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満天の星の下で(公開当時タイトル無し)

作者: ライム姫

短編小説です。


あまり長くはないので

さらっと読めると思います。

 ―――誰もいない浜辺。


    沈み行く夕日。


    真っ赤な世界から夜の闇の世界へと変わる時。


    その少女はただ、その真っ赤な夕日を見つめていた。


    夏ももう終わりの浜辺でそっと。


    そんな少女の姿を見かけた一人の少年がいた。


    少年はしばらく少女を見守っていたが、微動だにしない少女を心配し、声を掛ける―――




 「風邪、ひきますよ」


 そう一言声を掛けると少年は上着を少女の肩にかける。


 「あ・・・ありがとう」


 少女ははにかみながら礼を言うと、再び沈み行く夕日へと向き直る。


 迷いと寂しさに満ちたその大きな瞳に少年は驚いた。


 そんな少女を見かねた少年は、少女の隣りに同じ格好で座り込む。


 そう、二人で並んで夕日を見る格好で。


 少女は大して驚きもしなかったが、ふと少年の横顔を見た途端、少女の顔色が変わった。


 「えっ・・・隆一?」


 知り合いだったのだろうか。


 少女の顔色が明らかに変わった。


 それには少年も動揺した様子だった。


 「・・・いえ。私ははやと。伊集院隼です」


 「ご、ごめんなさい。あまりにもそっくりだったので・・・」


 「いえ、構いませんよ」


 隼は優しい笑顔でそう返すと、少女もまた微笑み返し、夕日へと向き直る。


 しかし、その微笑みにはどことなく寂しさを宿していたのを隼は感じ取っていた。


 「余計なこととは思いますが、夜風は身体に障りますよ」


 「美雪・・・成瀬美雪」


 「美雪さんですか。良い名前ですね」


 二人は夕日を見つめたまま。


 お互いに拒絶する様な態度は見受けられない。


 寧ろ引き合っていたのかもしれない。


 「何か話したいことがあるんじゃないですか?」


 夕日を見つめながら再び口を開く隼。


 「優しいんですね」


 「いえ、これも何かの縁ですから」


 夕日を見つめたままの二人。


 「縁・・・ですか」


 「いえ、正直なところ美雪さんがあまりにも寂しそうな目をしていましたので」


 途端に口篭もる美雪。


 「すみません。深入りしすぎてしまいましたね」


 夕日から目を離さない二人。


 既に空は闇が支配しようとしていた。


 水平線に夕日がくっつき、後は沈むだけ。


 沈黙がしばらく続いていた。


 みるみるうちに夕日が沈んでいく。


 夕日が残り4分の3程度になった時、美雪はそっと目を瞑った。


 「ふぅ・・・誰にでもこんなこと言ってるんですか?」


 軽く溜め息をついて、苦笑しながら隼の方に向き直る美雪。


 それに対して優しい瞳で見つめ返す隼。


 「いえ、本当に気になったからですよ」


 「さっきから『いえ』ばっかり」


 「いえ、そんなことはないと思いますが」


 「くすくす・・・ほら、また言ってる」


 美雪の初めて見せる笑顔。


 まだ寂しさの色は見え隠れしているが、それは自然な笑顔だった。


 「初めて笑顔を見せてくれましたね」


 「えっ・・・あ・・・」


 同時に吹き出す美雪と隼。


 「さてと・・・それでは帰りましょうか」


 立ち上がって手を差し出す隼。


 しかし美雪の瞳はまたも悲しみの色一色に染まってしまう。


 「・・・いや。帰りたくない」


 顔を背ける美雪。


 「困りましたね」


 隼は腕を組み考え出す。


 美雪はというと、寂しげな表情で最後の夕日を見つめている。


 「ふぅ・・・こんな時期ですけど、私でよければ一晩付き合いますよ。夏ももう終わりですし」


 軽く溜め息をついた隼は、穏やかな表情で美雪から沈み行く最後の夕日へと視線を移しながら促す。


 「別に話すことなんてないから・・・」


 美雪はさっきにも増して強い寂しさの表情で頑なに拒んだ。


 「いえ、それでも構いませんよ」


 夕日の沈んだ海を見つめる二人。


 隼は全く顔色を変えなかった。


 「夜は長いですから・・・」


 そう言うと隼はゆっくりと空を見上げる。


 夕日を見続けていたせいで気付かなかったのだろう。


 美雪はその満天の星に唖然としていた。


 「驚いたようですね」


 美雪の様子に気付いた隼。


 「う、うん・・・」


 「今夜は満月なので、後ろから昇ってきますよ」


 「あ、ホントだ・・・」


 「月明かりも意外と明るいものでしょう」


 二人の視線は海から星空へと移っていた。


 「・・・好きな人がいたの」


 視線は星空に向けたままの二人。


 何も聞かずに美雪の話に耳を傾ける隼。


 「偶然再開して・・・あの時は驚いたわ・・・」


