Birds of a feather flock together.
類は友を呼ぶ。
降り立った場所は、噴水の傍であった。どういう仕組みかは分からないが、噴水の水が奇妙奇天烈な文様を浮かべながら空中を流れている。
それをぼうっと眺めていると、不意に後ろから声を掛けられた。
「おい、シュン」
囁く様な声であった。何か憚ることがあるかのような、小さい声であった。その声に振り向くと、フルフェイスの青いヘルメットを被った、性別不詳、年齢不詳の人間が立っていた。
「・・・誰?」
思わず逃げる様に一歩下がりながら問う。
「俺だよ、俺」
新手の詐欺か何かかと思いながら目を凝らすと、シールド越しに僅かに友人の面影が見えた。
「拓馬か?」
思い当たる名前を口にすると、そいつは大きく頷いてヘルメットを外した。
「こっちではタクで」
そんなことを言うそいつは確かに拓馬であった。ただ、いつもより長髪で、獣のような耳を頭に乗っけていることを除けばだが。
「お前に、そんな趣味があったとはな」
思わぬ友人の趣味に、反射的に身を引きながらそんな言葉を口にする。
「おい、誤解すんな!趣味じゃねえよ」
拓馬は必死に否定するが、それがかえって怪しさを増長させる。
「俺は獣人を選んだからな。そのせいだよ、この耳は」
拓馬からん納得のいく答えを得られたことで、身を正して拓馬と正対する。なるほど、言われてみれば確かに耳以外にも尻尾やら爪やら、おおよそ獣の身体的特徴があちらこちらに見られた。
「なるほどな。で、何でお前は獣人を選んだんだ?」
拓馬が動物好きだなんて記憶はない。動物好きでもなければ、真っ当な人族だって選べるこのゲームで獣人族を選ぶ理由が見当たらなかった。国によっては差別の対象であるらしいし、身体能力が優れているという優位性はあるものの、神秘の力を主としたものに対する耐性が弱く、慣れないと操作感に戸惑うことが多いと聞く。であれば、わざわざ獣人を選ぶ理由はどこにもないことになる。とはいえ、拓馬との付き合いはまだ1年かそこらだから、知らない特殊な理由があっても疑わしくはないわけだが。
俺の問いかけに拓馬は淫靡な笑みを浮かべた。
「獣人族は女性プレイヤーが多いらしいからな。結婚なんてシステムもあるこのゲームで獣人を選ばない理由がないだろう?」
なるほど、要するにこいつは下半身で物事を考える獣だということだ。そうであれば、確かに獣人族はこいつに相応しいのかもしれない。
「なるほど、お前らしいな」
こんなことを言っているが、現実のこいつは女性経験のないただのヘタレだ。俺が言うのもなんだが。
拓馬という人物は引き締まっているとは言い難い中背中肉の容姿をしており、性格以外にあまり特徴のない人間であった。本を読んでいることが多く、自分の世界に閉じこもりがちである印象が強かった。男相手であれば他の人と話しているところを見ることはあるが、相手が女性となれば「それを取ってください」やら「後ろに回してください」やらの事務的な内容以外話したところを見たことがない。
そんな俺の思考を余所に、拓馬が窺うように聞いてくる。
「そういうシュンは・・・シュンでいいのか?」
「ああ、おれはそのまま登録したからな」
キャラクターを作る時に散々悩んだが、結局名前を片仮名表記にしただけでそのまま登録した。ありふれた名前であるし、案外誰も本名だなんて思わないだろうとの判断からであった。
「そっか。で、シュンは・・・妖精族か?」
たぶん俺の少し尖った耳で当たりをつけたのだろう。拓馬の問いかけに、俺は首肯した。
「まあな、サイコロを振ったらこれになった」
「どうせ、他種族よりも容姿が整っているって説明文に魅かれたんだろ?」
鼻で笑いながら拓馬が図星をついてくる。
「うるせえ」
言いながら人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる拓馬を睨んだ。
確かに、拓馬の言う通りであった。キャラクターメイキングで容姿をいじれるが、種族によっていじれる範囲は変わってくるし、攻略サイトによれば妖精族は魅力の能力値に補正が付くという。せっかくの仮想世界なのだからと、俺は多少自分の顔をいじっていた。具体的に言えば、コンプレックスである顔の大きさを小さくし、目元にあるそばかすを消して、それ以外を微修正していた。知っている人が俺を見れば俺だと気付くが、たまに顔を合わせる程度ではゲームの中の俺と現実の俺を結び付けられないくらいにはなっているはずであった。
「そんなことよりも――」
にやにやと不快な笑みをいつまでも浮かべる拓馬冷めた目線を送りながら言う。
「――まずは何を始めればいいんだ?」
俺の言葉に拓馬はふと真顔になると、少し悩む素振りを見せた後、小首を傾げて言った。
「何だろうな」
知らねえよ。言葉の代わりに溜め息が漏れた。
☁
謝謝