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翠三葉(あおいみつは) は 翠朋也(あおいともや) で出来ている  作者: 椛こま


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32/44

翠三葉は翠朋也で出来ている 

 

 三葉はその場で沢口に電話を掛けた。沢口はすぐに電話に出た。

 どう切り出していいか分からず、とりあえず朋也のことで相談したい事があるから会ってもらえないか、と伝えた。

 沢口は二つ返事で了承した。

 会う場所は今いる竜のクラブにすることにした。警察に三葉が出向くより、ここの方が安全だろうということになった。

 事は急を要している、今日中に会えないかと切り出すとそれにも沢口は簡単にOKを出した。

 だが時間は遅くなるかもしれないと言う、三葉たちも病院に一度戻らなければならず、時間は遅いほうが都合が良かった。夜10時に会う約束をして三葉は通話を切った。

 とりあえず、むやみに動き回らないことを確認し合い、三葉と環はクラブを後にした。

 環の顔色は白いままで帰りは一言も口を利かなかった。

 三葉も慰めの言葉は掛けなかった。ただ黙って二人は病院に戻り、通常業務をこなした。

 そして、またクラブへ戻った。

 昼の姿と夜の姿。

 クラブは全くの別ものに様変わりしていた。

 知らなければ簡単にはたどりつけない場所にもかかわらず、多くの人がクラブの中にいる。ネオンで色とりどりの姿になった人たちが踊っている。隣の人との会話も困難な音の世界でそれでも皆楽しそうに笑っていた。

 その人込みを縫う様に、三葉たちは昼間に聞いた場所を目指し奥へ奥へ進んだ、光沢のある重いベルベッドのカーテンを二回通り過ぎると、少し喧噪が遠ざかった。

 大きな観葉植物の影に扉がある、そのドアを開けて二人は中に入った。そして、その足が止まった。

 部屋の中には沢口ともう一人三葉がいた。先に入った環が思わず後ろを振り返った。前に三葉、後ろにも三葉。

「四葉?」

 三葉の声にそう呼ばれた、もう一人の三葉は笑った。

「三葉、久しぶり」

「どうして四葉がここに?」

 三葉の疑問はもっともだ。だが、沢口はまずは座れとソファを指した。

「とりあえず、まずこちらが掴んでる情報と情況を説明させてくれ」

 沢口はそう切り出すと、朋也が二年追いかけてきた組織の中枢に入り込んだ所で連絡が途絶えたこと。その組織が人身売買をしていて、四葉はアメリカの買い手側から捜査して日本のこの組織にたどり着いたこと。

 その四葉の情報から、近々大きな商品出荷があること。

 沢口の言葉は事務的で実に簡潔だった。

 情報の共有を済ますと、沢口は環に話を向けた。

「小川さんですか?」

 環は頷く。環が同席することは話していた。

「私の恋人が行方不明になったんです」

「経緯を教えて下さい」

 沢口は促す。

「私の恋人は野坂凜というんですが、一か月ぐらい前に偶然生き別れになっていたお兄さんとここのオーナーの竜さんを見かけたんです。そのお兄さんは朋也さんとも一緒にいた。凜は朋也さんが刑事だと言う事を知っていて、それで、その兄が何か犯罪に関わっているんではないかと疑った」

「そのお兄さんのお名前はあきおですか?」

 環は三葉の方を見る。

「アキという名だと聞いています」

 三葉が答える。

 沢口は頷くと、続きをどうぞと手で促した。

「凜は竜さんからアキの居場所は分からないこと、アキが二年前ぐらいに行方不明になった綺羅という女の子を探していたことを聞いたんです。その綺羅という子が行方不明になった経緯を聞いた凜は何か思う所があったみたいで。竜さんの静止も聞かず、一人で手掛かりを探っていた」

「そして昨日姿を消した」

 話を聞いた沢口は四葉に目で合図をした。

「私が追ってきたアメリカの買い手の方に昨日新たな情報が入った。特殊な血液を持った超レア商品が手に入ったと。あなたの恋人は珍しい血液のタイプではないか?」

 四葉の質問に、環も三葉も大きく頷いた。

「そうです。凜は稀血と言われる血液のタイプです」

 四葉は沢口と目を合わせた。

 今度は環と三葉が視線を合わす。

「絶対に凜だ」

「今現在、出荷が3日後に行われる所まで掴んでいて、港も分かっている。ただ、大きなコンテナ船で運び出されるため、どのコンテナに商品がいるかが問題なんだ。朋也は発信機を身体に埋め込んでいたんだが、その発信機をたどって発信場所にはたどり着けた」

