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翠三葉(あおいみつは) は 翠朋也(あおいともや) で出来ている  作者: 椛こま


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翠三葉は翠朋也で出来ている

 

 「どう?」

 「大丈夫でしたよ」

 沢口の問いに答えながら八木はワゴンに乗り込んだ。

 ナオに手渡されたイヤフォンを耳にはめる。

 ナオはPCの画面をじっと見つめている。

 「動き出したよ」

 「そうか」

 沢口は身を乗り出してナオの後ろから画面をのぞき込む。

 八木も首を伸ばして画面を確認する。

 「不思議なんですけど、三葉ちゃん、なんで朋也さんが嘘ついてるって分かんないんですか?朋也さんに対してだったら相当耳とか鼻とか利くんでしょう?遠くからでも心音とか瞳孔の動きとか身体反射みたいのでうそ見抜く事が出来そうなのに」

 「うそ、ついてないからだよ」

 沢口の返事に八木は首を傾げる。

 「朋也にとって仕事、とくにこういう命の危機を未然に防ぐような仕事は絶対的な使命じゃん。だから、クローバーちゃんに嘘をついて利用しているって感覚がないんだよ。罪悪感もないから動揺が表れない」

 色々な機器で狭い車内で八木は椅子の背に思い切り寄り掛かった。

 部署の設立から一緒に仕事をしている。朋也が何故この仕事に就いたかその理由も知ってる。その重さも朋也の中で脅迫に近いその信念も。それでも、そんなことが可能だろうかと疑問に思う。ただ、こうしてモニターを見て会話を聞いているだけで八木の心には三葉に対す罪悪感が芽生えている。

 目の前のモニターの中で仲良さそうに手を繋いでる笑顔の朋也が信じられなかった。

 「ちゃんと、捜査協力して下さいって頼むのは、やはりダメなんですかね」

 「そうすれば、向こうのチームにもいちお話を通さなきゃならなくなる。極秘と念を押してもそれは公になる。クローバーちゃんの能力は絶対にお前らまでで止めときゃなきゃいけない事実なんだ」

 ポンと八木の肩を沢口は叩いた。

 「そんなに深刻に考えるな。それにクローバーちゃんは朋也が仕事のことで自分に黙っていることがあるのは承知だ。騙されても仕方ないと思ってる」

 「そうなの?」

 モニターだけを見ていたナオが会話に参加してきた。

 「そうだよ。朋也のことなら何でも分かるんだ。自分への愛と仕事に対しての思いは同じ天秤に乗れないことを分かっている。朋也の仕事を邪魔しない存在であることで、愛を受け入れて貰えたし、一緒にいられると思っている」

 「でもそれなら、三葉さんにだけはちゃんと事情を説明すればいいのに」

 ナオの疑問はもっともだ。

 「そこが複雑なところだな。ちゃんと説明したらクローバーちゃんの能力を利用してることになるからしないんだと。ただデートを楽しんでもらうじゃなきゃダメなんだと」

 「何ですか?それは?かなり意味不明ですね」

 「まあ、そういうな。仕事とは比べられないけど朋也もクローバーちゃんをちゃんと愛しているんだよ」

 「愛の形は色々だね」とナオは、大きく頷いているが、八木は肩を竦めた。

 「慣れたとはいえ、鳥肌が立ちますわ。沢口さんなんでそんなに普通に愛とか言えちゃうかな」

 おお寒む、と肩を擦る。 

 「俺にはお前たちのほうが不思議だね。この世に愛をほど素晴らしいものはないし、好きになった人をちゃんと愛せるなんて素晴らしいじゃないか」

 この言葉にナオはまた大きく頷き、八木はお手上げだと手を広げた。

 「ナオは感化され過ぎで心配だな」

 「僕は父さんに会えてこれ程の幸運はなかったし、朋也さんも壮大(そうた)さんも大好きだよ」

 今日は真剣な仕事モードなので目の下まである前髪をちょんまげに結わえている、輝く瞳が眩しく、八木は諦めのため息をついた。

 「うん、ありがとう。ラブ&ピース最高」

 

