翠三葉は翠朋也で出来ている
作業着に身を包み現場に着いた三葉は、一直線に四葉に向かっていった。
「さあ、何をすればいいの?言って」
イヤホンをして電子機器の前に座っていた四葉を強引に引っ張った。
「聞こえてる?私は何をすればいいの?」
目の前に迫った三葉の顔を四葉はまじまじと見つめた。
「何?」
「いや、私の顔でそんな表情も作れるんだと感心していたんだ」
三葉の眉が上がった。
「そんなどうでもいいことは、どうでもいい」
三葉の迫力に四葉は、分かった、分かったと手を振った。そして、自分の横の椅子を引いた。三葉はおとなしくその椅子に座った。
四葉はモニターに地図を映し出す。
「ここが今私たちのいる事務所だ。そして」
四葉の指がモニターの上を走る。
「ここにある信号が朋也に埋め込まれた発信機の信号だ。そしてこの場所の映像がこれだ」
四葉がモニターの隅に触れると映像が変わった。
そこには何千ものコンテナが積み重なったコンテナターミナルの一角が映し出された。
「この中に朋也さんが」
三葉はじっとその映像を見つめた。
「もう、分かったのか?」
「分かる訳ないでしょ」
四葉のからかい気味の言葉に三葉はむっとした声で答えた。
「さずがにないか」
四葉のほうは別段気負いこんでいる三葉をほぐそうと冗談を言った訳ではなかったようだ。真面目な顔で受け応えている。
「あの中から朋也さんを探せばいいのね。行きましょう」
三葉のほうもそんなことは気にしないとどんどん外へ行こうとする。
「いや、勝手に行くな」
四葉は止めようとしたが、三葉は全く無視して外へ向かおうとしている。二人のやり取りを見ていたナオが慌てて三葉の腕を掴んで止めた。
「三葉さん、気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着いて」
自分の腕を掴んだナオの顔を三葉は睨んだ。だが、ナオは腕を離さない。
「この犯罪組織は巧妙に出来ている。この場所を24時間詳細に見張っているやつはいないが、商品はしっかり管理されているはずだ。本来なら不測の事態が起きた時には末端の者たちを切ってお終いにするはずだが、今回は三葉の友人というレア商品がある。私たちの盗聴の結果それは簡単には諦められない値が付いた。だからこそこちらも賢く行動して奴らを逮捕しなければならない。この場所の作業員はいつも通りの作業を行っている、その中に混ざりながら私たちは攫われた人を見つけなければならない」
ここまで理解できたか?と四葉が言葉を切った。
三葉が頷いた。
ナオも掴んでいた三葉の腕を放した。
「あのエリアの作業は通常二人で行う。私たち二人で行くのだが、顔があまりに一緒では人目を引いてしまう。だから簡単な変装をして行くのだ」
四葉のその言葉に合わせて部屋の奥から男がアタッシュケースを持って現れた。
「これは私のパートナーのロバートだ」
三葉はこの男を知っている。博士の助手をしていた男だった。だが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
ロバートの手からそのアタッシュケースを受け取ると、中身を確認した。中には薄いシリコン製の仮面のような物が入っていた。
「なんで私がつけるの?」
どちらかの顔を変えればいいなら、四葉でもいいだろう。
「私もつけるよ。なるべくなら素顔をさらしたくはないからな」
自分だけがこのべっとりした何かをつけるのが嫌だった三葉はその返事に満足したが、改めて四葉の顔を見た。
「四葉の仕事はそんなに危険なの?」
その答えに四葉は目を細めて三葉の顔を見つめた。
「心配してくれるのか?」
四つ子だったとはいえ一緒にいたのは数年だ。お互いに知っていることなどほんのわずかしかない。
「心配だよ。二人きりの姉妹でしょう。できれば、寿命をちゃんとまっとうして欲しいわ」
四葉は微笑んだ。
「ああ、危険な仕事だが最善の注意を払っている。私もできれば寿命をまっとうしたい」
三葉の腕を掴んで、椅子に座らせた。
「三葉もそうであって欲しい」
ずっと離れて暮らしていた。毎日三葉の事を思い出していたわけでもない。無論さみしく思ったこともない。血の繋がりが、DNAがそうさせているのかもしれないが、四葉も三葉の安全を強く願っていた。
そう、気づいた。
手慣れた手つきで四葉は三葉の顔にマスクを張っていく。
張ったマスクの上から特殊な化粧品を使って違和感を消した。最後にカツラを被らせた。
そこには、もう三葉はいなかった。誰も知らない中年女性がいるだけだった。
「これは、すごいな」
三葉は驚嘆する。
「違和感ないんですか?」
見ていたナオも興味津々だ。
「いや、違和感はある。顔に何かついているし、気持ち悪い。でも感じている不自然さが客観的には見えない。すごいなこれは」
三葉は鏡に向かってしゃべっていた。
その横で四葉も素早く自分の支度をした。四葉もやはり中年女性へと変化していく。三葉より更に年配な女性だった。
完全に支度の整った二人は改めて、捜索の手順を確認する。
ナオを含む日本の捜査官と、ロバートを含む四葉の会社の技術者が、睡眠時間を削ってこの一帯の監視、そして朋也の発信機から得たデーターを収集して可視化した。
「朋也さんの持っていた発信機は全部で二つ。一つがこのコンテナのエリアにあり、もう一つは積荷される船の付近にあります」
ナオがパソコン画面をもう一度三葉に見せる。
膨大なコンテナとその後ろに巨大なコンテナ船が映っている。
三葉はじっとそのモニターを見つめると、大きく頷いた。
「さあ、行こうか」
四葉の合図で二人は部屋を後にした。




