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戦国塵芥武将伝  作者: 高部和尚
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来島通総 海賊大名 第三話

 木津川の戦いで敗れた来島氏。一方で通総と海賊たちの絆は強くなった。だが時代の流れは通総に重大な決断を促す。そして時代の流れの中で来島氏はどうなるのか。

 第二次木津川合戦から二年後の天正八年(一五八〇)通総は一九歳になっていた。通総はこの年に妻を迎えている。妻の実家は毛利家臣平賀氏であった。要するに政略結婚で来島氏と毛利家の関係強化のための婚姻である。

 さて通総が嫁を迎えた頃、毛利家はいよいよ織田家の圧力を感じるようになっていた。婚姻の前年には毛利家方の宇喜多家が織田家に寝返っている。そして天正八年の始めには毛利家方であった別所長治が織田家臣羽柴秀吉に攻め滅ぼされた。その後織田家と本願寺の和睦が成立し畿内は織田家の手に落ちる。こうして後攻の憂いが無くなった織田家は毛利家との戦いに本腰を入れてきた。

 通総の婚姻はこうした流れの中で行われた。婚儀の場には河野、毛利両家からも多くの人間が出席している。

「(どうしても我々をつなぎ止めたいようだな)」

 そうした毛利家の思惑を通総はもちろん理解している。そしてこれだけ必死になるということがどういう事かも理解できていた。

「(それほどまでに織田家を警戒しているのか)」

 近年羽柴秀吉を筆頭とする織田家の中国方面軍は目覚ましい成果を上げていた。これは織田家の圧倒的な軍事力がなせる業である。そんな織田家に対して毛利家が持っているわずかなアドバンテージが村上海賊を頼みとする海軍力だった。毛利家は何が何でも来島氏をはじめとする海賊たちを引き留めようと必死だったのである。

 瀬戸内海の情勢が大きく動こうとする中で来島氏の立場は毛利家方である。ただし一応はというべきで実際のところは周囲の情勢を窺っているという状況だった。

 そんな中で吉継は通総に言った。

「若」

「なんだ? 」

「内密の話があります。後でお部屋に伺います」

 吉継はそれだけ言うと足早に去っていった。明らかに不審な様子である。

「妙だな…… 」

 相変わらずの無表情だが明らかに顔色が違った。その様子と内密という事からよほど厄介なものを抱えているのだと思われる。

「(いったいなんだ。毛利殿や河野様から厄介ごとでも持ち込まれたか)」

 通総はそんなことを考えていた。現状を鑑みると多少無茶な仕事を回されても不思議ではない。この時通総はそんなことを考えていた。

だが吉継の抱えているものは通総の考えているより厄介で、だが魅力的なものだった。

 

 その夜言っていた通り吉継は通総の部屋にやってきた。

「それで内密の話とはなんだ」

 通総は早々に切り出した。それに対し吉継も答える。

「実は宇喜多殿から内々に連絡が」

「宇喜多殿から? それで何の連絡だ」

 そう問われて吉継は黙った。明らかに話しずらそうにしている。それを見て通総は理解した。

「織田家への内応の誘いか」

「…… はい」

 吉継は観念したように答えた。かなり心苦しそうにしている。

 宇喜多殿とは前年織田家に寝返った宇喜多直家のことである。そんな人物からこのタイミングで連絡が来る理由は相当限られた。誰でも簡単に想像がつくほどに。

「(吉継としては拒否したいのだろうな)」

 吉継は根っからの親河野、毛利派である。おそらく従来ならこのような誘いは一笑に付しているだろう。しかし吉継の脳裏には木津川での大敗が刻み込まれている。さらに織田家の勢力は日に日に力を増していた。吉継が対応に悩むのも無理もない。

「今回ばかりは吉継も決めかねているという事か」

「はい」

「今まではお前が何もかも決めていたのにな」

 通総の皮肉に吉継は顔を伏せた。それを見て通総はほくそ笑む。しかしすぐに表情を引き締めた。

「それで吉継はどう思うのだ」

「は。現在織田家の勢いはすさまじいものがあります。宇喜多殿も従った以上我らへの影響は計り知れません」

 吉継の言葉を通総は意外に思った。いつもなら毛利家と河野家とのつながりを第一に口にする吉継である。実際備前(現岡山県)を治める宇喜多家が織田家に従うとなれば瀬戸内海にも織田家の影響は及ぶ。

