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翠三葉(あおいみつは) は 翠朋也(あおいともや) で出来ている  作者: 椛こま


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翠三葉は翠朋也で出来ている 


 都会の夜に取り残されているかのような若者たちを、アキは贅沢だと思っていた。

 アキにしてみれば何故こんな所で当てもなく時間を潰しているのかまったく解らなかった。

 それでも何故か離れがたくアキは路地にしゃがみ込む子と一緒にしゃがみ込んだ。

 そうして毎日繰り返していると、何人かと話しをするようになった。

 ポツポツ話す子、弾丸のように不平を捲し立てる子と色々いた。アキはただ黙ってそんな子たちの話しを聞いた。

 何か気の利いた返事をすべきなのか考えたこともあったが、アキには返す言葉がなかった。彼らの不満が理解できなかったし、どう答えるのが正解なのかもまったく分からなかった。

 だから、ただ話しを聞いた。

 そのうちアキは路地に座りなかなか家に帰れない彼らのことが少し理解できるようになった。

 それは彼らの経験と自分の経験はまったく違うが、感じている痛みは同じだということだった。

 彼らの痛みを同じように感じられるということではない、むしろ話しを聞けば聞くほどかけ離れて行くのだが、たしかに彼らも苦しんでいるということが理解できたのだった。

 痛みの度合いなど本人にしか分からない、同じ経験をしても同じ痛みを感じるわけではない。でもどんな痛みも本物なのだ。

 そんな彼らの中にあって綺羅は、数少ない自分の経験と似た経験をした少女だった。

 初めて会った時、いや助けた時、綺羅は路上で倒れていた。身体中に殴られた痕があり、所々から血を流していた。

 病院へ連れていかなくてはと思ったが、すぐには動けなかった。少し考えて自分の保護監察官に電話した。

 竜はすぐに駆けつけてくれた。そして、綺羅を病院へ運んでその後も面倒を見てくれた。アキ自身は戸籍がないから、保険には入れない。綺羅のような子もまた保険を使えない深い理由があるとアキも解っていた、だから竜を呼んだのだ。

 退院した後、綺羅は竜の世話になっていたのだが、フラッと何処かへ消えてしまった。

 竜は一つの所に留まっているのが、怖いのだろうと言った。綺羅の身体の傷は養父の付けたものだと本人が話したという。二度と見つからないために何をすべきか、綺羅は本能のようなもので知っているのだろう。

 でも、何故かほっとく事が出来ず、アキは綺羅を探すことにした。竜の助けもあって綺羅を見つけることが出来たが、竜の所へ戻れとは言わず連絡先だけ交換した。

 そうして、時々連絡をとりながら会っていたのだ。

 綺羅は用心深かった。

 人を信用することはなかったし、自分の食べ物から目を離すこともなかった。

 細かく家の中を探した結果、タンスと壁の間の隙間に綺羅の携帯を見つけた。

その中には音声が録音されていた。

 はっきりとは聞こえないが、足音、何かを持ち上げるような動作音のような雑音が聞き取れた後、初めて肉声が聞こえてきた。

 「今井さんは三人っていってなかったか?」

 「人数はいつもピッタリじゃない、引き上げるぞ」

 会話はこれだけだった。

 だが、アキには僅かに聞こえたその会話に登場した「今井」という人物に心当たりがあった。

 その男がどんな男かも知っていた。

 「今井」を追いかけ二年近く経っていた。

 ようやくそのしっぽの一端までたどり着いた。

 二年、綺羅が生きていることを願っていたが、生きていることが地獄のような生活に戻っているだろうという事を考えると、どちらがいいのかアキには判断できなかった。

 それでも、アキは綺羅の無事を祈らずにはいられないし、綺羅を探すことを止められない。

 あの薄暗い森で自分は光を見つけた。

 綺羅が生きているなら、アキはその光になりたかった。


 隣で枕を抱きしめて眠る男をアキは見つめた。

 一度一緒に今井絡みの仕事をした。

 心がザワっとする、一緒にいると落ち着かない、ちいはそんな男だった。

 二度目に偶然あった時、飲みに連れて行った。

 竜に見て欲しかったから。

 あの日飲んだ後、竜はアキにこう言った。

 「チンピラじゃないね、勘だけど刑事じゃないかしらね」

 その言葉に驚いたが、納得もした。

 だから、三度目に会った時何も隠さずそのままを見せると決めた。

 自分一人では助けられる者も助けられない、ここは地獄の入り口でしかないのだから。



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