 「やっと忘れることができて・・・忘れていたはずなのに・・・」


 美雪の瞳は涙で溢れていた。


 「隆一さん・・・ですか?」


 美雪は黙っていた。


 隼も何も言わない。


 二人の視線は夜の海へと変わっていた。


 「私・・・バカだよね」


 「そんなことないですよ」


 隼は自然な口調だったが、その表情は真剣だった。


 「他の子と仲良くしてるの見るだけで落ち込んで・・・」


 しばらく沈黙が続いた。


 規則正しい波の音。


 二人を優しく包む月の光。


 「私も好きな人がいました」


 先に口を開いたのは隼だった。


 「その人の瞳には幼なじみの人しか映っていませんでした」


 おとなしく聞き入っている美雪。


 「それでも諦め切れずに、ひどく悩みました」


 そこまで聞いた美雪は隼へと視線を移す。


 「悩んで悩んで、そのときは私もここへ答えを探しに来ました」


 隼の真剣な表情と口調に、美雪は次の言葉を待つ。


 またもしばしの沈黙。


 「・・・答えは見つかったの?」


 耐え切れずに隼に問う美雪。


 「いえ、見つかりませんでした」


 強い風が吹き抜ける。


 一際大きく寄せる波。


 「そう・・・」


 再び寂しさの宿った瞳で海を見つめる美雪。


 「ただ、答えを見つけることはできませんでしたが、ちっぽけな自分に気付くことができました」


 「ちっぽけな自分・・・」


 美雪の表情がにわかに曇る。


 「どんなに悩もうと、分かっていることはひとつ。自分がその人を好きということ」


 「その気持ちが本物なら、迷うことは何もないと・・・」


 隼がそこまで言うと、美雪はひどく思い詰めた表情になってしまった。


 「すみません。なんだか偉そうでしたね」


 美雪に声を掛ける隼。


 「ううん・・・そんなことない。伊集院さんの言う通りだと思う・・・」




 ―――どれほどの時間が過ぎただろう。


    時間にすると30分程だろうか。


    二人は全く動かずに海を見つめていた―――




 「ありがとう。なんとか気持ちの整理がついたみたい」


 心から微笑んでいるとは言い難い笑顔だったが、美雪の瞳からは寂しさの色が消えていた。


 「あなたには笑顔のほうが似合いますよ」


 優しい笑顔でそう返す隼。


 「お上手ですね」


 同時に吹き出す美雪と隼。


 「ありがとう」


 「いえ、放って置けませんでしたから」


 「くすくす」


 すっかり打ち解けた様子の二人。


 「さて、帰るのでしたら送りますよ」


 「あ、う~ん・・・もうちょっと海を見てからにする」


 「海、好きなんですか?」


 「ううん、好きじゃなくて、大好きなの」


 「なるほど」


 「伊集院さんも海好きなの?」


 「いえ、好きではなくて、大好きですね」


 「まねしたわねっ」


 「はい」


 暖かい雰囲気の二人。


 月が真上から二人を優しく包む。


 「もうすっかり夜中になっちゃったね」


 「そうですね」


 月を見上げる二人。


 「あ、そうだ・・・ひとつ相談にのってほしいことがあるんだけど・・・」


 「何でしょう」


 「えっと、夢のことなんだけど・・・」


 「はい」


 「学校の先生になりたいなぁって思うんだけど・・・」


 「夢は諦めなければ必ず叶いますよ」


 「あ・・・うん、ありがとう」


 「いえ」


 「あ、あとね・・・」




 「あ・・・」


 「目が覚めたみたいですね」


 周りはうっすらと明るく、朝焼けになっている。


 「私、いつのまに・・・」


 「そうですね、かわいい寝顔でしたよ」


 「も、もうっ・・・」


 顔を赤らめる美雪。


 「そろそろ帰った方がいいですよ。あなたのことを待っている人がたくさんいるはずです」


 そう言いながら手を差し出す隼。


 「あ、うん、ありがとう」


 「立てますか?」


 「う、うん・・・また、会えるかな?」


 「そうですね。きっとまた会えますよ」


 美雪は立ち上がると、精一杯の笑顔を作った。


 「じゃあ、また会える日まで・・・またねっ」


 隼もいつもの優しい笑顔になる。


 「はい、また会える日まで」


 隼に背を向けて力強く歩き出す美雪。


 「お元気で・・・」


 そう一言口にすると、隼は朝焼けに染まる海を見つめていた。




fin

三作目となる物語です。


執筆・公開は○年(あえて伏せます)前、

学生時代の頃です。


「・・・」という部分が多くてすみません。

当時は微妙な間の表現方法がうまく出来ず、

かなり多用してしまっています。


色々と詰めが甘い部分や

作品としての設定や面白さ、出来栄え等、

完成度はかなり低く恥ずかしいのですが

思い切って投稿してみました。

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