「お前がそこまで言うのなら織田家に従うべきか」

 通総がそう言うと吉継は首を横に振った。

「しかしながらほかの村上二氏がどう考えてるかわかりませぬ。何より織田家に従えば毛利様も河野様もお怒りになるでしょう。そうなれば我らは襲い掛かってくることは間違いありませぬ」

 沈んだ表情で言う吉継。通総も毛利河野の両家に攻撃されればどうなるかということは想像がついた。通総も青い顔になる。

「それはいかんな。しかし織田家と敵対し続けて大丈夫なのか」

「私もそれが気になります。毛利様が織田殿に勝てばよろしいのですが、現状はさほど芳しくありません」

「信長殿は苛烈な方だというのも聞こえるしな」

 現状通総たちにとって毛利家は恐ろしい。だが織田家が毛利家を滅ぼせば従っていた来島氏もただでは済まない。

 通総と吉継は暗い部屋で黙り込んだ。暗い部屋を沈黙がつつむ。そして

「吉継よ」

通総が口を開いた。

「はい」

「織田家へ書状を書いてくれ」

「若…… 」

 ここに至って通総が決断したのは織田家への内通だった。

「お前は不満だろうし苦しいことにもなる。だが先のことを考えれば織田家に下るのが最善だと思う。どうだ? 」

「正直不満ではあります。しかし来島の頭は若です」

 吉継はそこで言葉を区切って通総を見た。

「従いましょう。若に」

「すまん。ありがとう」

「ですがこのことはまだ内々に進めましょう。それと毛利様と河野様とのつなぎも忘れずに」

「ああ。それについては頼む」

 通総は吉継に大きく頭を下げた。それに対し吉継は苦笑するも今回は何も言わなかった。

 こうして通総率いる来島氏は織田家への臣従を選択した。これが来島氏の運命を決定することになる。


 通総は織田家への服属を決めた。その決定は宇喜多直家経由で羽柴秀吉のもとにもたらされる。この決定を秀吉はことのほか喜んだ。

「これは吉報じゃ。殿にも知らせよう」

 来島氏服属の報は織田信長のもとにも届けられた。信長もこの決定を喜んで迎え入れたという。そしてその情報は通総のもとに書状として届けられた。この書状は通総に向けて直接出されている。

「俺宛に直接とは」

 書状が自分あてに出されたことを通総は驚いていた。今までは吉継宛であることがほとんどである。

 この事実に気を良くしたのか通総は天正十年(一五八二)の三月に改めて忠誠を誓う旨を織田家に表明した。この時点で来島氏は明確に織田家に下る。

 だが一方で毛利家もこうした来島氏の動きを察知していた。天正八年より内々に進められた織田家のとの交渉だがこの時点で毛利家にもばれていたらしい

 毛利家は来島氏を自陣営に引き留めようと説得した。だが四月の時点でそれもあきらめたらしい。同月には秀吉が毛利家の備中高松城を攻撃している。この時期に通総の弟の吉清が秀吉軍の偵察で手柄を立てたらしい。この事実をもって毛利家は来島氏が自分たちに従うとは考えなくなった。

 いよいよ毛利家や河野家と手切れが近づいてきた。通総は吉継と協力して戦いの準備を始める。

「ついにこの時が来たな」

 通総は興奮して言う。それに対して吉継は相変わらず冷静である。

「何もかもこちらが不利です。しかし織田信長様がご出座との報も入っています。それまで凌げば勝機も見えましょう」

「そうだな。勝つのではなく負けないということが重要か」

「その通りです」

 以前通総に送られてきた書状には信長が大規模な軍事行動をとるという情報が記されていた。それについては立ち消えになったようだが、のちに秀吉からの連絡で毛利攻めの総仕上げに信長自身が出陣してくるという。その時まで待てば来島氏の勝利が見えてくる。