 「近くに人いる?」

 三葉は立ち止まって暫し耳を澄ます。

 「いないね」

 「三葉の耳は感度は実際どのくらいなのかな」

 「感度ね~」

 興味なさそうに三葉は辺りを見渡した。

 その頬に朋也がキスをする。

 突然のことに三葉の目が大きくなる。

 「もう一度、やって」

 朋也の言葉に、ん?と顔をしかめる。

 「誰かいない?」

 ああ、と頷き三葉はもう一度耳を澄ます。

 「おお、いるね。いますよ」

 さっと北西に指を向けた。

 「距離分る?」

 「距離か~、見取り図があればどの辺かは分るかも?」

 朋也はすぐにタブレットを用意した。

 ワゴンの中ではナオが遊園地の案内図を探す。廃園になって久しかったがそれはあっさり見つかった。すぐに朋也のタブレットに転送する。

 「簡単なのしかないけどこれで分かる?」

 三葉はタブレットを覗き込んだ。

 そして周りを見渡し、崩れかけた案内板の文字を確認して地図の中に自分たちの位置を見つける。

 「ここだね」

 今いる位置から少し下った場所を指さした。そこにはホラーハウスの文字があった。

 「距離は・・・」

 「あの建物の後ろかな?すぐそこだよ」

 三葉は顔でその場所を指した。

 50メートル先に蔦の絡まった建物が見える。

 「行こう」

 立ち上がった朋也の手を三葉が引いた。

 「何?」

 「いや、もういいよ」

 「うん?」

 三葉は朋也の両手を自分の手で包んだ。

 「仕事でしょ?何があったの?」

 朋也は固まった。

 「何で?俺、動揺してた?」

 「ううん。緊張してる」

 見つめる瞳は優しい。

 朋也はため息をついた。

 「ごめん。こんな風に三葉の力を借りるのは間違ってる。でも、もしかしたら・・・」

 朋也は言葉を飲み込んだ。

 いつもの優しい顔が苦痛に歪む。

 三葉は握っていた手を離して、そのまま朋也を抱きしめた。回した手は優しく背中をポンポンと叩く。

 

