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翠三葉(あおいみつは) は 翠朋也(あおいともや) で出来ている  作者: 椛こま


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翠三葉は翠朋也で出来ている  


 アキがそのことに気が付いたのは、奇跡としか言いようがなかった。

 天の采配とでもいうような、偶然の賜物だった。


 少年院を出た後、アキは東京に出てきた。人がたくさん居るところが一番隠れやすい、そう思ったからだ。

 定職に就く気は元々なく、日雇いや短期の金になる仕事ばかりを選んで働いた。三年、休まず働いたらそこそこ金も貯まった。

 この頃になってやっと外へ出かけてみようという気分になった。アパートとその日に働く場所以外はコンビニに寄る、ただそれだけの生活を送っていた。

 森を出て、少年院に入った。

 普通の人が生活するという一般社会とはどういった場所なのだろうか?

 自分と社会が繋がるとはいったいどういう感じなのだろう?

 自分と世間の間には大きな隔たりがある、今でもそう思っている。だからと言って、一人で生きていくという選択肢はアキにはなかった。

 凜が誰かのために生きる事、光咲が誰かと共に生きる事を教えてくれた。

 人として生きる、それは誰かと繋がって生きることだ。

 アキはどうしても背を向けようとしてしまう世間に、勇気を振り絞って一歩を踏み出した。

 友達100人できるかな?とはいかなかったが、何とか知り合いもできた。仕事も長期で働けるようになった。

 こうして世間の波に出てもなかなか明るい昼間には馴染めなかった。逃げているつもりはなったが深夜から早朝に働くという生活が板についてしまった。知り合いも何かしら欠けている人間が大半だ。でも、生活は落ち着きをみせ、アキはその生活で満たされた。

 自分に余裕が出てくると、今まで見えていなかったものが見える様になった。

 それは夜の街に取り残されている若者たちだ。

 アキは行き場のないこの若者たちと少しづつ繋がりを持つようになった。

 その繋がりは細い糸のようではあったが、溺れた者を引っ張り上げるぐらいには強靭だった。

 その日もその細い糸で繋がった綺羅という女の子を訪ねて、たまり場になっていた空き家に向かっていた。

 都会の一角にありながらその存在感を全く感じさせないその家が視線に入ったその時、アキは異変を感じた。それはアキに備わった野生の勘の知らせだった。

 何も見えないような闇の中、人が動いている、それも一人ではなく複数の人間が。

 アキは息を潜めすぐそばの家の庭に入り、その庭の木陰からその家を窺った。

 街灯の灯りがない。

 いつからないのか?ふと疑問が浮かぶ。二週間前にここへ立ち寄った時にはあった。この通りは民家がそれなりにあるにもかかわらず薄暗い道だったが、確かにこの先にも街灯があった。

 あの森が嘘のように感じるようになった今でもアキは夜目がきいた。

 何かを運び出している。

 アキにはその様子が手に取る様にわかった。

 すぐに近づくには危険だと警戒した。一週間遠くからその家を見張った。

 家には何も起こらなかった。アキは意を決してその家に行った。以前に立ち寄った時と全く変わっていず、玄関には鍵が閉まっているが、裏口は開いていた。

 家の中も雑多に散らかったままだ。コンビニの袋、弁当の空き箱、食べ散らかしたお菓子の袋が散乱している。その時々で何人もの人間が出入り、寝泊まりしていた様子。すべてがそのままだ。ただ、誰もいない。

 綺羅はいつでもここに来れば仲間がいると言っていた。

 「昼も夜も?」と聞くと「うん。だからまったく寂しくない」と笑った。

 どこかへ連れ出された。

 アキは部屋の中に連れ出した人間の痕跡を探した。

 あの日ここに何人の人間が居たかは分からない。でも、アキが目撃した様子だと、運び出された人間は無抵抗だった。眠らされていたとアキは思う。

 アキは食べかすや、飲み残しのペットボトルを見つめた。

 何かを盛られた、そう察しは付くがアキにそれを確かめるすべは勿論ない。

 もう一度、部屋全体を見渡す。

 ここにたむろしていた無分別な若者たちが、ただいなくなった。あの日の事を目撃していなければ、今まで放置されていたが、近所の人間の苦情を本気で警察が聞いて補導に乗り出したとも考えたし、気まぐれな子たちが急にねぐらを変えることもあると考えただろう。

 だがアキは目撃した、そしてそうして人がこの世から急にいなくなる事実をアキは知っていた。

 脳裏に薄れていた怪物のつぶやきが聞こえた。

 「うまく攫って行くやつらがいるんだよ。俺は一人だけど、あっちは何人も連れて行く。くくくく」

 アキはしばらくその場に佇んだ。

 そして、ゆっくりすべての部屋を調べた。連れ出した人間の痕跡ではなく、連れていかれた人間の痕跡を探して。



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