第0話 /神は死んだ
「痛ててええ」
眼が覚めると尻餅をついていた。
目が覚めるよりも前に尻餅をついていたのかも知れないがそれはどうでもいい。
目の前にはガサガサで質の悪い触ると怪我しそうな看板があった。
「この先ジゴク。期限ハ、なし。神の部屋たどり着いたモノには転生サズケル」
「今月モ神の部屋到達者数ハ0」
その横にも看板。
「先月モ神の部屋到達者ハ0」
上の2文字しか変わらない看板が100mほど並んでいた。
ああ、そうか。僕は死んだのだった。
ハッカーだった僕は国家転覆を企てているとしてテロリストとして指名された。そしてある秋の冷え込んだ朝特殊部隊によって射殺されたのだった。
事実、僕が企んでいたのは国家転覆ではなく世界の秩序の破壊だったが……
うーーーん、目指すか、神の部屋。
まるで、深夜にコンビ二に行くときのノリで目指した神の部屋であったが、苦労の連続という言葉では軽すぎるほど、試練の連続だった。
そりたつ山の連続、ある時は一面溶岩の灼熱地獄、ある時は一面氷の世界。
何度も死に、何度も同じ道を通った。死の恐怖は死ぬ度に強くなった。
一緒に神の部屋を目指していた仲間が次々と死に、あるものは1回目の死であるものは2回目の死で精神を壊していった。
これは死んだものにしか分からないが、普通ではない死に方というのはあまりにも苦痛なのだ。
僕は死ぬ度に腕に正の字を熱した石で書いていった。
死の恐怖に打ち勝つために。
そして腕の正の文字が10を超え、左手だけでなく右手も埋まりかけていたころついに神の部屋が見えてきた。
神の部屋へと続く階段を一歩一歩と上ること2日。地獄に降り立ってから何日が経過したのか最早分からなくなっていたが、僕はようやく神の部屋にたどり着いたのだった。
戸を叩き中へ入ると机一つと向き合うように椅子が2つあり、正面には使い古されたものではなくツルツルとした綺麗な深緑色の黒板が置かれていた。まるで生徒一人の教室のようだった。しかし異質なのは、机の上に古いダイヤル式の黒い電話機が置かれていて、その横にはお菓子と紅茶が淹れられていた。そして一枚のメモ。
「天国にいます。緊急時や神の部屋へたどり着いたものは電話機で510へおかけください」
テレビCMの番号じゃあるまいし……と思いながらも電話をすると馬鹿長いBGMの後で自動音声が流れた。
「お待たせしました。BGMを聴きながら紅茶が飲めるようにという神様の配慮なんですよー。」
まったくいい迷惑だったが、淹れられた紅茶は今まで飲んだ飲み物で一番美味しかった。
「あと20秒ほどで神はそちらへ参ります。しばらくおまちください」
神はそのほんとに20秒後に一秒も違わずに来た。
まるで後ろでずっとスタンバイして数えていたようでもあった。
まばたきをした間だろうか気がつくと目の前に神が座っていた。
神というよりかは、競馬場のおっさんの方が似合う風貌だったが……
人を恐れたことのない僕だったが、神は別のようで自然と木で出来た背もたれの硬く座高の低い椅子から立ち上がっていた。
「ここまでの道のりご苦労じゃった。実に645日ぶりの来訪じゃ。最近忙しいのう…… もう少し道のりを険しくせねばな。」
神は大きな声で笑えないジョークを笑い飛ばし、僕が座るように促した
僕は美少女へ早く転生してくれと口を開こうとした。
「その身なりで美少女はないわな」
神はそう言った。一句違わずそう言った。
古代ギリシャの哲学者ニーチェは神は死んだと著書の中に記した。
あるいはこうも記した。
「人間が神の失敗作なのか、それとも神が人間の失敗作なのか。」
僕は、こう言いたかったがそっとこらえた。
「神は生きていた! そして人間が神の失敗作だったのだ!」
すかさずに、神が続けた。
「何が神の失敗作じゃ。 全ては自分の歩んだ人生ではないか。 貴様はわしの気まぐれで天才的な頭脳を与えられた。じゃが、それを無駄にし犯罪を犯し最終的には殺されて死んだ。違うか?」
くう、神には僕の考えていることが丸わかりのようだ。
すかさず僕は反論しようとしたが、神は僕がなにかを口にする事は許さないようで、手で制止した。
なにしろここまでの道のりは、文字通り死闘であった。
こんなところで折れてられないのだが…
ずいぶんと勝手な神様なことで。
「ここまでの苦難な道のりでたどり着いたその精神力は認めよう。じゃが、おまえみたいな奴にしてやれる事はなに一つとしてない。」
そう神は冷徹に言い放った。
「貴様は次の人生をミドリムシあたりで過ごすことになるじゃろな……」
ミドリムシ…… ミドリムシだって!? ミドリムシは細胞分裂で増える生物だ…… 寿命など存在しない。つまりは、太陽が寿命を終え地球を飲み込むか、地球が核戦争で全ての生物が死滅するでもしないかぎり一生ミドリムシだろう。
僕は後者の方が可能性が高いなと思った。
まあこの際一生は既に終えているのだが。
「じゃが、待てよ。核戦争を止めよというわけではないが、世界を救ってみるのはどうじゃ?」
神よ、世界を救うのは貴方の仕事ではないのですか……
だが、ミドリムシにされるくらいなら世界を救う方がいいに決まってる。
するとまたすかさずに神。
「ちなみにわしは神とはいっても現世には降り立てんのじゃ。神は生きているが万能ではないといったところかの」
「話を本題に戻そうかの。貴様の強い精神力を神から授けられたその頭脳はミドリムシにするにはあまりにも勿体ないんじゃ…… 貴様さえよければだが、どうじゃやってくれるか? もちろんそれなりの苦労はあるじゃろが、ここへくる道のりに比べればなに一つ問題なかろう。貴様には能力も授けるしな」
そういうと神は不敵な笑みを浮かべた。
僕はすぐにやりますと言おうと口をあけようとしたがやはり神の前で喋ることはできないようで自然と口が閉じてしまったので、大きく首を縦に振った。
僕はこれが更なる苦労の連続で神に騙されたと気づくのはまだまだ先のお話である。
第一話 完
記念すべき…?(自分で言っちゃう?w)初投稿です。
至らない部分ばかりですが、頑張って書いていきます!
読んでいただいて本当にありがとうございます!
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