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翠三葉(あおいみつは) は 翠朋也(あおいともや) で出来ている  作者: 椛こま


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翠三葉は翠朋也で出来ている 

 

 三葉と四葉側の計画は拍子抜けるほどあっさり結果を得た。

 信号を発信しているコンテナの山の中を歩いてほどなく、三葉は発信源を突き止めた。

 複数の呼吸音がするコンテナを三台発見した。そのうちの一台から朋也の持っていた発信機の音がした。

 二人はもう一つの発信機を追った。

 そして一時間後に発見したのだ。

 その発信機は船に積み込まれようとしていた。

 捜査官たちはこのコンテナにレア商品である、凜が積み込まれていて、その他の攫われた人間がほかの三台のコンテナにいると判断した。

 中にいる人間たちがどのような状態かわからないので、事は一刻を争えない、捜査官たちは迅速に次の計画に移った。

 コンテナの確保と、安田の確保だ。

 これまで、この一角を監視し続けた、四葉たちによると特別に今井がこの積荷を見張っていることはないと判断できた。いつものように、万が一計画に何らかの破綻が生じた場合はすっぱりと商品を諦めるつもりなのだろう。

 今井のこの利益に拘らない潔さが、今井自身を生かしてきた術なのだ。

 急なレア商品が登場した今回のような取引でも、結局その姿勢は変わらなかったのだ。

 今井の潜伏先は分かっていたが、今井の姿は確認出来てはいない。

 商品と安田を同時に確保することによって、今井が動くことに賭けるしかなかった。

 すぐに駆け付けられる距離に小川記念病院の救急車も待機していた。

 四葉の命令でコンテナ現場と安田に張り付いていた八木班が一斉に動いた。


 安田には何が起こっているのか全く理解が出来なかった。

 いつものように仕事は順調に進んでいた。

 詐欺の仕事であれ、こっちの人身売買の仕事であれ、足が付くことはないと言っていい。今井の構築したこの犯罪組織は横の繋がりは分かっても縦の繋がりはわからないようにできていた。

 切られたしっぽからトカゲが分かることは絶対にないはずだった。

 だが、今自分はデカい男に羽交い絞めにされ手錠を掛けられている。

 もともと頭を使うことは苦手だ。

 今井に言われたことを一分の狂いなく実行するのが自分の仕事だった。

 自分から何か行動を起こすことなど、今井の下に就いてからは一度もなかった。

 だから、尚更頭が働かない。

 分からないままに安田は奥歯を思い切りかみ合わせた。不足の事態が起こったら取るよう指示された今井からの唯一の命令だった。


「安田、確保」

 八木が手錠を引っ張り安田を立たせた。

 その瞬間、安田は身体を丸めると「うっ」という呻きと共にうずくまった。

「安田!」

 八木が身体を寝かす。

「救急車、救急車を呼べ」

 喉を何かが逆流してくる。

「くくくくく」

 安田は口から血の混じった吐しゃ物を吐き出しながら、笑った。

 良い終わりだ。

 くそみたいな人生の終わりがこんな感じだとは思わなかった。

「くくくくくく」

 笑いが止まらない。

 実父はあほみたいに俺を殴るやつだった。知らない間にいなくなった。

 新しい父と名乗る男は、殴りはしなかったが俺に何でもさせた。その男の言うがままに盗みを覚え、身体を売り、稼いだ金はすべて吸い取られた。

 どこの組かもわからないやくざの薬に手を付けて、半殺しにされている所を今井に助けられた。

 今井がなんで俺を助けたのかは知らない。

 たぶん、気まぐれだろう。

 でも、その手にしがみついた。

 他人から手を差し出されたことなんてなかった、だから必死でその手にしがみついた。

 そして人生が一変した。

「へへへへへへ」

 楽しかった。今井に出会ってから嫌なことなんて一つもなかった。毎日おいしいものを食えたし、熱い風呂に入れたし、寝床はいつもふかふかだった。

 仕事をすればちゃんと金がもらえ、好きなことに使えた。

「い、まいさん、たのしか・・・たっす」

 ちゃんと逃げて下さい、そう願った。

 朦朧とする安田の頭の中に今井の顔が浮かんだ。

「さあ、立て」

 今井が手を差し出す。

 安田は「へへ」とまた笑った。

 何やってんすか、逃げないと。

 安田は無意識に空に向かって手を振った。

 何かを振り払うように、手を振った。

「安田、おい、死ぬな」

 八木は耳元で叫んだが、安田の目はもう何も見てはいなかった。



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