 そこで、沢口は言葉を切った。

「見つからないんですか?」

「簡単に言えばそうだ。そこにはその他もろもろのコンテナが山のようにあるんだ。しかも、こっちが追ってる犯人はもちろん監視はしているだろうが、絶対にその場所には現れない。組織を壊滅させるためにもそいつを絶対に捕まえたい。だから、大ぴらに大人数で捜査もできない」

「だが、三葉お前なら探せる」

「私が?」

「そう、そのコンテナのどこかにお前の夫もいる」

 ああ、そういうことか。三葉は四葉の言葉を理解した。

「でも、私の朋也センサーの感度は実際やってみないと、程度がわからない」

「でも、それにかけるしかない」

「四葉さんと三葉ちゃんは朋也と凜さん、その他の攫われた人たちを。こちらは、犯人を追う」

 沢口がそう話をまとめた。

「小川さん、攫われた人たちがどのような状態か、何人いるか分からない。救出した後、その人たちの対応をお願いしたい」

 環は大きく頷いた。

「では、このまま三葉は連れて行く」

 四葉がソファから立ち上がった。

 沢口と環は携帯の番号を交換する。

「三葉、絶対凜を助けて」

 環はそれだけ言うと一人部屋を出て行った。

 残された3人も部屋を出た。環の向かった出入口とは別の出入口へと向かう。

「博士のこと全く聞かないな?」

 歩きながら四葉が前を行く三葉に声を掛けた。

 出入口へ向かう廊下は狭い。3人は縦に並んで歩いていた。

「亡くなったんでしょう」

 環の前を歩いていた三葉は振り返らずに答えた。

「知ってたのか?」

 意外だと四葉は驚いた。

「博士と別れる時、博士からは独特の匂いがしてた。医者になるまでその匂いが何なのか分からなかったけど、医者になって少なくない数の末期患者と接した、みんな同じ匂いがした」

「そうか、死の匂いがしてたか」

 先頭を歩いている沢口の耳にもその会話が届いていた。

「私たちは何も知らずに捜査に参加していたが、神服博士は何で追われていたんだ?」

 長年疑問だった。

「機密情報を運び出したと考えられてた」

「君たち以外に?」

「そう、私たちは機密の中には入らない。博士が関わっていた研究は多かったからな。火事のせいで何が焼けて、何が無くなっているのか、確認が取れなかったんだ。逃げた博士がこの上なく怪しく思えて当然だな」

「その言い方だと、博士は何も盗んではいなかった」

「ああ、ただ私たちを自由にしたかったんだ」

「その誤解は解けたのか」

「ああ、火事現場の検証が済み、本当に漏れては困る機密情報は何もなくなっていないことが分かった。まあ、博士がひそかに帰国して釈明したことも大きいが、私たちのことは不問となった」

「博士はなぜそんな危険を冒して君たちを施設から連れ出したんだ?」

「別次元の力によって道が示されたようだったと言っていたよ。博士の私たちへの研究は脳の機能をフル活動させることだったようだが、一葉と二葉が死んでしまって、この研究自体に気持ちが向かなくなったそうだ。だが、研究所は私たちというストックがあるから、リミッターを掛けてどの程度脳を活発化させられるかという研究を続けた」

 四葉は前を行く三葉の背中をじっと見つめたまま話を続けた。

「意外だったが私にも父性愛があった、と言っていた。先のない研究のために私たちをいじるのにひどい嫌悪を感じるようになって、それに耐えられなくなったと。そんな時研究所で火事が起きた」

「偶然が重なった・・・」

「そうだな、自分の病気のこともこの頃分かったということも含め、目の前が突然開けたと思ったらしい」

 四葉は前を行く三葉の肩を掴んだ。

 三葉が振り向く。

「私たちとあの隠れ家で暮らした二年と、三葉と暮らした一年、日本で暮らしたあの三年が人生で一番発見と学びが多かったと言っていたよ」

 四葉はしっかりと三葉の瞳を見つめた。

 三葉も四葉の瞳を見つめる。

 三葉の脳裏にありありと博士が浮かび上がった。

『幸せになるんだよ、三葉。バイバイ三葉』

「別れる時、笑ったんだ博士。初めて笑った顔を見たからその顔に見入っちゃた。何だか気持ちがムズムズして嬉しかったのを今でも覚えてる」

「そうか」

 四葉が頷く。

「まあ、私、何でも覚えてるんだけどね」

「そうだな」

 それだけ言うと、三葉は前を向いてまた歩き出した。

 立ち止まって二人の会話を聞いていた沢口も歩き出した。



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