翠三葉は翠朋也で出来ている
真夜中になれば眩しいぐらいのネオンとけたたましい音楽に包まれるだろう場所だが、今は何の光も音もない薄暗い所でしかなかった。
ドアを潰すぐらいの力で環はドアを押した。
バン。
その音は静寂の中に響き渡った。
竜はカウンターの中で酒の確認をしていた。
すごい勢いで入ってくる環を驚きもせず見つめる。
「まだ、開店前なんだけど」
相手も百も承知だと分かっていての嫌味だ。
環はカウンターにドンと手を付いた。
そして、頭を下げる。
「教えて下さい」
環の行動に今度は竜も驚いた。そして頭を上げた環の顔を確認する。
「ああ」
竜は環の行動の理由を悟った。環の後から三葉もクラブに入って来た。
「先輩、足早すぎ」
場所が分かったとたんに走り出した環に追いつけなかったのだ。
「私の事わかりますよね?」
うん、竜は頷く。レストランの方の常連だ。だが、もちろんこのクラブには来たことはなったし、竜を知っているからと言ってこのクラブの場所が簡単に分かる訳ではない。
さぞ、ここを見つけるのは大変だったと思う、それを探し当ててでもここへ来た理由、それをもちろん竜は知っている。
「私の連れと、一か月前ぐらいにここで会ってましたよね?」
「ええ」
「その連れの行方がわかりません。どこにいるか知りませんか?」
竜は拭いていた酒の瓶を置いた。
「行方が、分からない?」
「ええ、今日仕事に出勤していません。そして携帯の電源は切られている」
「そんな・・・」
竜は動揺が隠せない。
一人でアキを探すという凜を竜は止められなかった。でも、何かあったらすぐわかるように人を付けていた。
いなくなれば連絡が来るはずだ。
「待って、確認するから」
竜は慌てて携帯を掴むと、画面を操作した。
竜が電話を掛けたタイミングで後ろから着信音が聞こえた。三人が一斉にドアの方を向いた瞬間、ドアが開いた。
「兄貴、何か変です」
毛躓くように男が駆け込んできた。
竜は掛けていた携帯を切った。
入って来た男を三人は囲んだ。
「どうした、何があったの」
竜が水を差し出す。
男は水を一気に飲み干すと、息を整えた。
「昨日も兄貴に言われた通り、あの姉さんをつけてました。姉さんはいつも通り、あのたまり場の家に入っていったんです。そいで、朝、出てこなかった。姉さんが朝出てこないなんてことは変だから、確認しに行ったんですよ。でも一人じゃ怪しまれるかもって、女呼んで、朝まで飲んでたバカップル装って家見に行ったんです。そしたら、誰もいなかった。姉さんの他にカップルとあと別の女の子が一人昨日はあの家にいたはずで、誰も出て行かなったのに、家の中に誰もいなかったんです」
男は吐き出すように言い切るとまたごくごくとまた水を飲んだ。
環の顔から血の気が引いた。
「その家ってどこにあるの?」
真っ白になったその顔で男に迫る。
「環先輩落ち着いて」
三葉は前のめりになった環の肩を引いた。
「今更その家に行っても何も分かりませんよ。それより、マスターは、ちいという男を知っていますか?」
竜だけではなく環も三葉のその質問に驚いた。
「知ってる」
竜は戸惑いながらも真実を口にした。
「そのちいという人物と凜先輩が探していた人物は一緒にいるんですか?」
「わからない、けど、凜さんがアキを見た時にそのちいという人と一緒にいたって言ってた。その男は警察官だから、一緒にいるってことはどういう事なのかって、聞いてきた。私はアキがそのちいと前に一緒に危険な仕事をしてたことがあるって話しをした」
「そのちいって?」
答えに察しは付いたが環は改めて三葉に尋ねた。
「朋也さんです。朋也さんは潜入捜査官なんです」
「潜入捜査官?日本ってそんなことできたっけ?」
環は急に細かい事を気にした。
「まだ秘密の部署なんだって言ってました。警察組織の中でも一部の人しか知らない」
三葉も真面目に答える。
「え、つまり、待って」
環が頭をバサバサとかき回しながら考えを整理する。
「朋也さんは何かの組織に潜入している。その中で凜の探していた人物アキに出会う。凜はあなたと」
言葉を止め竜を指す。
「偶然アキが会っているのを見た。そして、やっぱり偶然朋也さんと一緒の所も見た。凜は朋也さんが警察官だと知っているから、そのアキさんが犯罪に手を染めていると思って私に黙って探すことにしたってこと?」
「だいたいは合ってる」
竜が答えた。
「でも、アキが犯罪に手を染めているということはない、アキは人を探していたの、その子を救おうとしてた。その子が犯罪に巻き込まれた、その犯罪がとてもヤバいんだと私は考えていて、アキに手を引かせようとしてた」
「でも、アキは手を引かず行方が分からない、その行方が分からないから凜先輩は、アキが探している子と同じように行動したってことですか?」
「そう、凜さんはアキの探してる子、綺羅っていうんだけど、綺羅がいなくなった場所と同じような場所が分かるかもしれないって言って。私が一人で行動しないでって言っても聞かなくて。だから、黙って後をつけていたんだけど・・・」
竜は目の前の男と同じように大きく肩を落とした。
「とにかく私の仲間を動員して、昨日何か変な動きがなかったか調べるわ」
竜はまた携帯を持ち上げた。
「待ってください」
その手を三葉が止める。
「朋也はさんは潜入中、ということはある程度警察が動向を把握してるって事。朋也さんの上司に連絡を取ります。その組織が危険なら危険なほど安易に動かないほうがいいのかも」
三葉の提案にその場にいた誰もが大きく頷いた。