「しかし兄上が同調してくれたのはありがたいな」

「その通りです。この折に信頼できる手勢が増えるのはありがたい」

 二人はしみじみ言った。通総の兄で得居家の当主になっていた通幸は通総と共に織田家に従うということになっている。通総にとっては心強い話であった。

「この戦が終われば我々も大名になれるか」

 通総はそんなことを言った。手柄を立てればもしかしたら縄張りが大きくなるかもしれない。そうなればもう大名だ。その時には昔夢見た通り城でも建てよう。そんなことを通総は考えている。

 それを聞いた吉継は苦笑する。

「若。まだ戦にもなっていません」

 吉継の物言いに通総は苦笑した。相変わらずの冷静さである。

 この時点で二人は状況を楽観視している部分があった。それは織田家の強大な軍事力に裏打ちされているものであり、実際その見通しはおかしいものではない。またこの時期に通幸は秀吉に援軍の要請をしていた。これに対し秀吉は高松城攻めが終わればすぐに援軍を送るという書状を出している。

 そして天正十年の五月に毛利、河野家の連合軍は来島氏に攻撃を始めた。特に河野家は家臣でもある来島氏の離反が許せないらしい。攻撃は非常に激しいものだったという。

 これに対し通総たちは何とか持ちこたえようとする。しかし物量の差か緒戦で敗北を繰り返した。

「予想以上に厳しいな」

 通総は厳しい現実に目をそらさず必死で抗った。だがそんな通総の心を折りかねない事態が発生する。

「信長様が…… 死んだ? 」

 それは織田信長横死の報であった。


 天正十年六月本能寺にて信長横死。本能寺の変である。この事件の余波は様々な場所に影響を及ぼした。そしてもちろん来島氏も影響を受ける。

 この事態に際し来島氏内部は動揺した。それもそうで来島氏の勝機は織田家の援軍しかない。だが備中で戦っていた秀吉も信長横死の直後に毛利家と和睦して退却してしまった。これで来島氏は孤立無援の状況に追い込まれてしまっている。

 この状況において通総は徹底抗戦を主張した。

「今更降伏しても遅い。いずれは織田家もまとまるはずだ。それを待って戦いぬくのだ」

 しかし来島の海賊たちの戦意は低い。さらに吉継はこう言った。

「これ以上の戦いは無意味です。来島氏の存続も危うくなりましょう」

「吉継…… お前」

「私は来島氏の存続を第一に考えています。それをご理解ください」

 吉継は冷徹に言う。通総は吉継を睨みつける。

「だが…… 」

「来島氏の存続が何より大事。そのためならどんなことでも私は行います」

 その物言いに通総は絶句した。まるで邪魔になるなら通総を排除することもいとわないと言っているかのようである。通総にとってはこれまで吉継との間に出来た絆が全て消し飛んでしまったかのように感じた。

 通総は吉継を睨んで吐き捨てた。

「ならば勝手にしろ」

「はい」

 こうして来島氏は二つに分かれた。そして毛利家と河野家相手に奮戦していた通総は天正十一年(一五八三)に敗れて来島を追われる。残された吉継は毛利、河野の両家に降伏した。

