4.はじめてのざんぎょう/クレーマー対応
更新遅れて申し訳ありません!次回も1週以上開いてしまう予定ですが、それ以降はコンスタントに投稿できる予定です。
「王に於いては麗しゅう・・・ヘッヘッへ」
嗄れ声が広間に響く。圧倒的な威圧感で、兵士達も呆然として動く事を忘れているみたいだ。
今攻撃されても、俺には何の手立てもない。横を見ると須賀さんも呆然としている。
『須賀さんこれは』
『・・・安生くんごめん、なるべく君の生還を優先するから、目立たないでいて。』
『なるべくって・・・』
『あと、死なないで。自分に向けた不意打ちとか範囲攻撃が来たら飛びのけるように集中してて』
近衛兵たちは立ち尽くし、辛うじて王周辺の位の高そうな兵たちが王の前に出るが、全員顔面蒼白だ。何かしら能力のあるらしい王女も、前線で戦っているウルル達も恐怖しているのがわかる。
あ、コレ詰んだ・・・。
「ま、ママママ魔女め!」
大臣の中で一番偉そうで、一番無能そうな・・・そのくせ悪知恵だけは凄そうな人相の太った大臣がわかりやすく動揺する。魔女が強くて困ってんのに刺激すんなよ。俺は生きて帰るのが最優先なんでやめてほしい。
名前は確かサボラだったかな?こういう状況も相手の出方も把握しないでマウント取りに行くやつって状況悪くするだけだからやめて欲しいんだよなー。クレーマー対処とかと一緒。
・・・あ。
クレーマー対処と一緒じゃん!
一発目で俺を狙わなかったし、目的は俺を殺す事じゃないんじゃないか?
死ぬ可能性と助かる見込みがある以上、ぼーっとしてられない。力関係と敵の目的を見抜かなきゃ。俺は腹を決めて、まずは状況を観察し始めた。
「でしゃばりでないよサボラ!お前には用はない!」
ピシ!っと空間を裂くような魔法で魔女が威嚇する。
「おほッ! おっ、お前なんかに屈しないぞ!」
サボラの声が裏返ったので爆笑しそうになるが堪える。なんでそんなに突っかかるんだこいつ?
「小物が・・・王よ、また性懲りも無く異邦騎士の召還か」
「ああ。異邦女神は既に受諾をしたぞ。今度の騎士は優秀だと言う。砦に戻り首を洗うが良かろうよ」
「優秀・・・?ヒヒっ、そこで何もせずぼーっと突っ立っている無能のことかぇ?」
先の1時間の観察で、サボラが学校や職場に一人はいるような、人の遠慮につけ込んでちょっとづつ他人を蹴落とすタイプだな、というのは見て取れた。
こういう奴は、集団、力関係がまだ定まってないと特に、盛り上がってる時や力の強い人の発言に乗っかって、「いじり」のふりをしながら誰かを貶めたり、逆に冗談っぽく無礼な態度や上からの物言いを差し込んで無意識の内に自分のポジションを刷り込んで方向を歪めて行くのだが、明確に自分が勝てない時、嘘が破綻しそうな時は逃げる。
王は、良くも悪くもRPGの個性の薄い王様だ。
態度は尊大だがとりたててゲスでもないし、サボラを含め誰かの操り人形になる程の馬鹿ではなさそうだが、サボラをのさばらせてしまう程度には無能だ。
王の前で俺や他の大臣にでかい態度を取れる程度には立場を固めている状況で、危険を冒してまで魔女に喧嘩を売るような性格には思えない。
かといって魔女と戦って勝てるとも思えない。もし勝てるほど強いならならあんなみっともない狼狽はしない筈だ。
なのに、なんで噛み付きに行くんだ?・・・だめだ、推理する程情報がないので一旦おいて置こう。丁度王と魔女で本題に入りそうだ。魔女の性格と目的、そして状況を見極めよう。そう決めて俺は口を開く。
「安生という。魔女よ。今出しゃばるつもりはないので、俺が目的かどうかだけ教えてくれないか。王よ、不躾な発言をお許しを」
魔女も王も、虚を突かれた顔をする。切り替えは魔女の方が早かった。
「なるほど・・・少しは頭が回るようね・・・黙っておいで!」
