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戦国塵芥武将伝  作者: 高部和尚
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来島通総 海賊大名 第二話

 いろいろなことがありながらも成長していく牛松丸。やがて元服し通総と名を変える。そして通総の周囲も徐々に変化していく。

いろいろあった元亀元年から三年経った元亀四年(のちに改元して天正元年。一五七三)。牛松丸も一三歳になった。この年に牛松丸は元服し通総と名乗るようになる。名前を変えた牛松丸改め通総の最初に大仕事は能島村上氏との和睦であった。

 前にも記した通り来島氏と能島村上氏は同族で能島村上氏当主武吉の妻は通総の姉であった。また能島村上氏も来島氏と同様に海賊として活動している。また双方大名同士の戦いに手を貸すこともある。そしてこの二点が双方の対立の種になっていた。

 前者は縄張りから治められる税をめぐってトラブルがたびたび発生していた。後者は近隣で起きている毛利氏と大友家の戦いの際、能島村上氏は毛利家に所属していたが不仲となり大友家側に着いた。一方で来島氏は主家の河野家が毛利家に従属していたため一貫して毛利側として活動している。実際に元亀三年(一五七二)に毛利家が能島村上氏を攻撃した時、来島氏は毛利側で手柄を立てていた。

 まさに骨肉相食む戦いを繰り広げていた両家だが元亀三年に大友家の斡旋で和睦することになる。これは大友家と毛利家との戦いがひと段落したことと、能島村上氏が毛利氏との関係修復を望んでいるという背景があった。何はともかく両者は和睦しともに毛利家の下で戦うことになる。

「これよりは両家共に戦おう」

 武吉がまだ牛松丸であった頃の通総に送った書状にはそう書かれていた。親子ほど離れた男から送られてきた文面を通総は不愉快そうににらむ。

「今まで敵対しておいて、窮地に追い詰められたらそれかよ」

 吐き捨てるように通総は言った。

「何はともあれ家の存続が第一という事です。若もそれをご理解ください」

 吉継は通総をそう諌めた。通総もしぶしぶといったふうに納得する。だが、心の底から納得したわけではなかった。

「(吉継の言っている通りなのだろう。だがやはり気に食わん)」

 通総は内心そうつぶやいた。

 さてはともかく両村上氏は和睦した。しかし和睦の翌年起きた大事件が来島氏を新たな騒乱に巻き込むことになる。

 

 和睦の翌年、元亀四年に将軍足利義昭は挙兵した。これには当時の京の政情が影響している。

義昭は尾張の戦国大名織田信長の助けで将軍職に就いた。その後も信長は義昭の後ろ盾となりつつもいろいろと義昭の活動に干渉する。そんな関係が続くうちに義昭は信長に反感を抱くようになった。そして挙兵に至ったのである。

 義昭は京で二度挙兵するも二度とも迅速に鎮圧された。そして義昭は京を追い出されて流浪することになる。しかし義昭は信長を打倒することをあきらめなかった。

 確かに義昭は流浪の身であった。しかし将軍の地位から除かれたわけでもない。その事実は大きな力を持っている。そして義昭は各地の大名や諸勢力に書状を送り打倒信長を訴えかけていった。

 天正二年(一五七四)来島氏あてに義昭から書状が届いた。内容は義昭への協力の依頼である。この書状はまず吉継のもとに届いた。これは元服したとはいえ通総はまだ若いからである。

 通総は吉継から書状を見せられた。そして内容を一読すると難しそうな顔をする。

「公方様のご依頼かぁ…… 」

「はい。やむなく都を追われたがすぐに復帰する。その時は逆徒を倒すのに協力するように、と」

「…… 本当に復帰できるのか? 」

 通総は吉継に尋ねた。来島氏でもいろいろと情報は入手している。その中であっさりと、しかも二度鎮圧されたという情報があった。通総としては其処が気になって尋ねたのだが、吉継は無表情のまま黙っている。

 しばらく二人は無言でにらみ合っていた。やがて根負けした通総がため息をついて吉継から目をそらす。すると吉継はそれを機に話し出す。こんなやり取りを二人は数年にわたって行っている。

