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戦国塵芥武将伝  作者: 高部和尚
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赤沢朝経 戦人 第一話

 近畿で活躍した武将。赤沢朝経の物語。

 信濃の名門小笠原家の一族に生まれた朝経。朝経は信濃で一生を終えることを良しとせず陰謀渦巻く京に向かった。そこで運命の出会いを果たす。

信濃の小笠原氏と言えば武家の有識故実や弓馬の術である小笠原流を代々受け継ぐ家である。勿論本家だけでなく諸家も小笠原流を体得し時には他家に伝授した。赤沢家もそんな諸家の一つである。

 今代の赤沢家の当主である朝経は弓馬の術は好んだが有識故実には興味のない男であった。そして弓馬の術に関しても儀礼的なものではなく実践的なものを好んでいる。

「今の世に必要なのは儀礼ではない。戦いで勝ための技術だ」

 朝経はいつもそう言っていた。

 そんな小笠原氏の鼻つまみ者であった朝経だが、その体は大きく力も優れた。そこに小笠原流の弓馬の技術が加わり戦場では無類の強さを誇る。このころ小笠原氏は内部抗争を繰り返していて朝経もたびたび戦場に出た。そしてそのたびに活躍する。

 しかし朝経は自身の活躍を喜ばなかった。

「こんな身内同士の殺し合いで名を挙げても仕様がない」

 朝経は信濃で繰り返される一族同士の内紛に嫌気がさしていた。

「もっと大きな舞台で俺の力を発揮したいものだ」

 朝経は常々そう考えていた。

 そんな朝経に転機が訪れた。小笠原流の弓馬の技の伝授を依頼されたのである。しかも依頼してきたのは管領・細川政元であった。

 管領とは幕府において将軍の次に位置する役職である。その役目は将軍を補佐し政務を行うことで時には将軍の権威を越えることもあった。そしてこの時の管領が細川政元である。

「これはいい機会だ」

 朝経はそう考えた。もしここで政元に気に入られれば仕官できるかもしれない。もしかしたら幕臣になれるかも。そうなれば信濃の一領主とは大違いであった。

 朝経は喜び勇んで上洛した。そして政元に小笠原流の弓馬の技を見せる。

 政元は朝経の技に感嘆した。

「見事なものじゃ。赤沢よ」

「はは。ありがたき幸せ」

「その方をこのまま信濃に返すのはもったいないな」

「そ、それでは」

「うむ。このまま私に仕えよ」

「ははっ。ありがたき幸せ! 」

 結果、朝経の目論見は見事に当たったでのある。喜んだ朝経は故郷の息子に一筆送った。

「家督はお前に譲る。俺は好きにする」

 簡潔に書かれた書状に故郷の息子他一族の皆は開いた口がふさがらなかった。

 こうして細川政元の家臣になった朝経だが所詮は外様である。しかも多数の家臣を抱える細川家の一人にすぎない。いくら小笠原流の技を知っていたからと言ってどうにかなるものではなかった。

「なんとしてでも武功をたてなければ」

 まずは下から這い上がらなければいかなかった。しかし不思議と不安はない。

「俺の力ならば這い上がれる」

 朝経には根拠不明の自信がある。その自信を朝経自身が何よりも信じていた。

 

 さてこのころの室町幕府だが将軍は十代の足利義材であった。義材は九代義尚の従兄弟で義尚の急死に伴い将軍に就任している。

 そんな義材だが幕府内に味方が少なく自分の力を示す必要があった。そのため延徳三年(一四九一)の八月に近江(現滋賀県)の六角氏を征伐する兵を挙げる。これには政元も参戦した。

 この事態を朝経は喜んだ。

「俺の力を見せつけるいい機会だ」

 朝経は戦いとなれば後れを取るつもりはない。この戦で活躍して出世しようと考えていた。

 一方で主君の政元を始め周りの家臣たちは乗り気ではなさそうだった。これは政元と義材の関係があまり良くないことに起因している。

 政元は十代将軍には別の人物を推薦していた。このことを義材は気にしている。さらに将軍の権力を強化したい義材と管領として幕府を取り仕切りたい政元では目指すものがまるで違った。このことも両者の関係に影を落としている。

 もっともそんな政治の話を朝経は気にしていない。朝経自身も自分が戦いで身を立てるしかないということは承知していた。

 ところが朝経は後方で待機となった。政元のそばで護衛などの仕事を任された形になっている。これについて朝経は不満であった。

「ともかく戦場にて功を上げなければ」

 そんな思いを内に秘める朝経。しかし政元は消極的な姿勢を崩さず、代理として重臣の安富元家を派遣する。

 元家は温順でしっかりとした人物であった。ただ戦で活躍するというよりは政務で活躍するというタイプの人物である。また、気まぐれなところのある政元に翻弄される苦労人でもあった。