 「バレてんじゃん」

 八木は椅子の背をしならせて二人を見た。

 「やっぱり愛は偉大だな」

 「ほんとだね」

 親子はにっこり笑い合った。

 「はいはい、俺がバカでした」

 八木は手を広げて降参のポーズを取ると自分の仕事に戻った。


 「それでどうしたの?」

 朋也の身体を離して、正面から見つめる。

 朋也は視線を外す。

 「ごめん三葉。本当にここでただ三葉に楽しんでもらいたかったんだ」

 「うん、気持ちは受け取った。だけど、無理だよねそれ?人探しさせる気満々だったよね」

 朋也の肩は益々小さくなる。

 「楽しく人探しをしてもらえれば・・・」

 最後の方は聞き取れない。

 「わかった、わかった。では何をすればいいか簡潔に教えて」

 朋也は一回頭を下げてから三葉に向き合った。

 「誘拐事件があった。父親はそれを娘の狂言だと思って取り合わない。でも俺は狂言じゃないと思っている」

 「その子がここに居るの?」

 「ああ、昨日携帯の電源が一度入った。でも本当に居るかはまだわからない」

 「じゃ、あそこに行ってみましょう」

  二人は頷くと、目の前の建物に向かった。

 「うちら割と大胆にここに来ちゃってるけど、大丈夫なの?」

 「いちお追跡イベントの体が整っているから、俺らは遊びに来ているだけ」

 「わかった」

 朋也と三葉はタブレットを見ながら目的地の前まで来た。

 「たぶん二人いる」

 顔をしかめながら耳に集中する。

 「一人は盛んに動いている。一人は動いてない」

 「わかった行こう」

 三葉が先に建物の中に入って行く。足取りにはもちろん迷いがない、最短で目的地に向かう。

 「ここ」

 三葉が足を止めた扉の前にはスタッフルームの文字があった。

 ここまでくれば朋也にも中の様子が分る。イライラとした足取りが部屋の外まで聞こえた。

 「三葉ここに居て」

 バンっと躊躇いなくドアを開けた。

 驚いた男の顔がドアの隙間から見えた。

 「おー、やっといたよ」

 両手を広げて男に近づいて行く。驚いた男は動けない。

 「なんだ、お前」

 やっと身構える。

 「何ってゲームの参加者だよ」

 大股で相手との距離を詰めると一瞬で後ろに回り羽交い絞めにした。男はあっさり拘束される。それを見て三葉は部屋の隅に倒れている少女に駆け寄った。一定の呼吸が聞こえていたので彼女が生きているのは分かっていた。

 脇に座り少女の肩を揺する。少女は反応しない。閉じた瞼を開き瞳孔の動きを確認する。

 「薬」

 呟いた三葉の耳に別の足音が聞こえた。

 「朋也さん、誰かくる」

 朋也は耳を押える。

 「聞こえたか?」

 「こっちでは何も見てない。どっからそいつら入ってきたのかわからない。壮大さんと父さんが今向かった。本部にも連絡した、応援ももう来るよ」

 ナオが答える。

 「分かった」

 朋也は三葉の横に駆け寄ると、少女を肩に担いだ。

 「外へ」

 入って来たドアに向かう朋也の腕を掴む。

 「こっち」

 カーテンで仕切られた奥を目で示す。

 頷くと朋也はそこまで行きカーテンを引いた。元ロッカールームだったと思われるその部屋には埃だらけのロッカーがまだ整然と並んでいた。

 「こっち」

 三葉は奥に進んで行く。

 「おいっ、どうした?あの女は?」

 後ろから怒鳴り声と物を倒す音が響く。

 二人は顔を見合わせて頷くと歩く速度を早めた。ロッカールームを抜けた先にシャワールームがありそこの窓は人が出入りできる大きさだった。先に朋也がよじ登り外へ出る。三葉は手近にあった椅子を運び窓の下に置くと、ぐったりとしている少女を軽々持ち上げ外の朋也に渡す。素早く受け取り朋也は少女をまた担いだ。窓から飛び降りた三葉は朋也の袖を引っ張る。

 「おい、窓の外だ」

 追ってきた男たちの声がする。

 「三人」

 三葉が呟く。

 その言葉を聞いて朋也は担いでいた少女を三葉に渡した。

 「応援は来てる?」

 「うん」

 三葉は頷いて入場ゲートの方を指した。

 「そう、じゃあ三葉はそっちと合流して」

 少女をお姫様抱っこしたまま三葉は頷くと、サッとキスをする。

 「後でね」

 朋也は、行って、と手を振った。

 三葉は走った。

 すぐに、応援に向かっている人間と会えると分っていた。

 朋也が追手とやり合い始めた音が耳に届いた。

 応援に来た沢口と八木の姿が目視出来た。

 向こうも気づいたのか走るスピードが上がった。

 「クローバーちゃん・・・」

 三葉の前で沢口は足を止めて弾む息を整える。八木はまったくスピードを緩めず走り過ぎる。

 自分のことを、クローバーちゃんと呼ぶこの男を三葉は記憶していた。

 「沢口主任」

 たしかそう呼ばれていた。

 沢口は感慨深げに頷いた。

 「君たちが入って来た入場ゲートに黒いワゴンが止まっている、そこへ行って。この子を置いたら、君はそこから外へ出ない様に。中に居るナオという男が後はすべてやるから」

 沢口は後ろを振り返る。

 「終わってます。三人とも捕まってます」

 「そうか、良かった。じゃ、行って。他の刑事に見つかるのはまずい」

 「分かりました」

 三葉は振り返らず入場ゲートを目指した。



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