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翠三葉(あおいみつは) は 翠朋也(あおいともや) で出来ている  作者: 椛こま


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16/44

翠三葉は翠朋也で出来ている 


 今井に呼ばれて出向いた所は、郊外にある工場地帯の倉庫だった。大型トラックが二台納まるぐらいの広さの倉庫で、中はがらんとしていた。

 「そこにいて待て」という指示だったので、ただ待った。

 深夜も1時を越えた頃、倉庫のシャッターが上り、一台の車が入って来た。

 ヘッドライトの明かりが眩しく目を細めながら、車を見つめた。

 その中型トラックの運転手はシャッターを閉めた後ゆっくりと車を下りた。

 「はいよ」

 運転手が言う。

 朋也はただその顔を見つめた。

 運転手もそれ以上何も言わない。

 お互いに無言で数秒相手の顔を見つめる。

 「積み荷を降ろせ」

 やっと運転手が口を開いた。

 朋也は無言で立ち上がりトラックの後ろに回った。

 荷台のドアを開ける。

 中には同じ大きさの木箱が積み込まれていた。

 木箱は大人の男が丁度抱えられる大きさだった。持ち上げたらそこそこ重い。

 内心これを全部下ろすのかと舌打ちをする。

 朋也は黙々と作業を続けた。箱は全部で23個あった。

 「終わりました」

 朋也が座っていた椅子に腰かけタバコを吸っていた運転手に報告する。

 運転手はめんどくさそうに視線を動かした。

 「何だ口聞けるじゃねーか。8だ」

 それだけ言うと車に乗り込んだ。

 「どういう意味?」

 朋也は大声で男に尋ねた。

 「引き取りに来た奴に言え」

 男は窓を開けそれだけ言うと車を出した。

 朋也はまた座って、次の車を待った。

 明け方の4時を過ぎた頃、引き取りのトラックが入って来た。

 今度の運転手は下りると朋也には一瞥もせず荷物を積み込み始めた。朋也もそれに倣うように荷積みをする。最後の一箱を積み込むと、ドアを閉めている運転手の背中に「8だそうです」と朋也は声をかけた。

 軽く頷くと運転手はそのまま車に乗り込み出て行った。

 がらんとした倉庫に佇み朋也は腰をさすった。

 「何だ、この仕事」

 この倉庫に三日間いる約束だった。倉庫の隅に用意された簡易ベッドの場所に移る。何処から引いてきているのか電気だけは通っていて、電気ポットと大量の水とカップラーメンだけが用意されていた。ベッドに座りお湯を沸かしてカップラーメンを作る。机がないので床に置き三分待つ。

 カメラやマイクがどこかに仕掛けられているかもしれない、余計なことは出来ないし、言えない。

 自分の携帯は迎えに来た男に持っていかれた。

 つまり何もすることがない。

 朋也はラーメンを食べると、ベッドの上で身体を丸めて眠った。

 三日ともその繰り返しだった。変わった事と言えば荷物を引き取りに来る男に告げる「番号」だけだった。三日目の荷積みが終わると、見計らったようなタイミングで別の車が倉庫に入って来た。

 車から降りてきたのは今井だった。

 今井は何もかもが普通の男だ。すごく整った顔をしているわけでもなく、他に引けを取るほど不細工でもない。どこにでもいる顔をしている。身長も人並みで178cmの朋也より明らかに低く太っているわけでも痩せてるわけでもなかった。人込みに紛れたら簡単には見つからない、そういう容姿をしていた。

 「ご苦労様」

 にこやかに笑いながら近づいて来る。

 朋也は立ち上がって軽く会釈をした。

 「これ、君の携帯ね」

 差し出された携帯を受け取ると、軽く画面に触る。

 画面が明るくなり、いくつかの通知が映し出された。

 「友達、多いね」

 「そうですか?」

 今井の質問に答える。携帯の電源は落として渡していた、中身を調べたのだろうか?出来たか出来なかったかは分からないが、待ち受け画面は見たということだろう。

 「少ないと思ってますけどね」

 「そう、割とブルブルしていたけどね」

 朋也は返事をしなかった。

 「車乗って」

 今井はそう言うと自分はさっさと車に乗り込んだ。

 朋也は後部座席に乗った。

 「何で後ろ?」

 バックミラーを見ながら今井が声を掛ける。

 「臭いから」

 三日風呂に入っていなかった。自分でも分る。

 「アハハハ」今井は噴き出した。

 「いや、そう、確かに臭うね」

 「チイだっけ?君面白いね。ゲイなんだっけ?だから繊細なのかな。この仕事を何人もの子に頼んだけど、明けの日に身だしなみ気にしてる子はいなかったよ」

 面白いと、また言うと今井は車を出発させた。

 20分ぐらい走った後、信号待ちをしていると突然封筒を後ろに投げてきた。

 「これ、今回の報酬」

 朋也は中身を確認する。10万入っていた。

 「ありがとうございます」

 実質身体を動かしていた時間は1時間ぐらいなのを考えると高報酬だと言えるかもしれないが、三日間24時間拘束されていることを考えるとそうでもないように思える金額だ。

 「また来月頼むわ」

 「来月も3日から5日ですか?」

 「いや、来月は8日からだ。同じように男が迎えに行く」

 「分かりました」

 その後は会話もなく駅近くの交差点で停まると降ろされた。

 走り去る車をじっと見送ると朋也は根城となっているアパートに向かった。

 二階建ての木造のこのアパートは周囲から孤立したような姿をしている。一階に三部屋、二階に三部屋。一階の一部屋を除いて、どこも六畳の部屋と三畳の台所、シャワーのみのバストイレという間取りだった。一階の角に庭付きの部屋がありそこにこのアパートの大家が暮らしていた。資産家だというこの老婆のたった一つの願いがこのアパートで死ぬことだという。