「此度も苦労しそうだな…… 」

 肩を落として近江を進む元家。周りの兵の士気も低い。

 ともかく元家率いる細川軍は十月には金剛寺に入った。そしてここを拠点として六角氏の攻略に当たる。しかし六角氏は城を捨てて潜伏するとゲリラ戦を展開した。これによりなかなか決付かず年も開けて延徳四年(一四九二)の三月になっていた。

 長期にわたる在陣で全体の士気も下がっていた。政元も鷹狩りに興じているくらいである。

 朝経はこの時行われた鷹狩りで活躍した。それについて政元に褒められるがそこまで嬉しくはない。

「俺は戦場で功を上げたいのだ」

 朝経の不満は募っていった。やがて朝経は数人の兵を連れ政元の陣から姿を消すのである。

 それから暫く後の金剛寺。元家は下がり続ける士気と神出鬼没の六角軍に頭を悩ませていた。

「六角殿もしぶとい」

「全くですな」

 部下もうんざりした顔で応える。

「逃げる兵や勝手に帰る将もいるそうです」

「さもありんな。私も早く京に帰りたいものだ」

「全くです。ああ、そう言えばこの前召し抱えた小笠原流の…… 」

「赤沢殿か」

「はい。その御仁も姿を消したとか」

 元家が部下の答え溜息を吐くのと同じくらいに何者かが飛び込んできた。これには元家も驚いてひっくり返りそうになる。飛び込んできたのは朝経であった。

「安富殿! 」

「き、貴殿は赤沢殿!? なぜここに!? 」

 朝経は政元の陣を飛び出した後同じく飛び出した者たちと一緒に情報を集めていたのである。そして手柄を立てる機会をうかがっていたのであった。

 驚く元家に朝経は続ける。

「そんなことより大変です。六角の者どもが兵を集めこちらに向かっています。数はこちらのおよそ倍」

「なんだと! 」

 元家はさらに驚いた。そんな驚く元家に朝経は言った。

「このままでは勝ち目はありませぬ。拙者が殿を引き受けるので一度退きましょう」

「あ、ああ。そうだな」

 朝経の勢いに呑み込まれながらも元家は頷いた。そして朝経と共に殿を引き受ける兵を残し金剛寺から撤退する。

 残った朝経は金剛寺に乗り込んできた六角兵に意気揚々と迎撃した。

「手柄じゃ手柄じゃ! 」

 朝経は襲い掛かる六角兵を弓で居ぬき寄ってきたものを切り倒す。そしてほどほどに暴れたあとで兵共々引き上げた。

「潮時だ。引き上げるぞ」

 こうして朝経は殿を成功させて元家たちと合流する。

 合流した朝経を見て元家は喜んだ。

「よくぞ帰ってきてくれた。この度は貴殿のおかげで助かった」

「何のこれしき。それより敵がまた行方をくらます前に仕留めましょう」

「ああ、わかっているほどなく援軍がやってくる。その時に勝負だ」

 元家たちは送られてきた援軍と合流し六角軍を打ち破った。こうして勢いに乗った幕府軍は将軍義材自ら金剛寺に着陣し六角氏の掃討を進める。そして一通り成果を上げると京に帰還するのであった。

 今回の戦いで朝経は細川家内で名を挙げた。元家も朝経の活躍を政元に報告する。

「此度は朝経殿に助けられました」

「そうか。あの者がか」

「この後は殿の大きな力になるかもしれません」

「ふむ、そうかそうか…… 」

 一方朝経はまだ満足しなかった。

「まだまだこれからよ」

 朝経の目はまだまだ上を睨んでいる。


 六角征伐での活躍は朝経の自信を深める結果となった。さらに軍事的才能の片鱗を細川家中に見せつけることになる。

「赤沢殿は大したものだ」

「全くだ。小笠原流の技は見掛け倒しではないという事なのだろう」

 こう朝経をほめるものもいた。一方で

「勝手なまねをして名をあげるとはどういうことだ」

「うまく殿に気に入られおって。信濃の田舎者が」

こういう者たちもいた。

 そもそも細川家は内衆と呼ばれる家臣たちの合議で運営されている部分があった。これは政元が家督を継いだとき僅か七歳であったということも関わっている。この中で有力であったのは安富、薬師寺など代々細川家に仕える家で彼らの影響力は政元も無視できないものであった。

 一方で政元が自ら新参の家臣を登用していった。勿論朝経もこの中に含まれる。こうして新たに登用された家臣たちの中から急成長を遂げるものもいた。そうした家臣たちは内衆の合議にも積極的に参加するようになる。

 さらに内衆の中でも強い権力を持つ者も現れ始めた。こうして細川家の合議体制は徐々に変化して行ったのである。

 その細川内衆において朝経は異端と言える存在であった。朝経は合議に参加して細川家の行く末を左右しようという考えの持ち主ではない。あくまで己の武でのし上がろうと考えているだけである。

