Letdown,letdown,letdown to myself.
サブタイトルは適当です。
生まれつき自分はどこか人とは違うと思っていた。
どこがというわけではない。
何となく。ああ、こいつらは平凡に生きて平凡に死ぬんだろうなと思い。自分の将来は不明瞭ながらも、何か人とは違う特別な人間になっているんだろうなと、思っていた。
さすがに世界でただ一人の特別な人間になれるとまでは思っていなかったが、それでもまあ、普通の人からは羨まれる程度にはなっているんだろうなと、漠然と考えていた。事実、学校の成績も悪くなかったし、運動もできる方であった。何であれ、人並み以上に卒なくこなせていた。
そう、思っていた。
何かが違うと気付いたのは、高校に入った頃からであった。
最初に分かったのは、自分は人並みにしか勉強ができないんだなということであった。
進学した高校は、進学校と言える程度には偏差値が高かったが、良かったのは入るまでで、入ったあとはさめざめと現実を突きつけられるだけであった。試験の順位は下から数えた方がずっと早く、授業について行くのがやっとであった。
それでも自分には運動があるんだと思っていた。いや、そう思わなくては自分の自尊心は保てなかったのだろう。
結局、それもすぐに自分が自分自身に抱いた幻想であることに気が付かされた。
1年生の頃はまだ良かった。周囲より頭半分くらいは抜きんでていると思えていたし、実際、同学年の奴らよりは運動ができていた。小学校から続けていたバスケも他の奴らよりは上手いと思えた。
2年生になると、急に成長期が来たかのように周りの身長が伸びた。これまで周りと同程度か、それより少し高いくらいであった自分の身長は、2年生の春先になると周囲より小さいとはっきり分かる程度になっていた。上背が全てではないが、それでも上背があるに越したことはない。特にバスケはそれが顕著で、2年生の夏になると、自分の身長は下から数えて片手の指で足りる程度になり、それに比例するかのように背番号も大きくなっていった。
そうして、3年生になる前に俺はバスケを辞めていた。
☂
「くそったれ・・・」
ベッドに仰向けに寝転がったまま吐き出した悪態は、開け放した窓から聞こえる都会の喧騒に吸い込まれていく。喧騒の向こう、遠くに聞こえる救急車のサイレンが厭に鮮明に聞こえた。
もう過去のことだ。
だというのに、未だにそれは俺に追い縋り、後悔なのか、諦念なのか、失望なのか分からない感情を胸の内に沸き起こす。
いや、縋っているのは俺自身なのかもしれない。縋って、幻想を抱いて、現実に失望して、また過去に夢を見る。そうやって今を惰性に生きて、それが何を生むわけでも、何になるわけでもないことを知りながら、そう生きるしかないと自分に言い聞かせて、言い訳にして。
「・・・・・・」
もう一度吐こうとした悪態は、言葉にならずに消える。
代わりに俺は小さく舌打ちを打った。
自分の思い出したくない過去に。そんな過去を嫌でも思い出してしまう自分に。割り切れない自分に。まだどこか縋りついている自分に。そして、鳴りやまない救急車のサイレンに。小さく打った舌打ちは、一瞬だけ音を発すると、鳥が下手くそに囀ったような不快な音を耳に残して、消えて行った。
ぼんやりと天井眺めながら、またさもないことを考え、自己嫌悪に浸る。
☂
高校を卒業して進学した先は、第一志望の大学でも、県内の国立高校でもなく、さして行く気もなく受けた滑り止めの私立大学であった。それも所在地は、地方出身者が夢見る東京であり、自分のような人見知りが嫌う東京であった。
元から人見知りであったわけではないと思う。
ただ、高校での挫折とも言えない挫折に、俺が俺自身に落伍者のレッテルを張って、勝手に人と接するのが怖くなって、それを一匹狼だと嘯いて、ただの野良犬であることから目を逸らし、そうやって醸成された人見知りなのだ。
人と関わることが苦手なくせに、それを受け入れることはせずに、逆に独りでいることが格好いいことであると建前を並べて、そうやって目を逸らしてきたのだ。
だからなのだろう、大学に進学してもロクに友達なんかできやしなかった。勧誘されて入った映画サークルも2か月後には足を運ぶことはなくなった。ようやく出来た友達は、自分と同じように、誰にも、どこにも馴染めないような奴が一人であった。
☂
不意に、視界の右隅にメッセージが表示される。手紙のアイコンが点滅し、そこに視線を向けると吹き出しが表示される。相手は数少ない友人からであった。
「準備はできたか?」
主語も何もない、事前にやり取りをしていなければ、それだけでは何を指すのか分からない内容であった。
俺はそれに短く返事をする。
「ああ」
俺の発した言葉が、メッセージとなって相手に送られていく。手紙のアイコンが点滅し、フェードアウトした。
それを見送った後、溜め息を吐いて、静かに呟いた。
「スタンド」
スタートアップのためのコマンドワードを呟くと、視界にドラゴンが現れた。実寸大にはほど遠い、視界に収まるサイズ、両手で抱えられるほどの大きさのドラゴンが、空中を一回り旋回し、こちらに照準を合わせる。
そして、炎を吐いた。
赤々とした熱を持たない炎が視界を埋め尽くし、やがて俺の意識は電子の世界へと吸い込まれていった。
感謝。