翠三葉は翠朋也で出来ている
ナオは状況を理解していても、目の前に現れた場景に足が竦んだ。
コンテナの中には空ろな目をした男女が倒れている。
肢体に力が入らないのか、両手を広げて仰向けになっている者、膝を抱え込んで丸まっている者、温かみを求めて抱き合っている者、ナオの目にはコンテナの中にいる人間が人には見えなかった。
足が竦んで動けないナオを邪魔だと言わんばかり押しやり、環たち小川記念病院の医者、看護師たちが中に入っていく。
すぐに診察をする医者を横目に環は一人一人の顔を確認している。
同じようなコンテナが後一つ、完全に意識のない人間が綺麗に梱包され並べられたコンテナが一つ。このコンテナから朋也が持っていた超小型発信機が一つ見つかったらしかった。
「環先輩」
三葉の声に環だけではなくナオも反応する。
「凜さんが見つかった」
まだぼうっと立っていたナオにぶつかりながら、環が走り出した。
三葉の指差す方向へ駆けて行く。
環の背中を見送った三葉はナオの側に駆け寄った。
「ナオくん、ここはいい。一緒に来て」
ナオの手首を掴むと、捜査員たちが会議室としていた事務所に引っ張って行く。
「朋也さんがいない」
ナオの意識はまだあのコンテナの中にあった。三葉はナオの顔を両手で挟むと視線を合わせた。
「ナオくん、朋也さんがいないの」
ナオの目が徐々に三葉の顔に焦点が合っていく。
「朋也さん?」
「そう、発信機をコンテナと凜さんにつけて、自分は持ってないのよ」
「じゃあ、どこにいるか分からない」
「そう、でもここにいないことは分かった」
三葉はナオをモニターの前に座らせた。
「すぐ、朋也さんたちが入った倉庫の出入りを詳しく確認して。荷物が出荷された日にそこから出た車、全部の行先をチェックして。時間がない、早く」
直接胸に刺さるその声に、ナオの頭は猛スピードで動き始めた。
三葉は数秒ナオの動きを見ていたが、部屋の隅に置いてあった自分のスーツケースに向かった。
三葉がスーツケースから真空パックされた服を取り出した時、四葉と数人の捜査員が戻って来た。
四葉も三葉がナオに頼んだ内容と同じ指示をその捜査員たちに出す。
「何やってるんだ?」
袋を破り中に入っていたTシャツを取り出した三葉に聞く。
「朋也さんをもっともっと感じなくちゃ」
そのTシャツに顔を埋め、三葉は携帯をいじった。耳にイヤホンが嵌っている。
集中力が研ぎ澄まされていく。
四葉には三葉の周りの空気が変わっていくのが分かった。
「三葉、何をしているんだ?」
四葉はとっさに三葉の肩を叩いた。
三葉は微塵も動かない。
四葉はため息と共に手を放し、自分もPCの前に座って、自分が出来る事に集中した。
事務所の中はキーボードを操作する音だけが響いている。
三葉は顔を埋めていたTシャツを着こみ、スーツケースから更に朋也一番のお気に入りのモフモフ人形を取り出した。ヌルっとした表情の可愛いとは言い難いこの猫の人形は、朋也が子供の頃から抱きかかえていた歴史を持っていた。母の手作り人形だというそれには朋也の匂いも思い出も何もかもが詰まっている。
三葉はそれを抱え込み部屋の隅で膝を抱えて座った。
2時間ぐらい過ぎた時、一人の捜査官が静寂を破った。
「これ、観て下さい」
皆がその席の周りに集まった。
それは倉庫の出入り口の監視カメラの一つだった。
「このトラックを追って行きます」
出口を出たトラックが次の監視カメラに移る。
「トラックは幹線道路に入ります」
更に監視カメラ映像が移る。
「ここから、脇道に逸れます。細い道なんですが、この道何かあったのか最近監視カメラが取り付けられていたんです」
映像は愕然と悪くなったがトラックの行方は分かる。
トラックは真っすぐ走るその道の丁度カメラから切れる先で曲がった。
「この先はなんだ?」
四葉の質問にナオが自分のPCを差し出した。
ナオのPCにはそのトラックがたどり着いただろう場所の地図が映し出されていた。
そこはコンテナの廃棄置き場らしかった。
「映像はないのか?」
「ないですね」
「入口だけはなんとか」
朽ちた重そうな鉄の門が映し出される。
「管理してるのはどこだ?」
「わかりません。違法くさいですね」
別の捜査官が答える。
「踏み込めるのか?」
四葉がロバートに確認する。
ロバートは誰かに電話していた。四葉の言葉を手で制して会話を続けている。その場にいた全員がロバートの電話が終わるのを待った。
ロバートが電話を終える。
「OKだ。中に入れる」
その答えと同時に部屋の隅で固まっていた三葉が立ち上がった。
「四葉、行くよ」
二人とナオは同時に部屋を出て行った。