バァン!今度は雷魔法のようだ。俺の足元ギリギリを直撃した。・・・あぶねー!危うく死ぬところだった!緊張はバレてしまっただろうが、それでもなんとか取り乱さずに済んだ。ヤバイときの癖で、逆に妙な笑い顔みたいになってしまったが今はこの方が正解だろう。なんとか「不敵な笑み」風に繕うと、半歩身を引いた。
『ちょっと安生くん!目立たないで!』
『ご、ごめんなさい』
ただ、おかげでいくつかわかった。少なくとも転移や複数の属性魔法を使いこなし、二度も正確に殺さない ギリギリのコントロールをやってのけた。魔女は強い。そしてもうひとつ、俺を含めて殺しには来ていない。
あと、他にもなんか違和感があるんだよな・・・。
「王よ・・・その様子だとアタシが送った親書も読んでいないようだねェ・・・サボラ辺りが握り潰したのかぃ?」
「ふ、ふざけるな!ワシは陛下に隠し事など一切せん!」
動揺の種類が違う。こいつ何かしらやってるな。印象通りだから驚かないけど。
「サボラ、控えよ」
「ハッ」
「一通目は読んださ。後は燃やすよう儂自ら命じておる。・・・国土を犯す賊と交渉など・・・まして同盟などあり得んわ」
「はて、それについても一通目で説明を書いた筈だがねェ。この国の王の目は節穴と見えるわァ」
「我が娘を!奪っておいてどの口が言うか!」
ん?初耳だぞ?
「それも知らぬと書いておいたのだがね?」
「くどいわ!」
「そうだ!シイナ王女が消えた部屋にお前の黒いローブの切れ端があり、二日後にはお前が現れ国土を蝕み始めた!言い訳の余地も無いではないか!」
「そろそろその間抜けを殺してしまいそうだわ・・・王女の件にワシは関係ない!これ以上は言わぬぞ!話が進まぬわ!」
「は!盗人猛々しい!」
またサボラが口出しする。間違いなくこいつ魔女に対して何かあるな・・・
『あのジジイ何必死に隠してるのよ・・・ああいうのやめてほしいわ』
須賀さんも考えは同じらしい。
「かの『魔』とワシは無関係だ!この無能な勇者もどきを差し向けずにおとなしく砦の権利を認めれば有事に力を貸してやろうといっておる!」
「どの口が言うか!異邦騎士殿は先ほど先ほど世界に受け入れられた!覚醒する能力でお前など討ち果たしてくれようよ!」
反論したいところだがおっしゃるとおり戦闘なんて無理なので黙っておく。
しかし、この魔女・・・。それに覚醒って?
『無事に帰るために事を荒立てないでほしいですね・・・で、覚醒ってなんです?』
『・・・ってそうだ、安生君、ごめん、忘れてた。杖と一緒に渡した指輪あるわよね?』
俺も忘れてた。
『こっちに意識向いてないからある意味チャンスかも。特殊能力とかなくて心配したでしょ?指輪を擦ってステータスオープンって念じてみて』
『?すてーたすおーぷ・・・わっ』
視界の端にブルーの小さなウインドウが現れ、色々ステータスと特殊能力一覧が書かれている。
『細かい説明は戻ってからするから、特殊能力のとこ見て。魔女に対抗できそうなのない?』
能力リストを展開し、須賀さんと意識を共有する。
・煽動Lv2
・非常食生成LV1
・エレメント感知LV0
・悪意感知LV2
・災害感知LV3
・■■■
・■■■
・■■■
『ちょ、アンタ、固有スキル5つも!しかもレアスキルばっか!さらに未開放3つも!』
『ギャグ漫画みたいなリアクションはいいんですけど、戦闘向きなスキルはなさそうですね・・・。レベルもみんな一桁だし』
『そうね・・・しかたない、こっちからだと3分くらいかかるけど、帰還の魔方陣組むから・・・』
『須賀さん、ここは俺に任せてくれませんか?』
『ちょっ』
須賀さんの制止を無視して俺は前に出た。
俺にはもう、確信があった。
「無礼を承知で王に申し上げる!この国のため、異邦騎士の務めからの発言とご理解いただきたい!」
その場のすべての目線が俺に集まった。話の流れを読んでベストなタイミングで割り込んだ。煽動スキルもおそらくうまく働いたのだろう。魔女とサボラが二の句を継ごうとするのを横目に一瞬早く俺は続ける。