 来島を追われた通総はわずかな手勢を連れて秀吉の下に逃げ込んだ。そんな通総を秀吉は喜んで迎えたと言いう。

「よく戦ってくれた。救援が間に合わずすまんのう」

「いえ、我らの力が至らぬばかりに」

「いずれ来島に戻る時が来ればその時は手を貸そう」

「ありがとうございます」

 通総はこの対応に涙した。こうして通総は雌伏の時を迎えるのである。


 通総が来島を追われた後も兄の通幸は抵抗をつづけた。しかしそれも天正十二年(一五八四)に毛利家と羽柴家の正式な和睦がなされ通幸も毛利家に降伏する。

 この降伏後通幸は通総のもとを訪ねた。

「調子はどうだ? 」

 気を遣いながら言う通幸。そんな兄の気遣いに通総は笑って答えた。

「よくしてもらっています。ありがたいことです」

「そうか。それは良かった」

「それで兄上。来島の皆はどうしていますか? 」

 通総は複雑な表情で聞いた。あの時は吉継の言動に腹が立ったが来島氏のことを考えれば致し方ない、と理解している。しかしわだかまりがあるのも事実であった。

 通幸は弟の複雑な心境を察してなかなか話し出さなかった。しかし暫くして落ち着いて話し出す。

「皆元気にしているよ。特に吉清はお前に会いたがっているようだ」

「そうですか」

「あと、これは噂で聞いたことなんだが」

「噂? 」

「ああ。どうも来島の皆がお前を何とか連れ戻そうとしているらしい」

「俺を? なんで? 」

 通総にはわからない話だった。今更毛利家と河野家に反抗した自分を連れ戻したこところで両家の印象が悪くなるだけだろう。もし羽柴家とのつながりが欲しいのであれば吉清を当主にすればいいだけの話である。

「何のつもりだ」

「俺にはわからんよ。あと一番積極的に動いているのはどうも吉継らしい」

 それを聞いて通総はますます混乱した。

「(どういうことだ)」

 通総の頭の中はそれでいっぱいになった。ともかくに理由が分からない。

「まあもしかしたら来島に戻れるかもしれんな」

「あ、はい」

「その時はもう一度頑張ろうや」

 そう言って通幸は去っていった。残された通総はまだ混乱している。

 その後通総は噂の通り来島に復帰した。天正一三年(一五八五)の二月のことである。勿論これは毛利家と河野家の了承を得ていた。背景には秀吉が信長の後継者の立場を確保し強大な軍事力を得ていたということもある。また、来島の海賊たちは通総の復帰を強く望んでいたようだった。

 久しぶりに通総は来島に帰った。そこで見たのは白装束で正座して迎え入れる来島の海賊たちである。通総は驚き固まった。

 固まる通総の前に代表が進み出てきた。その男は以前木津川の合戦の生き残りの男である。男は通総を見上げて言った。

「頭」

「ああ」

「どんな経緯があるとはいえ俺たちは頭を裏切りました。だからどんな落とし前も付けます」

 男は高らかに言った。それはほかの皆も同じ気持ちのようである。

 通総はその気持ちを黙って受け取ると静かに全員の顔を見回した。そこに吉継の姿はない。だがそれ気にせず皆に言った。

「皆の気持ち受け取った。だがお前たちはかけがえのない仲間だ。そんな仲間を俺は意固地になって無駄死にさせようとした。本当に済まない」

「頭…… 」

「だが皆はそんな俺を迎え入れ頭と呼んでくれるようになった。本当にありがとう。できればこれからも俺を支えてくれ」

 通総は胸を張り堂々と言った。そして海賊たちは通総の言葉と立派な姿を見て泣き出す。しばらく通総は皆の顔を見回していた。そして代表の男に尋ねる。

「吉継はどこにいる」

「吉継さんは奥の部屋に」

「わかった。この場は任せる」

 通総はその場を後にして吉継のいる部屋に向かった

 吉継は暗い部屋の中で一人座っている。通康の位牌を前に白装束で。そしてしばらく瞑目していると脇差を手に取った。

「(若、いや頭は立派になられました。これからは羽柴殿の世になるでしょう。その時私は邪魔な存在です)」

 そう心の中でつぶやくと脇差を腹に突き立てようとする。しかしその腕は押さえつけられた。

「若…… 」

 吉継の切腹を止めたのは通総だった。通総は落ち着いた様子で言う。

「ここでお前が腹を切ってどうする」

「しかし」

「お前たちが来島氏存続のために背いたのだということは理解している」

「…… 左様ですか…… 」

「まだ毛利殿や河野殿との関係が切れるわけではない。お前はまだ、いやずっと必要だ」

「若、いや頭」

「吉継。これからも頼む」

 通総は頭を下げた。それを見て吉継は言う。

「頭。家臣に頭を下げるものではありませんよ」

 そういう吉継は泣いていた。通総は照れくさそうに答える。

「こればかりはなかなか治らん」

「いえ、それでいいのです」

「そうか。ありがとう」

 いつの間にか通総も泣いていた。暗い部屋の中で主君と家臣は泣きながら自分たちの絆を確かめている。


 通総は来島に無事復帰できた。通総と来島の皆の喜びが冷めやらぬ中で秀吉から指令が下される。

「来島氏は毛利家の指揮下に入り伊予に攻め入れ」

 この時秀吉は天下統一のために四国に攻め入ろうとしていた。これに四国の大半を支配する長宗我部家は反発、反抗する。毛利家は秀吉の四国攻めの伊予方面軍を引き受けることになった。そして来島氏はその先方として伊予に攻め入ることになる。