「同様の書状は河野様にも届いている模様です」

「河野様はどうする気だ? 」

「手助けしたいところですがこちらも事情があって難しい、といった内容では返答するようです」

「でもそれは本心ではないだろう」

「無論。なお、我々も同様の回答をするつもりです」

 無表情に吉継は言った。それを聞いて通総はため息をついた。

「本音と建て前ってやつか」

「これも来島氏の存続のためです」

 ため息をつきつつも通総は納得した。今回はちゃんと呑み込めている。結局のところ誰もリスクの大きそうな厄介ごとには巻き込まれたくないということだ。それは通総も理解している。

 こうして義昭の書状をやり過ごした通総たち。ところがこの後事情が変わってくる。

 義昭は各地を転々とした後、天正四年(一五七六)に備後(現広島県)の鞆に移った。ここは毛利家の勢力圏である。この段階でも義昭は打倒信長を全くあきらめてはいなかった。当然毛利家にも信長への打倒を訴えかけた。

 このころ織田信長は西国にも手を伸ばそうとしていた。当然その気配は毛利家も察している。当時はまだ領地を接していなかったが日に日に強くなる信長の影響力は無視できるものではなかった。それゆえか毛利家は義昭の要請を受け織田家との戦いに参加することになる。

 毛利家が織田家に対抗するとなると支配下にある来島氏も当然それに従うことになる。

 毛利家からの参戦依頼を受けて通総はつぶやく。

「結局関わり合いになるのか」

「…… 我々は毛利様に従うだけです」

 相変わらず吉継は無表情につぶやいた。その時の通総にはその発言が妙に腹が立つ。

「(このまま毛利殿に従ったままでいいのか? 結局いいように使われているだけではないのか? )」

 通総はどこかやるせないものを感じるのであった。もっとも通総がどう感じようとも現実が変わるわけでもない。それは通総にもわかっている。ゆえにやるせなさはますます募った。そして通総の心の中にある思いが芽生えていく。

「(このままではただ使い捨てにされるのではないか)」

 そんなふうに通総は思っていた。とは言えまだ一五歳の通総に具体的な案が思い浮かぶはずもない。

そんな時に通総は兄の通幸と久しぶりに会った。これは得居家と来島氏の今後についての協議のためである。

協議が終わった後で通幸は通総に声をかけた。

「久しぶりだな。元気にしていたか」

「はい。兄上も元気そうで」

 そう言った弟の顔を通幸はまじまじと見る。そして

「何かあったのか? 」

と、言われて通総は固まった。そして観念したように話し始める。

「正直このままでいていいのかと」

「このままとはどういうことだ? 」

「このまま毛利様や河野様に従っていて我々の明日はあるのかと」

 そう通総は言った。それを聞いて通幸は少し考え込む。そして静かに語り始めた。

「覚えているか通総」

「はい? 」

「幼いころ伊予に城を築いてみせるといったことのことを」

 そう言われて通総は幼いころの無邪気な夢を思い出した。

「はい。思い出しました」

 幼いころを思い出して通総ははにかんでいった。そんな通総を通幸は真剣な顔で見つめる。

「もしこの先毛利様も河野様も当てにならぬとなったときは」

「ならぬ時は」

「我々は己の道を突き進もう」

「…… はい! 」

 真剣な通幸の言葉に通総は元気良く応えた。それに通幸も微笑む。そして兄弟は仲良く笑いあうのであった。

 

 こうして来島氏は織田家との戦いに臨むことになる。始めに行ったのは石山本願寺への兵糧の補給であった。

 石山本願寺は信長に敵対する一向宗の総本山である。ここは要塞化もされていて多くの武装した信者が立てこもっていた。この本願寺を織田家は包囲している。

 本願寺と毛利家は対織田信長戦線においての仲間でもある。そのため本願寺の支援として兵糧の補給を行うことになった。この補給は海路を使って行うことになっている。もちろんこの補給に対しての妨害は予想された。したがって来島氏をはじめとした海賊たちの出番である。

「いよいよ出陣だな」

 通総は来島から出陣する配下たちを見送っている。この時通総は一五歳。戦いに赴いてもおかしくない年齢ではある。しかし今回は吉継が指揮を執り通総は出陣しなかった。これは重要な戦いであり若い通総より歴戦の士である吉継が毛利氏から求められたからである。