 カンカンとどこか懐かしい金属音を聞きながら、朋也は階段を上がった。上がってすぐの部屋が朋也、いやちいの部屋だ。

 ポケットから鍵を出しドアノブに付いた鍵穴に差し込む。果たしてこの鍵に防犯効果があるのかと鍵を差し込むたびに少し笑ってしまう。

 部屋に入り、ドアノブのでべそといったボタンを押して鍵をかける。

 靴を脱ぐスペースしかない土間で靴を脱ぐと、そのまま台所を横切りシャワーを浴びに行く。

 シャワーカーテンもないためシャワーを浴びるとすぐ隣に設置されている便器はびしょぬれになる仕組みだ。しかもその洋式便器には蓋がなく便座がむき出しだった。

 でも風呂好きの朋也にとってシャワーの水量が十分あるという事実だけで満足のいく部屋だった。

 全身を石鹸一つで洗う。

 三日間の疲れがこそぎ落とされていく。

 「ああ」

 思わず声が漏れる。

 壁に手をつき、じっとしたまま頭から流れ落ちるお湯を全身で堪能する。

 「やっと生き返った」

 手を伸ばし壁に付いた棚からタオルを取ると身体を拭いた。裸のまま台所に戻り冷蔵庫からビールを取り出し飲み干す。

 そのままベッドに座り窓を開けた。

 7月も始まったばかりだが日中はかなり暑い。だが流石に夜は気温も下がり涼しい風が部屋の中を駆け抜ける。

 空になった缶を床に置くともう一本取りに行く。

 今回も長くなりそうだ。

 「いつまでも、裸でいないで」

 そう言いながらも、身体から一時も目を離さない三葉の真顔が浮かぶ。

 その無遠慮な視線に付き合い初めた頃は呆れたものだ。

 「よくそう臆面なく人の裸を凝視できるね」

 そう言うと、

 「だって、すごく好きなんだもの」

 と笑った。

 「普通指摘されたら、顔を赤らめて目を反らすものだよ」

 「そう思うなら、まず裸でいないでよ。しかも、ずっと見たかったものが目の前にあるのに私から目を反らすなんて無理だから」

 「それも普通、心の声だから。口に出しちゃダメなやつね」

 「えっそうなの?でもやっぱり無理だから。そんなに言うなら服着てよ、そしたら想像で我慢するから」

 「想像はするんかいっ」

 高校時代に一人、大学で二人の女性と付き合った。二人は半年、最後に付き合った相手も一年ちょいの交際だった。今や交わした会話も顔も思い出せない。

 三葉と交わした会話はこんなくだらないものでもまざまざと思い出せるのに。

 朋也は外に目をやる。

 遠くを見つめたその瞳は笑っていた。


 前回と同じように倉庫でただ待った。

 やはり1時を過ぎた頃、一台のトラックが倉庫に入って来た。

 運転手が降りてくる、ここまでは同じだった。でも、ここからが違った。

 「ちい兄?」

 降りてきた運転手はあきおだった。

 「あきお君?」

 驚いて立ち上がった朋也にあきおは抱きついてきた。

 「やー奇遇ね」

 あきおのテンションは高い。

 「ほんとっ」

 朋也も抱きつき返して興奮を装うが、頭は冷静にこの状況について考えを巡らせていた。

 「ちい兄は今井さんを知っていたんだっけ?」

 今ここで仕事をしている接点が今井だとわかっている、あきおの頭の回転は早い。

 「うん。あきおくんも前のオレオレの現場?」

 「そう。ちい兄に会ったのもそこだもんね。ちい兄も本当にダメ男だよね」

 「まあ、楽してお金が稼げるから、やめられないね。あきお君は長いの?」

 「そうだね、この仕事は初めてだけど今井さんからの仕事は割と長いかな」

 「そうか」

 口だけではなく身体も動かしながら二人は会話を続ける。

 「この仕事だけじゃないんだ」

 「まあ、どこの仕事もここと同じだよ。自分が何をしているのかはまったく分からない仕事ばっかりだね」

 「へー」

 「まあ、お金よければそれでよしだから、かまわないけどね」

 「そこが大事だね」

 最後の荷物を下ろして二人は笑った。

 あきおはそのまま車に乗り込む。

 「もう、行くんだ。もう少し休憩すれば?」

 「終わったら出発」

 「え、なに?」

 「12ね」

 朋也の問には答えず、番号を言うと、あきおは車のエンジンを掛けた。

 「じゃ、また明日」

 バイバイと手を振ると、車は倉庫を出て行った。



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