが本気なのかは分からないが、親友の子供が元気にすくすくと育っていく未来が想像できて、八木はすっかり嬉しくなった。

「はいはい。さあ本部帰りましょうよ。これからが本番何でしょう。しっかり準備しましょうよ」

 八木に押されながら三人はやっと車に乗り込んだ。



読んでくれた方に感謝いたします。

ありがとうございました。

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