 これに通総は内心不服であるが呑み込んだ。吉継の方が実績はあるのは事実である。

「皆、吉継の言うことをよく聞くように」

「「了解! 」」

 配下たちは勢い良くうなずいた。それを通総は複雑そうな顔で見つめる。

「吉継。頼んだぞ」

「かしこまりました」

 吉継は相変わらずの様子でうなずいた。それに通総は苦笑する。そして配下たちの顔を見眺めて叫んだ。

「我々の力を見せつけてやれ! 」

「「おお! 」」

 通総の号令に海賊たちは威勢よく声を上げた。こうして来島の海賊たちは出陣していったのである。

 出陣した海賊たちは石山本願寺を包囲する織田水軍と戦闘し大勝した。第一次木津川の戦いである。この戦闘はかなり一方的に推移したようで織田家が用意した大型船も尽く撃沈したらしい。また吉継率いる来島海賊たちも活躍したようだった。

「我々の大勝です。織田の者どもなど敵ではありません」

 帰還した吉継は珍しく饒舌に語る。通総はその戦果を喜びつつも何もできなかった自分の身をむなしく思うのであった。


 さて来島の海賊たちが本願寺に向かっているとき、通総は三島社で行われた連歌会に参加していた。こうした連歌会は様々な立場の人間が参加する。そういうわけで様々な人間とつながりを持つことができた。

「これも当主の仕事のうちか」

 正直通総は連歌会に参加するのは不服であった。連歌自体は嫌いではないがやはり配下と共に戦いに赴きたい気持ではある。だが当主としてはこうした会の重要性も一応は理解できていた。

