翠三葉は翠朋也で出来ている
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、小さい機械音が聞こえる。
今井はその音に導かれるように、寝室に入りベッドサイドのチェストの引き出しを開けた。
黒い受信機の一部が赤く点滅している。
音がなるはずのない物。
今井が表面を撫でるように触ると音は止まった。
「安田」
今井は受信機を持ち、リビングに戻った。
パソコンを開くと、カーソルを動かした。
パソコンの画面にコンテナターミナルが映し出される。
パトカー、救急車、大勢の人。
今井はパソコンを閉じた。
そして、飲みかけのコーヒーを口に運ぶ。
飲み終わるとキッチンへ行き、カップを洗った。洗ったカップを水切りに置くとまた寝室に戻った。そして着ていたワイシャツとスラックスを脱いで、ベッドに置く。クローゼットを開け、ポロシャツに茶色のVネックのセーター、ベージュのチノパンに着替える。
クローゼットの扉に備え付けられている鏡を見ながら、綺麗に整えられていた髪をバサバサと崩し、手櫛でラフに整え直す。
太めの黒縁のメガネを掛け、大きく息を吐きだし、そして大きく息を吸った。
それまで、ペタンとしていた胃と下腹がぽこんと飛び出した。そして、スリッパから靴に履き替える。
靴に履き替えたとたん身長が数センチ高くなった。
今井はゆっくりと寝室を出ていく。
その歩き方もさっきまでとはまったく違う。
明らかな変装は一切していない、でも、着替えた今井はもうさっきまでの今井とは別人だった。
別人になった今井はベットに置いた服を取ると、クローゼットに掛け直した。
そして、片掛けのバッグを肩に掛けると、部屋を出て行った。
玄関を出ると、今井はエレベーターではなく、非常階段へ向かった。このマンションの非常階段は一階と屋上へ通じる最上階にのみ監視カメラがあった。
今井は非常階段を上っていく。4階から9階へ。9階へ着くとポケットからマスクを取り出し着ける。903と書かれた部屋の扉を当たり前のように開ける。
「ただいま」
その声に反応して奥から女の声がする。
「えっ、パパ?」
声に遅れて女性が顔を出す。
「どうしたの?忘れ物?」
「いや、駅まで行ったら急に腹が痛みだして、戻って来た」
「あらやだ、すごい痛い?薬飲む?」
「取り合えずトイレに行くよ」
別人になった今井は、慌てた様子でトイレへと駆け込んで行った。
「もう、本当にお腹弱いんだから、困ったもんね」
迎えた女性はそうつぶやきながら、リビングの方へ戻っていった。