 秀吉からの指令書を受け取った通総は緊張した面持ちになる。

「これは大事だな」

 それに吉継も同意する。

「はい。この戦いの功次第で来島氏の未来が分かれます」

「ああ、そうだな」

 通総が来島に戻されたのはこういう状況を見越してのことであった。勿論通総はやる気である。だが、一つ気になることもあった。

「河野殿はどうするつもりだ? 」

 それは主君であった河野氏のことである。もっとも現在通総も吉継もそこに関する情報は得ていた。だがその情報というのが「河野家の進退まとまらず」というものである。

 これには通総も呆れた。

「この期に及んではどちらに着くかはっきりせぬと」

「…… それが出来ぬほど河野家は弱っているのでしょう」

 吉継は少し複雑そうだった。その理由は通総にもわかる。

 これまで吉継は河野家臣来島氏の名代として多くの戦いに参加してきた。近年は来島氏と河野家の仲が微妙な感じであったため疎遠であったがその気持ちは変わらない。それだけに河野家と一戦交えるかもしれないこの状況は複雑でもあった。

「吉継よ」

「なんでしょう」

 複雑そうな吉継に通総はこう言った。

「河野家に降伏するよう使者を出せるか」

「…… かしこまりました」

 そう言って吉継は少しだけ安心したようだった。

 この後河野家は毛利軍の指揮官小早川隆景の勧告を受けて降伏する。ここに来島氏がどうかかわったかはわからない。

 さて四国攻めはその圧倒的な軍事力により秀吉軍の勝利に終わった。ここに四国は羽柴家の支配下に置かれその領土を諸将に分け与えられた。

 降伏した河野家は伊予を没収されてしまった。そして代わりに伊予に入ったのは小早川隆景である。伊予の石高は三五万石である。そして三五万石のうち通総には一万四千石が分け与えられた。

 一万石を越えるとなれば立派な大名である。ここに来島氏は大名として自立することになった。

「俺が大名か」

 通総はこの厚遇に驚いた。城こそ建てられなかったがある意味で夢はかなっている。

そんな通総を通幸は褒める。

「お前が尽くし続けたことを羽柴様も認めてくれたのさ」

 この時通幸も三千石の領地を与えられている。秀吉はこの兄弟の忠節をそれほどに認めていた。

「これからは頭とも呼べませんな」

 吉継はそう言った。いつもと雰囲気が違いなんだか朗らかである。

「そう言うな。それに俺のやることは変わらない」

「変わらない? 」

「ああ。俺は来島の縄張りを守るだけさ」

 そう言って通総は笑った。それは子供のころと変わらない快活な笑みである。それを見て吉継も通幸も笑うのであった。

 こうして来島氏は海賊から大名になった。それは羽柴家が通総に新たな役目を期待しているという事でもある。そしてその新たな役目は通総の身にある悲劇をもたらすのであった。


 一時は来島を追われたものの通総、そして来島氏は大名となりました。ちなみに来島と名乗り始めたのはだいたいこの時期で、大名として再出発することになった通総の思いのようなものを感じますね。

 この後来島氏と通総は豊臣家臣の大名として生きることになります。他にも海賊から大名になったのは木津川で戦った九鬼氏などがいますが、今後は彼らと共に豊臣水軍の主力となります。なかなか因縁深いですね。いつかは九鬼氏の話も書いていたいです。

 さて来島通総の話は次に話で最後となります。正直ここで終わらせればハッピーエンドといえそうなのですが、ちゃんと通総の最期まで描く予定です。お楽しみに。

 最後に誤字脱字等がありましたらご連絡ください。では

 

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