「(ともあれまずは挨拶を、と吉継が言っていたな)」

 通総は吉継から教えられた通り参加者へのあいさつ回りに赴いた。もっとも参加者はだいたい顔見知りであったので和やかな雰囲気で迎え入れられる。

「今後ともよろしく願いします」

 参加者は多種多様な職業や年齢であったが通総ほど若いものはいない。まだまだ子供といっていい通総が折り目正しくあいさつすると参加者たちは目を細めた。

「おお、来島の若君か」

「なんともう立派になったのもだ」

 そんなふうに言われると通総も悪い気はしなかった。

 こうして通総があいさつし周りをしていると一人の男が目に留まる。そしてその男がだれかわかると通総は驚いた。

「村上武吉…… 何故ここに…… 」

 そこにいたのは能島村上氏当主村上武吉であった。武吉は通総に気付くと声をかける。

「久しいな。牛松丸」

 武吉は日に焼けたたくましい体をしている。顔つきも剛毅な感じで髭がたくましく生えていた。正直通総や父の通康より海賊らしい感じである。

「お久しぶりです。あと、今は通総です」

「おお、そうだったか」

 豪快に笑う武吉。そんな武吉に通総は疑問を口にした。

「武吉殿は何故ここに? 」

「なぜ、といわれてもな」

 武吉はにやりと笑う。その笑いはどこか通総をからかっているようだった。通総は武吉のこういうところが昔から苦手である。

「能島の衆も毛利様のお手伝いをしているのではないですか? 」

 通総が気になったのはその点だった。今回の海戦に能島村上氏も出陣している。通総はまだ若いという理由で出陣しなかったが壮年で現役の武吉が出陣しない理由はなかった。

「何、そっちは息子に任せてる」

 武吉はあっさりとそう言った。要するに指揮は息子の元吉に任せているらしい。ちなみに元吉の母親は通総の姉であるので通総の甥っ子である。通総より年上だが。

「まあこれから俺は気楽な立場という事よ。まあお前も頑張るんだな」

 そう豪快に笑いながら武吉は去っていった。その後姿を通総は歯噛みしながら見送る。だがすぐに気を取り直してあいさつ回りに戻った。

 通総はあいさつ回りを済ませ連歌会もつつがなく終わった。そして通総が帰ろうとしたとき商人たちの会話が耳に入る。

「それにしても信長様の勢いは大したものらしいですね」

「ええ。公方様を追い出してますます勢いづいて」

「我々もどうにかいい思いができますかねえ」

 それは織田信長に関する噂であった。通総はその噂が気になった。

「よろしいですか」

「はい? 」

「織田信長という方はそんなにすごい方なのですか? 」

「はい。それはもう。飛ぶ鳥を落とすという勢いだそうで」

「わしらの商売にもいろいろと首を突っ込んできますが、恐ろしくて逆らえませんよ」

「全く。これからは信長様の天下になるんですかねぇ」

 商人たちは信長に畏敬の念を抱いているようだった。それは通総にも強く感じられる。

「そうですか…… ありがとうございます」

 通総は一礼するとその場を去った。話を聞いて急に怖くなったのである。

「(皆は大丈夫だろうか)」

 連歌会の多くの参加者に畏敬される織田信長。実際信長は将軍を京から追い出し敵対するものを滅ぼしているという。そんな人物と通総と来島海賊は敵対している。

「(我々の選択は間違っていないのか)」

 通総の頭の中ではそういう考えが堂々巡りしている。それは来島に帰る船上でも、皆の帰還を待つ間でも同様であった。

 そして帰ってきた吉継はこう言った。「我々の大勝です」、と。だが

「(この先も大丈夫なのだろうか)」

 通総は吉継の報告にも心の底から喜べなかった。


 第一次木津川の合戦の勝利は毛利家と海賊たちに自信を与えた。それと同時に織田家に対する警戒感も下がる。

「海の上で俺たちにかなう者はいない」

「ああ。俺たちの海は俺たちで守るんだ」

 来島の海賊たちは口々に言った。実際大勝だったわけで海賊たちの言葉もそれほど間違っているわけでもない。しかしどうも通総には連歌会で聞いた言葉が気になった。

「今回は勝ったけど次はどうなるんだろう」

 そんな懸念を通総は抱いている。だが来島の空気はそんな懸念を口に出せる雰囲気ではなかった。

「(実際に参加できなかったからこんな気持ちになるのか)」

 通総はため息をついた。今に至るまで当主らしいことはしていない気がする。また連歌会であった武吉と自分を比べて情けない気持ちになった。

この時期通総は心に暗いものを抱えて過ごしていた。

 さて第一次木津川の合戦の二年後に毛利家は再び本願寺への兵糧の補給を行うことになった。今回も来島氏は毛利家の手伝いをすることになった。とは言え以前ほどの規模ではない。

 実は今回来島氏に要請は来なかった。今回毛利家は能島村上氏と自前の海軍だけで任務を遂行しようと考えている。これは前回の勝利を受けてこれで十分だと考えたからだ。しかし吉継は自分から志願して来島氏からも人員を派遣することを訴えて毛利家も了承した。

 今回の吉継の行動が通総には気に入らなかった。

「そこまでする必要があるか? 」

 通総はそう吉継に訊ねた。吉継は相変わらず無表情に応える。

「毛利様の下で活躍することが来島氏の繁栄につながります」

 吉継の答えは勝つことを前提にしているようだった。それも通総には気に食わない。

「そんなうまくいくか? 」

「前の戦いが全てを物語っています。織田の者どもなど恐るに足りません」

「…… そうか」

 通総は黙った。吉継はそれを通総が納得したのだと受け止める。

「それでは人員を選抜します」

 吉継はそう言うとその場を去ろうとする。だが

「吉継」

立ち去ろうとした吉継に通総が声をかけた。その声色はどこか暗い。吉継が驚いて振り向くと通総が暗い顔をしている。思わず吉継は固まった。こんな通総の表情を吉継は知らない。

 通総は驚いて立ち尽くす吉継にこう言った。

「来島の頭は誰だ? 」

 吉継は冷や汗をかいていた。それほどに通総から発せられる空気は重い。

「それは、勿論若です」

 何とか吉継は答えた。それを聞いた通総は無言でうなずく。その様子に吉継は安堵すると立ち去っていった。残された通総はため息をつき天井を見上げる。その表情は相変わらず暗い。

 

 さて、通総と吉継の間に若干のもめごとはあったものの、来島海賊は毛利水軍に同行して本願寺に向かった。数十人の規模の船団である。だがそこで信じがたいものに遭遇した。

 通総は生還した部下からその話を聞いた。

「巨大な船? 」

「は、はい。そうです」

 部下が言うには大阪湾には巨大な船があって自分たちの侵入を阻んだらしい。さらに巨大な船からは砲撃を受け多くの船が沈められたそうだ。しかも兵糧の補給も失敗したとのことである。これが第二次木津川の戦いである。