「魔女どのの話にも聞くに足る何かがあると見受けました。全てを信じるのではないにせよ、精査の必要があると考えます」
魔女が、まるで若い娘のようにきょとんとした顔になり、その後見直した、という顔で俺を見つめてくる。俺の意図を理解したようだ。
「娘を奪ったこの外道をか!」
「王よ、さてはこやつ魔女とグルですぞ!」
それには答えず、ぐい、と玉座に向かいながら声を張る。
「サボラ殿は余程魔女に思うところがおありのようだが!」
サボラの顔が一瞬でドス黒くなる。漠然としたもやのような形で、悪意感知スキルがサボラの悪意がMAXなのを告げる。その一瞬の沈黙で更に玉座に近寄り、二の句を継ごうとしたサボラを制し、王や他の家臣に聞こえないようサボラにだけ耳打ちする。
「実質No.1のあなたの悪いようにはいたしませんよ。ご安心を」
虚を突かれたサボラがなんとも言えない顔になる。こんな奴、正直俺のほうが信用していないが、この場は全員を丸め込むのが重要だ。それ以上サボラには取り合わず、もう一歩、玉座の正面に片膝をつき皆に聞こえるよう言葉を続ける。
「先ほどのお話、シイナ王女の亡骸はどなたも観ていないと理解しました。である以上まだご存命であると定め、お救いするべく動くのが第一です。魔女が本当に犯人だとして、互いの怒りの感情を大きくするのこそ下策」
王ははっとした顔になる。サボラはやり取りそのものよりもさっきの俺の言葉を信じるべきか否かを定めかねているようだ。疑念はあるようだが悪意の度合いが半分以下に下がっている。
「もし魔女の言うことが真実であれば、これだけの力を持つ味方をみすみす失うことになります。王女の探索にも、『魔』への対抗としても強い味方となりうる力です。そして魔女よ」
ここで魔女の方へ向き直る。
「これだけ結界のある部屋に事も無く侵入する力がありながら、誰も傷つけていない。これだけで全てを信じる理由にはならないが、あなたがきちんと話し合いをするつもりだというのは、俺は理解した」
「ヘヘッ、偽勇者のいうことなど」
軽口を叩いたが、魔女は俺の作戦に乗る気満々だ
「だが、断りもなく国土に砦を築き、突然玉座に転移する者を人は恐れて当然だ。まして王に対して、ということであればそれはあまりにも無礼だ。これは正すべきだと俺は思う。」
魔女の反論が無いこと、須賀さんがストップをかけないことを確認し、更にサボラがひとまず静観を決め込んだことも表情と悪意感知で確認すると、再度王に向き直る。
「もちろん、魔女の言葉が全て嘘だという可能性も消えたわけではありません。ただ、両方、いや、全ての可能性に対して根拠が足り無すぎると感じます。そこで」
わざとらしく立ち上がり、それを咎めないことで王が俺の勢いに飲まれていることを確認してから続ける。
「先のパライフェル神との契約になかったことも含め・・・俺は4つのことを成すと王に誓います。一つ、『魔』が顕現するまでの情報収集と防衛の準備。一つ、顕現後の魔の討伐。一つ、シイナ王女の探索と救出・・・そして。」
もはや全員が俺の言葉の虜だ。煽動スキルと悪意感知、むっちゃ使えるな!
「魔女との調停、及び見極め。もし彼女が魔の手先であったり、王女誘拐の黒幕であったのならば、異邦騎士の名に誓って彼女を追い詰めます。そうでないのであれば、いかにしてこの国に寄り添えるのかを探り、双方に納得の出来る体制を作りたいと思います。その為に、魔女担当官として、期間、範囲限定で構いません。俺の指揮できる組織立ち上げの許可と、その任務に関する範囲に限り大臣相当の権限をいただけませんか?」
異世界転移して4時間弱、こうして俺は地球での仕事で培ったスキルと戦闘に全然向かないスキルで一国の大臣になったのであった。




