翠三葉は翠朋也で出来ている
「ちょっと三葉」
追いかけてくる環を振り払うように三葉は身体をくねらせた。
ナースセンターに駆け込むとその奥の休憩室に逃げ込む。
休憩室には先約が二名いた。
先約の美子と吉野は駆け込んできた三葉と環をポカンと見つめた。
「三葉~」
環の声に三葉は耳を塞いだ。
「どうしたんですか?」
口を開けたままの吉野の横腹を軽く叩きながら、美子が聞いた。
三葉は耳を塞いだまま首を横に振った。
「院長どうしたんですか?」
質問の矛先を変える。
環は二人のほうに視線を向けた。
「よし、二人に聞こう」
しっかりと二人の方に向き直ると環は話し始めた。
「私の天使がこの頃ことに多く私を無視するのよ。だから、浮気してるんじゃないかって」
「えっ、ありえん」
美子は即答した。
「えっ、何でですか?」
美子の答えに吉野が反応する。
その吉野に美子は手でまあまあと答えると、
「で、翠先生は何でこんな感じに?」
耳を塞いだまましゃがみ込んでいる三葉を指した。
「一度一緒に後をつけてと頼んでいるから、かな?」
惚けた顔で環が答えた。
美子は指で丸を作って「了解」と環に示すと吉野の方に向いた。
「なぜ浮気があり得ないかと言うと、院長の天使は一回しか会ったことない私でも院長にぞっこんだと分かるからです」
「あら、そう」と環が顔を赤らめる。
「そうなんですね。僕も会いたいな~」
吉野は間の抜けた返事をする。
「院長はすごいですね、堂々としていて。僕、院長のパートナーが同性だと知った時びっくりして『ヒャ』って言っちゃいましたよ」
美子はその場に居たから知っている、確かに吉野は「ヒャ」っと飛び上がった。そして、その場に居た聡里に冷たい視線を浴びせられていたのだ。
「吉野くんはゲイなの?」
このことは、救急の看護師全員が心の中でそう思っているが誰も口には出したことはない。
「さすが院長・・・」
ズバリ聞かれて固まった吉野を気の毒に見上げる。
「まあ、いいわ。君のセクシュアリティはこの際」
「えっ、この状態で放っておくんですか?」
美子を無視して環は続ける。
「では、話を戻すが、付き合ってから今までこんなに連絡のレスポンスが遅かったことないのよ。電話には出ないし、仕事が忙しいとかいうけどそれは絶対うそなのよ」
「どうしてですか?難しい患者さんを抱えたとか?ないんですか?」
「ない。確かめたから」
「確かめたんですね」
美子は言葉を失くす。
「それは確かめるでしょう。こっちは浮気の心配をしてるのよ」
「そうか、裏はとりますね」
「でも、本当に浮気はないと思いますよ。私、そういう感いいんです」
環は、顎に手を置いてじっと美子を見つめた。
「一回しか会ってないのに?そんなことわかるの?」
「というか、院長がそんなに自信がないことに驚きますわ」
環は黙り込んだ。
確かに、今の自分の行動は不安の表れだ。
「でも、仕方ないじゃない不安なのよ」
本音が口から零れる。
「院長、可愛いい」
吉野の口からも本音が零れる。
「ホントね~」
美子も同意してしまう。
二人の言葉に顔を赤くしながら、環は矛先を変えた。
「だから三葉~、お願いよ。一緒につけてよ、今日は運よく私たち二人とももう帰れるのよ」
まだ、しゃがみ込んでいる三葉の上にそのまま覆いかぶさった。
その重さにしばらく耐えてはいたが、三葉は突然立ち上がった。
「いい加減にして下さいよ。いいですか、さっき高部さんも言ったように、凜先輩は絶対に浮気してません。今までにない行動をとられて、環先輩が不安なのもわかりますが、絶対に浮気じゃない」
「なんで、わかるの」
「そりゃわかりますよ。一緒だから。私が朋也さんだけを好きなように、凜先輩も環先輩だけが好きなんですよ。多分他の人は動物と同じなんです。私がそうなので」
「え、私たち人ですらないんですか?」
美子は突っ込まずにはいられない。
「そう、近くに居れば情は湧くけど、恋愛対象になんてなりませんよ。絶対に浮気ではないです」
言い切った言葉に感動したらしく、環はがしりと三葉の手を掴んだ。
「ありがとう、三葉。じゃ、最近の凛はどうしたんだと思う?」
三葉は握られた手をほどこうともせず、環の目を真剣に見返した。
「本当に知りたいんですか?」
「もちろん」
力強く環は握る手に力を込めた。
「浮気より、怖い事だと思いますよ。いいんですか?」
念を押すように三葉は環の目をしっかり見つめた。
なんとなく美子と吉野も顔を寄せる。
環もしっかり目を見返した。
「大丈夫」
その強い言葉に三葉は頷いた。
「分かりました、尾行しましょう」
三葉の返事に美子と吉野は一歩引いて顔を見合わせた。