 そんな朝経を細川家臣は嘲りながらも恐れるものが多かった。

 一方で朝経に積極的に近づく者もいる。その日朝経は京で政元の護衛についていた。そんな朝経に近づくものがいる。

「赤沢さま」

 朝経に話しかけたのは見慣れない少年であった。線は細いが色白の美少年である。

「誰だ? 」

「申し遅れました。私は薬師寺元長の一子、元一と申します」

「ほう。薬師寺殿の」

 薬師寺元長は細川家の重臣であった。その名は朝経もわかるほどである。その子息である元一がここにいるのは訳がある。

 朝経の主君政元は妻帯していない。これは修験道に入れ込むあまりであったが、それとは別に男色の趣味もあった。そして元一はその相手という事である。

 もっともそうした主君のプライベートな事情を朝経は知らない。朝経からしてみれば親について来たかなにかであろう少年である。

「その薬師寺殿の御子息が何用か」

「いえ、その。武名名高き赤沢さまとお近づきになれればと」

 元一は気恥ずかしげに言った。その純粋な賞賛は朝経にとっては悪い気はしない。朝経は自慢げに自分の武勇伝を話すのであった。

 こうして出会った朝経と元一。二人はのちにある事件を起こすことになる。


 朝経は細川家中で確かな存在感を示しつつあった。一方主君である細川政元は幕府内で微妙な立場に置かれている。

 このころ将軍の義材に最も近い存在であった大名が畠山政長であった。畠山家は細川家同様管領に就くことのできる家である。そんな政長の存在感が大きくなるにつれて政元の立場は微妙になっていった。

 こうしたこともあり義材と政元の関係もますます悪くなっていった。そんな中で義材は河内(現大阪府)の畠山基家討伐の兵を起こす。基家は政長と同族であったが対立していた。そこで政長は義材と接近し協力を得たのである。

 義材は義材であまり味方がいないので、政長に恩を売ることができる機会を逃すつもりはなかった。

 こうして明応二年(一四九三)の二月に義材率いる基家討伐軍は京を出発した。しかしこの軍勢に細川家の兵はいない。政元は自分の政敵である政長を助けることに反対していた。しかし義材は政元の意見を無視して兵を派遣している。

 こうした政局があって細川家の兵たちは京にとどまっていた。勿論朝経も京にいる。

「せっかくの戦だというのに居残りとは」

 朝経にとっては政局など関係ない。ただ戦功を上げられない状態に苛立っていた。だがその一方で違和感も覚えている。

「しかし戦場にいかぬのになぜ兵も将も完全武装しているのだ」

 その違和感とは細川兵たちの姿だった。京にとどまって言うだけというのに最前線のような完全武装である。さらに細川家臣の上層部もどこか落ち着かない様子であった。

「(これは何かあるな)」

 朝経は苛立ちを忘れてにやりと笑った。もしかしたら何か大きな出来事があるかもしれない。もしかしたらその中で手柄を立てられるかもしれない。朝経はそう思っている。

 果たして朝経の読みは当たった。義材たちが出発してから二ヶ月後、政元は義材の従兄弟である義高を新将軍にしてしまったのである。さらに幕府内部の協力者と共謀してこれを既成事実として広めた。

 さらに政元は朝経をはじめとする家臣たちに、京にある政長の息子の尚順の屋敷やその家臣たちの屋敷を襲撃させた。

 朝経は勇んで屋敷に火を放つ。

「燃えろ燃えろ。派手に燃やして俺の手柄を示すのだ」

 勇んで暴れまわる朝経に周りの皆は絶句するのであった。

 こうして京の敵を排除した政元は家臣の安富元家と上原元秀に兵を預け河内に向かわせる。河内にいる畠山政長と義材を攻撃するためであった。この軍勢には義材の基家討伐軍に参加していた守護たちも参加している。

 結果畠山政長は不利を悟り自決。息子の尚順は領地である紀伊(現和歌山県)に逃げ延びる。そして元将軍足利義材は拘束され京に幽閉された。

 こうして政元のクーデター、明応の政変は成功するのであった。

「これで殿の天下になるな」

 朝経は喜んだ。政元に仕えることにした賭けが成功したと思えたからである。

「あとはどうのし上がるかだ。戦でもあればいいんだがな。このあたりもしばらく荒れている方がいい」

 獰猛な笑みを浮かべ朝経はこれからのことに思いをはせた。

 この朝経の祈りが通じたからかはわからないが、義材が京から脱出するという事件が起きた。これにより争いの火種はますますばらまかれることになる。終わらない乱世の風を朝経は心地よく感じていた。


 というわけで赤沢朝経、人によっては剃髪後の赤沢宗益と覚えている方もいるかもしれません。

 この赤沢朝経と言う人は明応の政変の後の戦いで多くの活躍をした人物です。その暴れぶりたるや著名な戦国武将に勝るとも劣らないものでした。それでも知名度が低いのはおそらく活躍した時代のせいでしょう。今回の話ではまだまだ序の口ですしだいぶ創作も入っています。彼が大暴れするのはここからですのでお楽しみに。

 最後に誤字脱字等がありましたらご連絡ください。では


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