 この報告を冷静に聞いていたのは通総だった。一方普段冷静な吉継は激しく動揺している。

「こんなことが…… 」

 吉継にとっては海上の戦で自分たちが遅れを取るなどとは思ってもいなかった。普段は表に見せないがそれだけ吉継は自分たちの技量に自信を持っていたのである。

 呆然とする吉継をよそに通総は部下に尋ねた。

「損害はどれくらい出たんだ」

 そう問われて部下は悔しそうに歯ぎしりした。それを見て通総はおおよそのことが理解する。やがて部下は顔を上げて言った。

「俺のほかは生き残ったのは二、三人。あとの皆は…… 」

 そこで部下は再び黙った。そして悔し涙を流す。それを見た通総は吉継を睨み怒鳴りつけた。

「何が来島氏の繁栄だ! やらなくていい仕事でこんな死人を出してどう繁栄するんだ! 答えろ吉継」

 これまでの鬱憤をすべて吐き散らすかのように通総は怒鳴った。その問いに吉継は答えられず固まる。そして通総も顔を覆いうつむいた。通総はこの時泣いていた。

「俺がもっとはっきりと反対していれば…… 」

 通総は泣きながら言った。固まっていた吉継は通総の悔恨の言葉を聞き叫ぶ。

「若のせいではありませぬ。全て私の責任です」

「違う! 責任は当主の俺にある! 」

「違います! 」

 吉継はこれまでにないくらい声を荒げた。通総も黙っていた部下も驚いて吉継を見る。

「すべての責は私にあります。若に非はありません」

「でも」

 通総が否定するのを吉継は遮った。

「すべての責は私にある。それでいいのです」

 そう言い切る吉継。その姿を見て通総も落ち着いた。そして吉継に謝る。

「すまない。吉継」

 それを受けて吉継はこう言った。

「前にも言いましたが、主君が家臣に頭を下げるものではありません」

「そうだったな」

 通総は笑った。それにつられて吉継も笑う。そしてそこにいた部下も笑った。

 通総は笑っている部下に声をかける。

「よく帰って来てくれた。しばらくゆっくり休んでくれ」

「ですが若」

「いいんだ。生き残ったほかの皆にもそう伝えてくれ」

「は、はい! 」

 そう言って部下は立ち去った。吉継はそれを見送ると通総の前にひざまずく。

「では、私の処断を」

「そうか、なら現状をまとめて報告してくれ」

「若、それでは」

「吉継はずっと来島を支えてくれた。まだいなくなってもらっては困る。来島を立て直すことに尽力すること。それが吉継の責任だ」

 通総は堂々と言い切った。それを受けて吉継は深く頭を下げる。

「かしこまりました。ですが若」

「なんだ」

「いささか甘いようにも感じます」

 吉継は無表情に言った。それを見て通総は噴出してしまう。

「吉継は相変わらずだな」

「当然です。では私はこれで」

 そう言って吉継は去っていった。通総に背を向ける吉継の表情はとても柔らかく満ち足りたものだった。

 こうして来島氏は第二次木津川の戦いでダメージを受けた。そしてこの後来島氏を二分する出来事が起きる。そして通総は大きな決断を迫られることになる。


 今回の話で木津川の合戦というものが出てきました。概要は話の中の通りですが、実は第二次木津川の合戦の方に関して捕捉の説明が二点あります。

 一つは織田家が用意した巨大な船ですが、これに関しては鉄でできた船だとかいう説があります。詳しいことは諸研究の本を読んでいただければよろしいのですが、実際鉄の船だったかどうかはわからないそうです。今回はあくまで巨大な船だったということで話を進めました。

 もう一つは第二次木津川の合戦に来島氏、というか三つの村上氏が関わったかどうかが実は不明です。毛利家主導の海戦なんだから関わっていそうなものですがそれを示す史料が無いので不明となっているようです。今回は話の都合上関わっているとしました。これについてはご了承ください。

 さてついに織田家の圧力を通総は感じ始めました。この後通総は人生に関わる大きな決断をします。そしてそれが来島氏やほかの村上氏の運命を決めることになるのです。通総はどうなってしまうのか。ご期待ください。

 最後に誤字脱字等がありましたらご連絡ください。では


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